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『僕』と『先輩』の迷宮と日常  作者:
intermission5
40/63

帰路の途で

 





 昼食後、珍客達は五台が並んで進む馬車の、その中央の御者台に座ることになった。私はその馬車に並走し、馬を走らせている。


 あまり相性の良くない私と男が同じ馬車近くにいるのは、この中に捕らえた魔法師達を入れてあるからだ。ちなみに彼らを雇った元冒険者達は盗賊達と共に一台後ろの荷馬車に詰めてある。……多分死なないだろう。


「疲れていたんですねすっかり眠っている……あ、そういえば……どうやってお前、ここまで来たんだ?」


 出発してすぐに相棒だという少女が寝てしまい、彼女を抱き抱えながら手綱を握ることになった男に、素朴な疑問を問う。さらわれたキャラバンを知っていれば街道は基本一本道なので追い掛けることは可能だ……この男で無ければ。


「……………………」


「あー、その問題が無ければ教えて欲しいんだけどなー?」


 私の質問は聞こえ無いふりをした男だが、私とは反対側を駆けている班長が重ねて問うと、素直に彼を見、おもむろに袖をまくり上げた。


「え、あ、魔具、か?」


 現れた筋張った左手首には、細い金色と銀色の複雑に絡み合い模様をなす金属に、混じり気の無い黒い魔石が嵌まった、とても美しい腕輪が飾られていた。


「……魔具にしては魔力を感じ無いが」


「………………そういう『魔方陣スクリプト』も組み込んであるからな」


 班長に面倒をかけるのを厭うたのか不快そうな態度は隠さないものの、男は私の質問に答えた。


「それ以外にも色々組み込んで……その中の一つがこいつの腕に嵌めてある同一素材を使った魔具の探査機能……それを使って真っ直ぐ来た」


 ……それは、


「ええと……もちろん同意の上、だよな?」


 付き纏い行為に使えそうなそれに危機感を感じたのは班長も同じらしく引き攣った笑顔で男に確認をした。


「……まあ、おおむね……ちなみにこいつの腕輪にも同じ機能がある」


 ……なんだおおむねって、


「本当にお前達は対等な相棒関係なんだな!?」


「少なくとも俺達はそう認識している……こいつも言っただろう『共生関係』だと」


「ええと、シャーロック君はわかるが『黒竜』が得るものはなんだ?」


「……こいつには薬学等の知識と料理の腕、そして……凄まじい空間認識力があるんだ」


 薬学!? ……料理の腕は実感したが……それより、


「空間認識力?」


 どれほどの?


「……こいつには……迷宮でも一切迷わない特技がある」


 ……………………、


「それあまり吹聴するなよ」


 探索者シーカーが知ったら彼女の身が……、


「当然だろう……人は選んでいる」


 馬鹿か、と言わんばかりに私を見る男は、とても大切そうに少女の薄金色の髪を撫でた。



   *   *   *



「えーと、じゃあシャーロック君が君の到着を事前に知ったたのもその魔具の機能か?」


 男が見た目ほど危険では無いと気付いた班長が気安い感じでさらに問う……ああ、確かに……彼女は唐突に勝利を確信したな。男を見ると気安い態度を気にした様子もなく今後は髪をかき上げ右耳を露出させる。……いぶし銀の台に空色と黒の魔石が嵌まった耳環?


「それはこちらだ……これには魔力を通すと同質の魔石に思念を届ける機能がある」


 ……本当にこの男は魔具作りに関しては……今回の出張の契機になった冷凍馬車もこいつの作であるし、


「え、それスゲェじゃん! なあ、自警団に卸す予定は?」


 班長が興奮し馬から身を乗り出す……確かに便利だな。


「……別に構わないが、多分あんたは使えないぞ? これには最低で神官や魔法師になれる程度の魔力量が無いと遠距離まで届かないし、受け取れない……問題無く使えるのは俺とそこのオルギース、プルトと神官長共くらいだな」


 ……発信者だけでなく受け手にも魔力量が必要なのか、


「え、じゃあシャーロック君はマジで魔力多いんだ?」


 班長の発言はこの馬車で運んでいる男の台詞を思い返してのものだろう、


「ええ……多分望めば神官にも魔法師にもなれるでしょうね」


 ダダもれになっていないので初見では気付かなかったが……戦闘中のあれこれで気付いた。……矢に魔力を乗せるなど……始めて見たな。


「当人はどちらもなる気は無い……母親から貰った身体に異物を宿すのはゴメンだと」


 それは、


「魔法師はともかく神官にもそう言うとは……」


 確かに魔法師も神官も体内に魔力を変換する器官を宿らすが……、


「……聞く者によっては怒り狂うな」


 神官のそれは神の恩寵だと考える者が大多数だからな。


「これも人を選んで言っている」


 面倒そうに男は答えた。



   *  *  *



「……ああ、始まったな」


 馬車の中からしわがれた男の悲鳴が聞こえた。男は平然と防音と封鎖の結界を馬車内に張る。私も念の為同じそれを外側に張った。


「……どちらが目覚めたと思う? ギュスノ」


 これからの段取りを考えながら兄弟弟子に尋ねると、珍しく愉快気に口角を上げる男は、


「どちらでも変わらない……それより壊れないか、だろう?」


 上機嫌にそう言った。


「……だな……できればどちらかは残って欲しいが……魔石インクの製造は正直苦手だ」


 隣の男のせいで魔具が溢れる十三市だが、その燃料の魔石インクを作れる人間、つまり魔法師は私を含めて三人しかいないのだ。


「お前は細かい魔力操作が出来ないからな」


「……出来なくは無い苦手なだけだ」


 と、言うよりこの男が得意過ぎるのだ。そんな風に男と私が言い合ってると、


「いや始まったってなんだよ!? 悲鳴聞こえたじゃん!?」


 呆然とやり取りを見ていた班長が叫んだ。


「……子供が起きる、静かに」


「え、いやだって」


「平気ですよ班長、魔法師が真の魔法師になる為の試練に弟子が挑んでるだけですから」


「試練、って?」


「……魔法師は師の死をもって完成となる。そしてその時には大抵魔力暴走が起き……それを抑えてようやく一人前となる」


「暴走て」


「あの時は死ぬかと……実際兄弟子や姉弟子の多くが死にましたし……」


 私達があの老人を殺した時は、二十人ほどの兄姉弟子と共に暮らしていた、が、最終的に生き残ったのは私を含めても……七人、だった。


「……いや、そもそも目の前で殺人が、」


「弟子は師に生殺与奪権を握られている……正当防衛だ」


 魔法師の弟子は魔力と魔法に枷を嵌められ、師の命令には逆らえないように出来ている。それを壊すことになるから魔力暴走が起きるのだ。


「班長も弟子達を見たでしょう? ……幼い弟子には寵を与え、とうが立った弟子はぼろ雑巾のように扱う……正当防衛ですよ」


 彼らをあの男がどう扱っていたか……ああ、あの老人と同種のクズが目の前に現れるとは、


「……魔法師のルール、かよ…………はー、とりあえずその魔力暴走が終わったら知らせろ……隊を止める」


「ええ……そろそろ、ですかね」


 十分後、隊を止めてもらい開いた馬車の中には、真っ赤に染まった二人の生存者がいた。



   *   *   *



「犯罪者共は予定通り銀の神殿で魔法師達はプルトの元に」


 馬車の中と中身を清めた私は、班長から彼らの身の振り方を尋ねられ、即座に答えた。


「もちろん自由の身にする際は彼らにも銀の元での精査が必要でしょうが、プルトの元なら管理は万全ですし、彼らにも知識と言う利がありますのでしばらくはおとなしく受け入れるかと」


 十三市に流れついた当初、私達もまずは彼の元で学んだ。だからあの場所の堅牢さは実感として知っている。それにもし逃げようとも、


「彼ら程度なら私かギュスノで容易く制圧出来ますから」


 第一、神殿では魔法師は野放しにするか殺すかの二択しかない。ならば、


「私が言うのもなんですが魔法師は便利な資源ですよ?」


 互いに利用しあってからでも構わないだろう。


 何と言っても十三市に魔石インクはなくてはならないものなのだ。





  

『腕輪』


シャーロックとギュスノの左腕に嵌まっている腕輪。

素材、技法、共に一級品の魔具。

シャーロックの方には防護系の魔方陣がこれでもかと込められ、

ギュスノの方には魔法補助の魔方陣がこれでもかと込められており、

どちらにも同一素材から作られた故の共鳴効果を利用した位置捕捉機能と認識阻害機能がついている。

込められた魔方陣もそうだが美術的にも優れている為、見られたら……、


……シャーロックは半袖にならないことを決意した。

 

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