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『僕』と『先輩』の迷宮と日常  作者:
第四話 冒険者シャーロック=ロイカの休日。
27/63

休日三日目

 





「あ、インクが無い」


 またしても自分を呪っている。僕ことシャーロックです。


 前日までで宿用のあれこれは作り終えたから今日は、最近ちょっときつくなった迷宮用のマントの新調をしようと思ったんだけど……、


「『魔方陣スクリプト』を書く魔石インクが無いー……」


 ってことに気付きました。……あ、魔石インクってのはね。魔法師さんが魔力で魔石を溶かして液状にした物なんだ。で、それを使って『魔方陣』を書き込むとあら不思議! 魔法師じゃなくても魔法と同等の効果を発揮出来るのさ! 凄いでしょ? あ、ちなみに先輩お得意の魔具、あれはいくつもの『魔方陣』を組み合わせ、尚且つ、魔石、もしくは魔石インクのボトルをバッテリー代わりにセットしてって……かなり複雑な機構なんだ。……うん、先輩スッゴく器用なんだよ……顔に似合わず。


 ってことで、


「先輩に作って貰えるかな?」


 イロイロギャップな男前さんにねだりに行くよっ!



   *   *   *



「魔石インク? 別に構わんがなんに使うんだ?」


 先輩はウルウル上目遣いも小首を傾けも使わない内に頷いてくれました。……気前良いなこの人! でも、当たり前ですが用途は問われます。使いようによってはちょー危険だからね。……魔力回復しようと飲んで死にかけた男、っていう都市伝説もあるくらいだし、もちろん真っ当な用途に使う僕は胸を張って答えたよ。


「迷宮用のマントを新調するんで『魔方陣』用にください!」


 って。



   *   *   *



 ──なんでこんなことになってるんだろう?


 遠い目がしたいんですが出来ない僕です。


 今、作業部屋でマント用のフェルトをテーブルに広げ、呼吸数を抑えながら『魔方陣』を書き込んでいます。……先輩の注視を受けながら。


 ……うん、ね。緊張するよね? 若干邪魔だよね。タダで魔石インク貰ったから強く言え無いけど……でも、


「ええと先輩? そんなに見られると……それにあんまり革新的な『魔方陣』は書きませんよ?」


 つまりませんよーっ!


「……いや、内容はどうでもいい……俺が興味あるのは魔法師以外が書き込んだ『魔方陣』が、効果を発揮するところだ」


 ……ですか。


 で、どうしてこうなったかといえば先輩の飽く無き探究心と僕の世間知らずが合わさった結果です。……『魔方陣』一般人は書けないんだって、っていうか存在を知ってる人のが少ないんだって、っていうか一般人が書いた『魔方陣』に効果があること自体知られて無いんだって! ビックリだよ!


 ……でも、言われて見れば僕が初めて『魔方陣』で擬似魔法を使った時『お母さん』ビックリしてた……『英知の魔女』なんて呼ばれたりしてるのにね。


 ……うん、やっちゃったー……まあ、ばれたのが先輩で良かったです。……魔法師らしい魔法師に知られたら……ブルブル。


「……はあ、じゃあ続けます」


 よしっ、気にしたら負け! ってことでまずは……黒のインクで『対衝撃』の『魔方陣』を中央に大きく書いてっと、で、ここで一時お昼休憩──隣でパスタを作って食べました──を取ります。よしっ、再開……そして緑のインクで『軽減』、青のインクで『耐熱』、赤のインクで『不燃』、白のインクで『浄化』を小さ目に、位置を考えながら書き加える。で、


「これにはる裏地に黒で『隠蔽』を書いて、で、表面にわかりやすい感じで『守護』を書き込む予定です」


 が、


「もう遅いんで明日に繰り越しでーす……はあ、着替えて晩御飯作らなきゃ」


 日が沈んで来てるよ。でも、お着替えの前に、


「洗濯物取り込まないとー……」


 湿気っちゃう前に、


「ね、先輩」


 ずーとっ! 見ていましたよ。彼!



   *   *   *



 集中し過ぎてお疲れな僕です。……でも、


「うみゃー! 見る見る内に玉葱がみじんにっ!」


 はしゃいでます! 先輩がフードプロセッサーと、


「コーンがどろどろにっ!」


 ミキサーも作ってくれたからねっ!


 実は昨日の夜には出来てたんだけど朝から仕込んでたから──ビーフシチューを──今日、初めて使ってるんだー、


「って訳で今日のメニューはフードプロセッサーをフル活用したミートパイとミキサーを活用したコーンスープと桃のソルベです!」


 プラスでサラダとトマトソースニョッキも作るけどねっ!



   *   *   *



「ああ、こんなに早く仕込みが終わるなんて……」


 何時もの開店時間一時間前なのに既に後は、


「ミートパイはオーブンに入れるだけ、コーンスープは温め直すだけ、サラダはドレッシングをかけるだけ、ニョッキは茹でて和えるだけ……あ、ソルベはも一度掻き混ぜなきゃ」


 でもそれで終わり……うーむ、


「……もう一品、作っちゃおうかな?」


 うん、たしかアナゴが保冷庫に……、


「よしっ、ビールフリットにしよう!」


 白雨亭は酒類の提供はしてないけど料理用にはあるのです。



   *   *   *



「あ、スノー、例の奪われたレアドロップ、調べが終わったから返却な」


 もうすぐのれんな食堂で、奥さんが出張中の悲しい中年男子のギルマス、フエンさんが僕の拳大の、雑に雑紙に包まれた何かを、ポーンと先輩に投げました。……わ、結構重そう。で、


「それって、あの『放置』事件の引き金になった品ですよね? わー、よく売られていませんでしたねー」


 二ヶ月以上とっといてたなんてビックリだよ。


「ああ、見りゃわかると思うが捌き辛ぇほどのレアでな、十三市ここで売ったら不審がられる品だ。……だからか奴ら、第二あたりに行く予定だったらしい」


「へー、そんなに凄い…………あの、見せてくれます?」


 気になるよね! そして当然気前の良い先輩はあっさりと見せてくれました。……おお!


「大っきい魔石! しかもゾクッとするほど深い黒っ!」


 その上見た感じほぼ真球だよ!


「これは人を迷わすよー……」


 僕もクラッとくらいはしちゃいます……『放置』まではしないけどね。


「……………………だな」


 先輩は気が無い感じで同意しつつ手の中のそれを玩びます。


 ……あ、先輩の魔具職人魂が燃えてる!


 ……うん、出来たら見せて貰おう。


 ふふ、僕も、結構探究心旺盛なんです。






  

『魔石インク』


魔石を魔法師が液状にした物。

『魔方陣』を書き込むのと、魔具の燃料として使う。

色によっての相性がある。

戦闘向きでない魔法師の主な収入源。

良質な魔石、特に大きい品で作った物が最上級とされ、

今回シャーロックが貰った品がまさにそれだが、

シャーロックは気付いてない。


ギュスノに教えるつもりが無いので多分ずっと気付かない。

 

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