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『僕』と『先輩』の迷宮と日常  作者:
第二話 白雨亭は安心安全な宿屋です。
12/63

scene5 第三層

 





 そして僕らは着替えを済まし、現在第三層を散策中。ちなみに今日の僕のファッションは──マドンナブルーの首元を紐で留めるチェニックとアップルグリーンのカーゴパンツ、ネイビーブルーのデッキシューズに、アイボリーのマントを羽織り、チャコールグレーのウエストバッグをつけ、仕上げにカーマインのキャスケットを被る街歩きスタイルだ。


 ……え、マントは街歩きにどうよ? ……んー、僕日光に弱い体質なんだ。……焼けると痛々しいほど真っ赤に……わかるよね?


 で、オーナーは白いシャツにボルドーベースのアーガイル模様のウエストコート、シルバーグレーのパンツにセピアの革靴、ちらっと見えるオリーブグリーンの靴下がオシャレです。で、マホガニーのクラッチバッグを持っている。


 そして先輩、黒いオーバーシャツ黒いパンツ黒いブーツ、と昨日と変わらず黒ずくめ……もしかして黒以外の服を……いや、同僚のワードローブ事情を探るのは止そう、似合ってるしね。


 で、そんなちぐはぐな僕らは第三層を食堂街に向け歩いている訳。……ん? 第三層ってなんだ? ……えーと、じゃあ簡単に十三市の地理を説明するね? まず十三迷宮市は十三迷宮を囲むように出来ています。で、三つの円形の壁で三層に分かれているんだ。まず第一層はギルドホールや各種神殿があり、迷宮の監視と管理──まあそれなりに──をしています。


 で、白雨亭があるのが第二層、いわゆる冒険者向けの商店や下宿がある地域。そして僕らが散策中の第三層、まあ、一般商店と一般人の住居がある地域。で、一番外の壁から迷宮の門がわりのギルドホールまで一本大通りがあって、その左右に三層と、二層に続く門が並んである。……大体わかった?


 あっ、壁の外にも街があるよ。いわゆるスラム街。……まあ、それなりに秩序があるらしいけど。で、近隣に農村やらが在って……そこまで含めて『十三迷宮市』、かな?


 だから僕達は第三層をぶらぶらしながら昼食を摂る店を探している訳さ。……第二層の飲食店はちょっと多かろう安かろうに偏ってるからね。……ああ、もちろん我が白雨亭は安くて美味くて健康的な店だよ! ぜひ一度はおいで下さい!


 ……だから性分……まあいいや。で、先輩が選んだ店は……、


「……らっしゃい」


 眉間のシワに頭部に巻いたタオル、腕を組み姿が様式美の……ラーメン屋さんでした。……僕じゃ絶対選ばないチョイス……。



   *   *   *



 ──おお! これはトリガラをベースに根菜と魚介系……カツオ? いや、サバも? をプラスした出汁に、数種類の醤油と魚醤、そして鶏油のタレを……うん、多分チャーシューの煮汁で割って、入れている。


 結論。


「美味しいです大将!」


 醤油ラーメン最高!


 ちなみにオーナーは塩ラーメン、ちょっと味見させてもらったけど……こっちは魚介系を多めに、さらに貝の出汁をプラス、そして数種類の塩と鶏油、何種類かの魚粉……こっちも最高に美味!


 で、先輩は醤油ラーメンと自家製チャーシューがゴロゴロ入っているチャーハン、ラードで炒めたしっとり系……これまた味見させてもらったけど……美味い! ……やっぱり、


「最高です大将!」


 行きつけ店の新規開拓に成功したよ! ……ん? 作らないのか? ……いや、手間と匂いが……家、宿屋だもん。……まあ盗めるところは盗むけどね! ……チャーシューとか……うーん、仕上げの五香粉が決め手かな?



   *   *   *



 ──どうして濃い味の料理の後のアイスはこんなに美味しいのだろう……。


 僕はついうっかり論文を一本書ける勢いで感動している。


 食後、大将と恙無く友誼を結び、オーナーと大将にごちそうさまです! と、挨拶をして店を出た僕らです。で、用があるとのオーナーとはそこで別行動になり、先輩と二人フラッとアイス屋さんに吸い寄せられました。


「……美味い」


 で、おごってくれた優しくて幸せそうな先輩と近くのベンチでデザートタイムです。……ん……ああ、僕はオレンジとバニラのダブル、先輩はチョコミント、キャラメル、ストロベリーのトリプル、美味しいよー。


 ……ん、ああ、もちろん移動は昨日と同じく手繋ぎさ。オーナーや通りすがりの人達をギョッとさせてるよ。……いや、これが一番有効なんだよ……。


 そして僕は大満足でアイスを食べ終えた。隣を見ると穏やかな雰囲気で先輩が街を眺めている。


「わ、すみません、待たせてしまって」


「……構わない……行けるか?」


「ふふ、はい」


 もう慣れたのか普通に左手を出す先輩……ふふ、


「ん?」


「実は僕、基本左利きなんで」


 右手で掴んだ僕に首を傾げる先輩、実は僕両利きなんだ。料理と字を書くのが右でその他が左、弓を引くのもナイフを操るのも左だから……、


「左手を空けといた方が安心するんですよね」


 この時から街歩きは横並びですることになりました。



   *   *   *



「こ、これは……」


 ぶらぶらと街歩き中の僕と先輩、すると僕はふらふらと生地屋さんに……そして見つけたメーター八プロフのフェルト生地、色はキナリ、


「……時期的に底値かなぁ、迷宮用のマントならイケるよね……んー、二、いや、三、……」


 んー、


「おや、シャーロック君……って!? えっ!?」


「……んー、トージさんこんにちはー……これって底値? 五、買うから三十五で……ダメ?」


 常連だったりする僕を見つけ出て来てくれた店主のトージさん──三十代独身──に上目遣いアンド小首を傾けで値切り交渉をします。……ん、視線が合わない……ああ、


「職場の先輩、多分護衛?」


 まあ、そういうことにしとこう。


「で、五買うから……」


「あ、ああ、……えーと、シャーロック君なら……三十でいいよ」


「えっ!?」


 まさかの十プロフ引き!? ……じゃあ気が変わらない内に……、


「じゃあ十! 切って下さい!」


 僕は上等なフェルト生地を六十プロフで十メーター手に入れた!



 買い物魂に火が点きました。僕は次々と紐やボタンの被服材料、調味料等の料理材料、そして最後に雑貨屋さんで各種保存容器を手に入れ……ハタ、と気付いた。


 ──先輩の名目が護衛から荷物持ちにチェンジしてる! と、


「……う、うわー、すみません先輩! うっかり買い物モードに入ってました! に、荷物持ちます!」


 そんな焦る僕に、


「……別に良い……興味深かったから」


 と、先輩は笑ってくれた。……ん? 興味深い?


「お前は随分と色んな人間に好かれているんだな」


 ……ん、おお、確かに全店舗値引きオアおまけだったからね。何故か今日は多かったし、


「んふふ、ここは親切な人が多いから……」


 道を行き交う人々もほとんどが穏やかな表情、引ったくりや置き引きなんてめったに見ない。……昨日の二つの事件が特別なんだ。


「……平和、ですもんね……」


「……ああ、居心地が良い」


 そして僕と先輩は手を繋ぎながら第三層を一回りし、大通りへの門を潜る。……僕らの『家』に帰る為。






 で、ここまででその前の日からの『僕が凄腕冒険者を拾った話』はおしまいさ。


 ここから、僕と先輩がパーティーを組む話に移って行く訳だけど……、


 うん、お察しの通り時間切れ。夕食の準備に帰ります。


 続き? ……ふふ、あなたが望むなら、


 ……じゃあ、またね。










 第二話 白雨亭は安心安全な宿屋です。終

『第三層商店主』


一応冒険者なのに、

行きつけのほとんどが第三層のシャーロックを可愛がる人々。

値引きは基本、取り置きも多々、おまけは毎回。

ちなみに飲食店の店主とは主に情報交換をしている。

 

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