~人の御旗に集いしは~(4)
誰かが死ぬ事にはある程度慣れていた。右を見れば転がっているのがこの世の常と言わんばかりに、死体を目の当たりにしてきた。何より、僕自身はそうありたいと願って来た。
…けれど、その死に様はいたく気持ちが悪かった。『獣』の烙印を圧した直後、物の数刻の間に人は人を殺した。一歩間違えればきっと、パーシィはこのようにして殺されていた筈だ。
これならば死なない方がマシだとまで思える程、彼らの愉悦に僕は嫌悪を剥き出しにしていた。
「………ん?何かね君。物言いがあるのならば手短に済ませて欲しいのだが」
信徒が此方を睨む。選択の余地を許さぬ排他的な瞳は、反射的に『しまった』という焦りを脳裏に過らせる。
「いや……別に何もな━━」
「何が『獣』ですか」
賛同なんてする訳が無い。しかし余裕の無い以上はなるべく穏便に済ませたかった。だからこそ口を濁らせたが、彼女にとってそれは耐えられないモノだったようだ。
「私でも知ってます……。『人と人との争い事』は、この街では禁止されている筈ですっ!!
貴方達が烙印を圧したその人は……人の腹から生まれた人の子じゃないですか…っ!! それなのにどうして!!こんな残酷な事が出来るんですかっ!!」
優れたる知性を唄う人々は、この国に幾つかの決め事や規律を制定した。生物を『人』『獣』『蟲』に分ける位階やギルド、職業資格など。文明を構築するに当たってのモノが多く制定された中の一つにあるのが、『人の者同士で争ってはならない』という掟だった。
しかし、それは『やってはならない』『命は尊い物』なんて感情に訴えかけるモノではない。叡知への侮辱だからやってはならないのである。
「……? 人の腹から生まれた者が必ずしも人な訳ではないだろう?」
……だからこそ、その信仰心は下劣極まりない。
『叡知を侮辱した者は人ではない』。
『叡知の無い者は獣同然だ』。
『だから迫害して構わない』と、信徒の口振りはそう言いたげだった。
「英雄たるエクトル様の授けてくれた叡知を、知性を有効活用するか否か。それを腹から出てきた未熟物が判別出来ると君はいうのかい?
種の殻を被った新芽が人々を潤すと、必ずそうだと君は主張する訳だ。それが『毒』である可能性を考えずに」
「……それはとんでもない『冒涜』だよ」
━━形容出来なかった。それは恣意的というにはあまりにも強引過ぎるし、短絡的とするには湾曲し過ぎている。
訳が分からない、理解してはならない叡知派の考えは、僕とパーシィを絶句させる。