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『僕』と『先輩』の迷宮と日常  作者:
第五話 僕はお家に帰りたい。
37/63

scene4 兄さんと僕の適切な距離感。

 





「完成! アクアパッツァとリングイネのジェノベーゼです!」


 日が暮れ、今日は野宿だ! と、街道側の平原にテキパキ野営の準備をし始めた皆さん。足手まといだしもうすぐ夕食の時間だし、ってことでよろしければ……と、なかば強引におさんどん担当を手に入れました。……うん、できれば美味しいご飯食べたいし……見た感じ料理自慢はいなかったからね!


「あ、焼きジャガとキノコスープもあります」


 焼きジャガはそのままはもちろん他の料理に合わせても美味しいと思うよ?


 ちなみに捕まえた盗賊達はザ、保存食な固パンと干し肉と水です。……不満そうだなぁ。これから十三市の銀の神殿で神の裁きを受けるんだし体力蓄えといた方が良いでしょうにねー。……あ、神の裁きってのは銀の神殿でだけ出来る秘技? 嘘はつけない状況で強制懺悔、で、矯正可能なら制約──もちろん破ったら神罰が超物理である──の首輪をつけて放逐、矯正不可能の場合は……うん、僕のような幼気な美少年は知るべきじゃないことになるんだよ。


「いやー、それにしても商会長さん達が第五との定期取り引きの協定を結びに行ってたなんて!」


 ちなみに僕の声が弾んでるのは、第五迷宮《碧海の城塞》通称お魚ダンジョンとの定期取り引き話を聞いたから! つまり定期的にお魚が来るんですよ!


「ああ、冷凍馬車を開発させたからな」


 浅黒い肌と無精髭がワイルドな商会長のリドリーさんがアクアパッツァの石鯛にかぶりつきながらニヤリと笑います。


「こっちからはあちらで採れない薬草や果実を加工して売りに行くんですよ~」


 とは、リドリーさんの秘書だという砂色の髪の眼鏡が知的なロシュさんです。こちらは焼きジャガにジェノベーゼソースを絡めてかぶりつきました。


「互いに交易に向かないからね。持ちつ持たれつ? まあ、冷凍馬車を持っているのはこっちだからかなり有利な条件で結べたわ」


 とは、キノコスープをフーフーしているフィアさんです。……うん、第五のドロップはお魚──この近辺では取れないものも──とか海藻がメインであまり遠くに売れないんだ。もちろん干物とかに加工したのは売れるけどね。


 で、ご存知の通り十三迷宮はお魚こそ採れないけど満遍なく食材、鉱物、薬草、などなどが採れるんだ。……逆に売りが無いとも……うん、ちなみに十三から売るっていう薬草や果物は十一迷宮でいっぱい採れるんだよ。第五からは一番遠いところにあるね。


「エヘヘ、楽しみだなぁ。食卓にお魚が……」


 やっぱりさー、肉ばっかりじゃね、変化がつけづらいし、


「っていうかシャーロック君お料理上手! 何、宿屋って厨房なの?」


 とは、ピアスがいっぱいな自警団員のジューダさん、


「はい! 帰還したらどうぞご贔屓に! ふふ、皆さんにはお世話になりましたのでサービスさせていただきますよ?」


 お客様は多い方が良いよね!


「おお、この飯が食えるなら! ……なんて店だ?」


「んー……んふふ、それは帰ってからのお楽しみ?」


 マルティさんの質問を僕ははぐらかします。……白雨亭の名前って恫喝に近いよねー、って思ったんで。



   *   *   *



 夜明け、ツナのオムレツサンドイッチルッコラ入りと、夕べのキノコスープの残りに、同じく残りの焼きジャガと、ベーコンを入れかさ増ししたスープ、のシンプルな朝食を作りながら僕は欠伸を噛み殺します。……久しぶりのベッドじゃない寝床にあんまり熟睡出来なかったんだよねー。あ、ちなみにキノコとハーブは昨日のバザールでのゲット品、悪くなるのは困るので使いました。


「……おはようございますシャーロック」


「あ、おはようございます兄さん」


 気がつくと朝日に輝く銀髪も眩しい、美男子な兄さんが隣に立っていました。……どうしてこう強い人って、気配無く隣に立つのかなぁ?


「……おいしそうですね」


「はい、もうすぐ出来ますよ? 皆さんは?」


「そろそろ起きてくるでしょう……それより」


 兄さんがゴツゴツとした左人差し指で僕の目の下をなぞる。


「んなっ!?」


 スマートに触りましたよこのお兄さん!


「隈が……眠れませんでしたか?」


「ああ、はい、気遣いどうも……枕が無いと眠れ無い質なんです」


 軽く距離をとりながら答えます。……ううん、シタゴコロが無くてもいきなりの接触は苦手だなぁ。


「……すみません、触られるのは嫌いでしたか?」


 あ、気を使わせちゃいましたか?


「……ちょっと……ほら、僕美少年だから!」


 変態さんホイホイだからさー。


「……え、ああ……そうですね……それは訂正しなくて良いですよね」


 き、生真面目っ!


「アハハ、どちらでも!」


 わー! この人めっさいい人だ!



   *   *   *



「お家に帰ろーう、急いで帰ろうー、お風呂とベッドが待っているー、多分家族も……待っているー、きっと家族も……待っているー」


 イエーイ! ふふ、昨日と同じくフィアさんと同乗中の僕です。夜には迷宮市に着くと言われ、超ご機嫌なんですよー!


「……何なんです? その微妙に不吉な歌……ほら、既婚家族持ちの皆さんが落ち込んでるじゃないですか」


 え、兄さん? 僕の白の方々にスカウトものの美声に問題でも?


「うう、キアさん、キアさんはもちろん待っていてくれますよね? ね?」


「ラフィ、ラフィ、間男とか……いないよな? な?」


「チー、チーちゃん、帰ったら抱きしめてくれるよね? ね?」


 あ……ロシュさんリドリーさんフィアさんが落ち込んでる。……皆さん配偶者とお子さんと三ヶ月も離れているので色々不安なんだね。


「あー、誰? とかお子さんから言われちゃうかもですねー」


「ジューダ、追い討ちをかけるのはやめなさい」


「アハハ、賑やかですねー」


「君が原因でしょう!」


 そんな感じで僕達は明るく十三市を目指していた。



   *   *   *



 …………ええと……誰?


「この悪魔! 権力者達をたぶらかし、俺達を罪人にしやがって!」


「まあ、まあ、落ち着きなさい……僕はわかってますよ? あの男に命じられたのでしょう? 大丈夫です安心して下さい僕達と一緒に行きましょう。シャーロック君?」


 昼前、人里からは離れた森や川の近くの街道で、十人の男性と遭遇しました。そしてその中にいた二十歳ぐらいの男の人が激昂して叫び、三十路ぐらいの男の人がなだめ、僕を誘う……えっと、


「いや、あのー……どちら様?」


 見覚え……無い気が……、


「な!? 人を陥れといてっ! グラスさん!」


「……なるほど、しらを切るつもりですか……随分悪い子になりましたね、シャーロック君?」


 ……ええと三十路さんはグラスさん……えっと、


「誰?」


 名前にも聞き覚えが……、


「……彼らは一月ほど前に君に対する犯罪行為……強盗未遂、で、市外退去処分を下されたそうです……無実を主張してますが」


 兄さん? ずいぶんと冷たい目で……ん、一月ほど前……市外退去……あ、


「先輩に瞬殺された七人の変態さん! ……あれ? 十人いますけど?」


「ああ、同時期に同じく無実らしい罪で市外退去処分を下された『バルカン』の方々も一緒ですから」


 ……えっと、『バルカン』? って、


「先輩を『放置』して黒くておっきい魔石を奪った? ……あれ? でも全員腕も手も……ふーん、治してから放逐かー……お優しいこと、賢人さん達は」


 多分スパッと切れてたからくっついたんだろうけどさ。


「……殺人未遂犯に対して甘すぎだなぁ」


 ま、別にどうでも良かったけど……今この時までは、


「で? 皆さんは彼らの言うこと信じてるの? 賢人が? 僕のような子供にたぶらかされて? 無辜の市民を放逐? ……荒唐無稽過ぎじゃん」


 アホくさ、


「で? そのことで僕が何を手に入れたの? 先輩があなた達を倒した理由は? ……ねえ、ほんとにそんな馬鹿げた主張が通るとも?」


 っていうか、さー、


「あなた達そんなに僕が欲しいの? ………………魔法師を三人も雇うぐらいに」


 僕のその発言後すぐ、森から火の玉が飛んできた。当然兄さんが剣で弾き飛ばす。


「ほう、我等の気配を掴むとは……どうやら魔力が強いらしいな」


 そう笑い混じりで言いながら森からのそりと出て来たのは、豪華な刺繍が施された黒いローブ姿の壮年の男。続いて、彼を庇うようにぼろいローブのガリガリの青年とキラキラとしたローブを着たプクプクとした少年が出て来た。


 ちなみに壮年魔法師の発言を解説すると魔力持ちは魔力に敏感って性質があります。ってことです。つまりもちろん兄さんも気付いていて、


「『凍てつく大地(グランドフローズン)』!」


 彼らを中心に準備をしていた魔法を放った! ……けれど、


「はっ! こやつ等から貴様の能力は聞いておる! やれ!」


 青年が炎の魔法でそれを打ち消した。


「……なるほど、そちらの方は炎使いですか……相性の悪い相手ですねっ!」


 兄さんは無詠唱で土の槍を出す、けれどそれは少年の水魔法に阻まれる。……そして、


「よそ見してんなや自警団! ぬるま湯な任務で稼ぐてめぇらに、冒険者の力を教えてやらぁ!」


 市外退去者達と自警団員との戦闘も始まる!





  

『第五迷宮《碧海の城塞》』


島の南西に顕現した迷宮。

海の上に築かれた城塞でところどころ海水に犯されている。

別名お魚ダンジョン。


未だ踏破者はいない。

 

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