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『僕』と『先輩』の迷宮と日常  作者:
intermission2
13/63

僕と先輩が白雨亭で夕食を食べる話。

 



 僕、アラン=ヴィレッジ十七歳は業務日誌の書き直しをしていてふと、思った。


 ──なんであんなにシャーロック=ロイカは自警団員から支持をされてるのだろう? と、なので書類整理中の先輩──ラウ=ルー副班長に再提出する際に尋ねてみた。


「先輩、シャーロック君ってなんであんなに自警団員に人気なんですか?」


 そんな僕の素朴な疑問の答えは、


「ん、ああ、ドーナツだ」


 でした。……ドーナツ?


「って、どういう……」


「たまに詰め所に置いてあるだろ? あれはシャーロック君の差し入れだ。後、クッキーとか」


 えっ!? あの、とっても競争率の高い争いの元な菓子類を!?


「ええと、ワイロに当たらないんですか?」


 身内からならともかく……、


「んー、余った、っていう名目だからな、ギルドの受付嬢のついでだし」


「ギルドのお姉さん達にも!?」


 ……どうりで色々と対応が親切だと……シャーロック君、恐ろしい子。




   *   *   *



 で、その翌日である今日。非番だった僕は、第三層での仕事上がりの姉さんと白雨亭に向かっている。それは先輩の、


「そういえばアランは白雨亭で飯食わないのか? 近いしまあまあ安いし、何より美味いから自警団内では結構人気なのに」


 との疑問に、僕が、


「ああ、僕は姉と二人暮らしなので、基本姉が、非番時には僕が自炊しています」


 と、答えたところ、


「それはうらやま……いや、たまには外食も良いだろう? 今度奢るぞ?」


 と、言われ、遠慮やらなんやらしている内に何故か今日、姉も含めた三人で夕食を摂ることになったからだ。


「ねえ、アラン……本当にわたしもご馳走になって良いの? アランだけで行った方が……」


 そんな巻き込まれたかたちの僕の姉──アンゼリカ=ヴィレッジは僕と同じ緑の目を伏せ心配そう。


「いや、先輩は男気溢れる人だから、姉さんを一人家に残すとか叱られる。……大丈夫先輩凄くいい人だから安心して」


 ラウ先輩は実に男気溢れるいい人だ。しかも強い……なんであの歳まで独身なんだろう?


「……それはアランの普段の話からわかっているけど……本当に良いのね?」


「むしろ、男二人で食事よりは先輩も喜ぶんじゃないかな?」


 ……自警団は九割男だからね。



   *   *   *



 ……い、いたたまれない。


 僕は絶品なラザニアを食べながらもこの場を立ち去りたくなっていた。


 隣には普段は飲まないワインを片手に頬を酒精だけではなく染めた姉。


 前方には仕事中には見せない穏やかな表情の先輩。


 ……い、いつの間にか僕がお邪魔虫に。



 ……思えば第二層への門の前の先輩を姉さんが見た時からこの状況の兆しがあった。


 そしてそれは僕が先輩に姉さんを、姉さんに先輩を紹介した時には決定的になり。


 食事を始めて三十分ほど経った現在は……、


「アンゼリカ殿は家庭的なのだな」


 と、先輩はラザニアのレシピをシャーロック君に尋ねた姉さんを褒め、


「いえ、その教えてもらったのは良いのですが……複雑なレシピに作れる自信が無いです」


 と、姉さんはシュンとし、


「はは、アンゼリカ殿は正直者なのだな」


 と、先輩は褒め、


「いえ、その……見えを張って恥ずかしい思いをするのが嫌で……」


 と、姉さんは謙遜し……うん、まだデザート前なのに口の中が甘い。


 ……どうしたものか……と、食堂内を見渡したところ、ここのオーナー──生ける伝説ロムス=マージ殿と目が合い。


「アラン君、最近の十三市について現場の視点を市長に話してやって下さい」


 と、頼まれた。……ええと、現状の甘い席もあれですが伝説と市長とギルマスと同席も……ああ、はい、お邪魔虫は退散しろ、と、……はい、


「お、お邪魔します」


 無言の圧力に屈し、僕は大物達が酒盛りをしているテーブルに移った。


「んー、君は自警団の?」


「第三班所属、アラン=ヴィレッジと申します、市長殿」


 本日、近くの大都市、旧都カンダへの出張から帰っていらした市長に挨拶する。……何故下っ端自警団員の僕が?


「ほう、礼儀正しく誠実そうな若者だね。自警団のイメージアップになりそうだ」


「は、ありがたいお言葉、痛み入ります」


 ……い、胃が痛い。


「でしょ? だからアランさんは巡回担当なんだー」


 とは、おつまみやら僕の分の食器やらを持って来たシャーロック君……君、市長にもそんな気安く!?


「ああ、だからロムス殿が話しを聞けと……」


「ええ、出張中の市の様子は多分一番詳しいですよ?」


 ……恐縮しながら色々と話させてもらいました。



   *   *   *



「……っていうかあの二人スッゴくいい感じだけど……弟としてはどうです?」


 市長への説明が終わった頃、デザートを運んでくれたシャーロック君に声をひそめながら尋ねられた。……たしかに、座っていたテーブルはさらに甘い雰囲気だ。


「……ええと、ビックリ、かな? 先輩も姉さんもそういうのに興味無いと思ってたから」


 だって先輩あの歳まで独身だし、姉さんちょっと男嫌いの気があるし……っていうか、


「……そもそもなんで先輩独身だったんだ?」


 理由に因っては対応を……いや、先輩はいい人だけど、恋人としてはちょっと……だったり、


「んー、出会いが無かったからじゃ? ……ほら、自警団って戦うお姉さん方や肉食系な玄人のお姉さん方とばっかり接近じゃん? ラウさん性格的に絶対、街の綺麗なお姉さん系が好みだもん」


「……あー」


 たしかに、


「っていうかお前ぇのネーチャン歳いくつだ? まだまだハタチそこそこだよな?」


 三十四のラウとは犯罪っぽくね? と、ギルマスはニヤニヤと笑ってます、が……、


「ええと……実はもう二十七です……」


 うちの姉は雰囲気とかが少女っぽいけど実は結婚適齢期だ。


「へー、じゃあラウさんとは七歳差……まあ見た目は同年代っぽいけど」


「ハハ、ラウは童顔だからな」


 ……そして先輩も若く見えるのだ。多分人種的に……先輩と同じ黒髪黒瞳、黄色っぽい肌の人達は概ね若く見える。


「で? 弟としては?」


 弟としては……。


 両親を早くに亡くし、まだ子供だったのに僕を育ててくれた姉さん。田舎から出て来て働き口がなかなか見つからなかった僕を自警団に推薦してくれた先輩。……それはもちろん、


「……先輩なら姉さんを任せられるし、姉さんなら先輩を幸せにすると思います」


 ……まあ、少し複雑だけど。


「そっかぁ……ふふ、ラプラパイ食べて? お代わりもありますよ?」


「……お代わり」


「……先輩には言ってないですけど、ま、いいや…………で、フードプロセッサーがあればこのパイもさらに絶品に!」


「……このままで充分美味いが?」


「いや、いや、もっとパリサクに……パイ生地は手の熱でベチャッとなるんで……」


「ああ、お前の手、子供体温だから」


「……先輩だって手ぇ熱いじゃん」


「……たしか筋肉は発熱する……」


「あー! うらやましいですね!」


「……何故怒る?」


「別に!」


「仲良しですねえ」


「……たった二日で……すげえなシャロ君」


 賑やかな話し声を聞きながら思う。


 ──きっと近い将来僕はここの常連になるだろう、と。



 ……先輩が常連じゃなくなるからプラマイゼロだろうけどね。







 

『ラプラパイ』


シャーロックのお得意はパイ生地に甘露煮を詰め、

パイを編んで乗せたタイプ。

買って来たバニラアイスを添えて。


 

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