俺に家族が出来るまで、
六月の半ば、非番の俺は神殿で残高照会をし、少々暗い気持ちでギルドホールを歩く、
「……浅瀬で割が良い依頼があれば良いが」
すると目的地──クエストボード前で、
「あ、また黒紙が貼ってあるー! なんで!?」
「下五は大体一週間だからな」
ここ一週間、誰もが噂するパーティー『221B』が言い合っている。……って!
「おい、黒竜、それ受けるのか?」
「……ああ、三の副か……いや……あんたが受けるなら受けない、っていうより……あんたが受けるなら……見たい」
おっしっ! 臨時収入! じゃあ、
「装備、整えて来るから取り置いといてくれ!」
運命の声が聞こえた気がした。
* * *
「あ、ラウ君でしたか……あー、なら安心ですね」
珍しく窓口にいたチーフ殿──登録名と役職もチーフ──がホッとした表情で手続きを始める……おい、
「誰に頼まれて取り置いてるぐらい言っとけ。人見知りでもねぇだろうが」
「直ぐわかるんだし良いだろう?」
「僕は先輩から口止めされてましたので」
黒いのも白っぽいのも半笑い……あー、面白がってるな……ホントこいつらって似た者同士だよな。
「……あのな、」
「……はい、ではラウ君、『221B』様、いってらっしゃいませ」
もう一言ほど小言を言おうとしたら、ギルド一の実務能力の持ち主であるチーフ殿にとっとと行けや、と、命令された。で、とっとと行った。
……ギルマスすら頭が上がらん古狸に俺程度が逆らえるか。
* * *
「そういやお前さん達はどこまで行くんだ?」
一部から黒竜ハゲろ! と、不評を買っている最近の定番手繋ぎスタイルで前方を歩くデカイのとチッコイのに世間話を仕掛ける。チッコイのがスイスイとモンスターやらトラップやらを避けているから暇なんだ。……つーか、俺も早い方だがこいつら早過ぎだろ。五分も経たずに下三とか、
「んー、下七のキラービーの巣を……ちょっと入り用で」
へー、採取難度Bのあれをか、
「ついでで常設のゴブリンですねー」
討伐難度Cをついでか……ホントこいつら、
「Aランパーティーに成れんじゃねぇか?」
ちなみにABCはあくまで冒険者とギルドスタッフ間の目安、十三迷宮には受注制限は無い、まあ大抵の依頼にはしくじったら罰則があるがな。
「高位とか確か名指し依頼が出ますよね。……めんどくさい」
「……長く潜るの嫌いなんだが」
ちょうど終点、『試しの間』の扉の前で立ち止まったコンビは可愛らしい顔と精悍な顔をよく似た感じに歪める。
「はは、お前らは名声には興味無しか……じゃ、チャッチャと狩って来るからな」
……あんま時間かけれねぇしな。
* * *
扉を開けるとスケルトン共が目覚め出す。数は何時も通りの五……ただ、
「……バラけてやがる」
待機位置が毎回ランダムなのが厄介……まあ良い、
俺は一番近いスケルトンの剣を、手首ごと落とすことで使え無くし、攻撃手段を失ったそいつをポツンと離れた位置の左のスケルトンに投げ付ける。
「うっし、まず二」
そして落とした剣を蹴り上げ右の最奥のスケルトンに向けシュート、
「三」
で、後は切り掛かって来た奴をかわし、追い掛けるように来ていた奴と共に剣の腹で砕けば……、
「五体撃破……うっし、消えた」
残ったのは五つの魔石だけ……お、
「……なかなか良い魔石だな。珍しい」
開け放っていた扉からお気楽に観戦していた黒竜が魔石を褒める。
「……っていうかラウさん強い! 強いのは気付いてたけど想像以上に強い! 一分掛かって無いよね!」
……そんな手放しで褒められると照れるんだが、
「三の副は自警団でもトップレベルの剣士だぞ……それより戻らないで平気か?」
「ああ、何時もより早くここまで来れたからな」
性根は善良な黒竜が気遣かってくれる。その相棒は不思議そうだな、
「俺は魔素耐性が無いんだよ」
俺は自嘲気味に答える。俺の迷宮での活動限界は三十分ほどなんだ。すると、
「へー……ラウさんは人間らしい人なんですね」
どこか底知れない瞳のシャーロック君はそんな感想を漏らした。ん?
「……どういう意味だ?」
相棒も不審そうだ、
「え? 聞いたこと有りません? かつて、人は魔素で滅びる寸前だった。それが変化し魔素に耐えられるようになったのが今の人類だ。って」
あー、
「新生神話だな」
神殿学校で習ったっけ。
「……そうか」
ん? どうした黒竜考え込んで……っと、ヤバくなってきた。
「じゃ、そういう訳だから俺は帰る、お前さん達も気をつけな」
てな訳で俺は出口のメダルを取り、横にある転移陣──『守護者』討伐後しばらく使える──に乗る。そしてフワッとしたと思ったら何時も通りロビーフロアの一角にいる訳だ。
……何時もながら謎な機構だな。
* * *
俺はホール内の待合いテーブルで、既に報酬を受け取り、用済みになったメダルを玩ぶ、
──そういやもう瓶がいっぱいになるな。と思いながら、
俺には魔素耐性が無い。それは冒険者としては致命的な欠陥だ。だから浅瀬の、一番割の良い依頼である『守護者』討伐をタイミングさえ合えば受け、そして瓶にいっぱいになるほど倒して来た。だが、
「……そろそろ潮時かもな」
先程手続きをしてくれたチーフ殿にチクりと言われた。
──いい加減若手に託したらどうです? と、
討伐方法を伝授し、奥地への攻略をスムーズにしろ。と、それは多分、
「……一班班長への打診を真剣に考えろってことだな」
現一班の班長殿が、兼務している副団長に専念出来るようにと言うことらしいが、
「……五階層が限界の人間について来るかってことだよな」
大抵の連中は魔素耐性が無いと聞くとそいつを下に見る。つまり先程のシャーロック君の反応はかなり変わっているのだ。
「……でも、定期収入が増すなら」
俺は換金する気が起きなかった──若草色の魔石を見詰める。すると、
「あれ? ラウさん、どしたんです? 黄昏れてますね」
ついさっき別れたばかりの少女に顔を覗き込まれた。……は? まだ二十分も経ってねぇぞ?
「……採取と討伐は終わったのか?」
「はい、今先輩が手続き中です」
早ぇな本気で!?
「ふふ、それよりその魔石……随分とラウさん好みな色ですねー」
「う、まあな」
「質も良さそうですし……指輪に加工、なんて良いんじゃ?」
「……だな」
子供らしい無邪気な笑顔で世話焼きな主婦みたいなことを言っているシャーロック君は笑顔のまま迫って来る。
「で、提案なんですが……」
「何絡んでる?」
すると報酬を受け取ったらしい相棒が抱き上げ離す。
「あ、先輩、ちょうど良い」
気にした様子も無く続ける少女は、
「ねぇラウさん、その魔石、加工しませんか? 良い品に仕上げますよ?」
音の出そうなウインクと共にそう言った。
「……だな。頼む」
不審な表情の相棒の腕前は市内一だからな。
* * *
一週間後、材料代程度にしかならない金額と引き換えに、受け取った三つの小箱を抱え、俺はこの数週間で馴染みになった道を行く。
小箱の中身は二つの指輪と三つのイヤーカフ、イヤーカフには他二つの装着者のバイタルがわかる魔法が、指輪には小さな方には防御の魔法、大きな方には魔素吸着の魔法が掛かっている。
「本当に性根は善良だよな」
さて、俺の全てが善良で可愛らしい恋人と弟分はこれを見てどんな反応をするか、
「これからの人生についてしっかり話し合わなきゃな」
そして俺は暖かな明かりと美味そうな匂いが漏れる扉をノックし、輝く笑顔の恋人と苦笑気味のその弟に迎え入れられる。
これは俺に家族が出来る前日、
一班班長になる一週間前の出来事だ。
『ラウ=ルー』
元隊商護衛、元三班副班長、現一班班長。
自警団随一の剣士だが体質により冒険者ランクが低く、評価され辛かった。
が、上層部と後輩からの信頼は厚く、市民の評判も良い為、
守るべき存在が出来たタイミングでの班長就任が決定した。
ちなみに反対者達は下五と上五での『守護者』戦を見て沈黙した。




