006
ソロ活動を終えて神都へ戻ると、普段と異なる景観に彩られていた。
大きなカボチャを刳り貫いて作成された、ジャックランタンが夜の街を照らしている。またNPCは「吸血鬼・お化け・魔法使い・魔女・黒猫」などに仮装していた。
「なんだ……これは?」
「ハロウィンっすよ」
独り言のつもりだったが、背後から回答が返ってくる。
確認しなくても語尾で乱華と判明した。案の定、忍装束の少女が横に並んでくる。
「いろいろなイベントがあるんだな」
「そうっすね」
「いつもより人口密度が高いのは、ハロウィンイベントの所為か?」
「違うっすよ。今日はモリオンの結果発表だからっす」
「おおっ! それは楽しみだな」
発表は午後十時に行われて、受け渡し期間は二週間らしい。
余した時間を利用して、それぞれの経過報告をする。
乱華の雇い主はトップギルド八咫烏らしく、近々、廃墟に巣食う蒼黒竜の討伐を決行するらしい。魔導書取得で後手に回っていることを懸念して、本命と思わしき魔物に焦点を絞り込んだわけである。
「そんなわけで申し訳ないんすけど……しばらく単独行動を取ってもいいっすか?」
「もちろん構わないよ。そもそも二人パーティーは強制じゃないからな」
「それじゃあ、二週間程度別行動させてもらうっす」
「わかった。俺も久しぶりに遠征してみるよ」
乱華が気を使わないように、俺も長旅の申し出をしておく。
口から出任せではなく本当に目指すべき場所があった。
連続クエスト「ハシュシュの憂鬱」に従うなら、次は帝都にあるアムリタ商会が依頼主だろう。しかも腕の立つ彫金師に会えるというのだから、普通に考えれば、特殊生産技術修得クエストの可能性が非常に高い。
新たな眼鏡との出会いを想像しただけで、にやにやと目尻と頬が緩んでしまう。
命中率補正を追加できれば前衛の需要も生まれるし、回避特化なら戦闘中も眼鏡くノ一を拝めるかもしれない。本当に特殊生産技術修得は夢が広がる。
「ところで制限エリアの調査はどうなんすか?」
「うーん……正直なところ芳しくないな」
いくつかの制限エリアを体験したことで、立てた仮説に疑問を抱かざるを得なかった。端的に言えば通常エリアのような安全地帯がないのである。その中に長期間身を潜めるなんて、超一流の冒険者でも不可能だろう。
「最初は自信があったんだけどな」
「魔導書を持ってるチグリス姉様だからこその方法とか考えられないっすか?」
「うーん……どうだろう。天使は召喚扱いにならなくて、きっちり頭数にされるんだよ。バルムンクが対多数戦に特出していれば、確かに可能性はあるんだろうけどさ」
もっともアリアが対多数戦に不向きなことは否めない。
タクティカルポイントによる大技――一撃必殺に特化したような設定だからな。
「パーティーが組めない別行動中は、また制限エリアの攻略に挑戦っすか?」
「まあ、そんなところだな」
実は二週間程度の別行動を示唆されたとき、帝都を訪れる計画を立て始めていたのだが、深く追求されることを避けて曖昧に返した。新しい眼鏡を生産するためのクエストを発生させる――そんな理由で帝都に向かうとは切り出し難かったのである。
「そろそろ時間みたいっすよ」
まるでその言葉が合図だったように、蝙蝠の仮装をしたNPCが登場する。
これはあくまで引き換え用のNPCで、結果はシステムメッセージで発表された。
つまり街中にいなくても当選番号はデータとして流れ込んでくる。
下位から順番に発表されて、その結果を受ける度に、歓喜や落胆の声が上がった。
五桁の数字を的中させる三等くらいから、それまでと一線を画す異様な雰囲気となる。これは賞品の内容が格段に変わるためで、見事的中させれば、新たな道を切り開ける可能性もあるからだ。ゆえに当選結果に対する反応も熱を増すのである。
「乱華もモリオンは持ってるんだろ?」
「もちろん持ってるっすよ」
「その割に平然としてるよな」
「騒げば当たるものじゃないっすからね」
「随分と冷めてるじゃないか? 俺なんて結構楽しみにしてたんだぞ」
「確率が確率っすからね。期待し過ぎてるとあとで落ち込むだけっすよ」
経験者だからこそ簡単に当選しないことを理解しているのだろう。
確かに上位の発表になってからは、落胆の声は聞こえてくるが、歓喜や戸惑いの声は皆無に等しい。そうこうしているうちに一等の発表となった。
第一回モリオン一等当選番号は【七七五二一三九】です。
当選者は期間内に賞品の交換を済ませてください。
周辺からは盛大な溜め息と落胆の声が上がる。
どうやら乱華も外れたらしく、すぐさま黒水晶を破棄していた。
情けないことに刻印した番号を忘れていた俺は、モリオンを取り出して下一桁から確認していく。その途中で俺・莉紗・天音の誕生日を組み合わせた数字であることを思い出す。妙な興奮を覚えながら下から上へと答え合わせをしていく。
「乱華……ちょっといいか?」
「なんすか?」
「一等の当選番号は【七七五二一三九】で間違いないよな?」
「えーっと……【七七五二一三九】で間違いないっすね」
その言葉が上の空になってしまうくらい俺は動揺していた。
無言のまま動かない俺に忍装束の少女が問い返してくる。
「どうかしたんすか?」
「…………」
「おーい」
「…………」
「おーい」
不思議な動きを見せていた乱華が、俺の異変を察し、手にしたモリオンを覗き込んでくる。そこに刻まれた数字を確認して、忍装束の少女も無言になった。ぱくぱくと金魚のように口を動かしながら、再び刻まれた数字を下一桁から確かめている。
「九……三……一……二……五……七……七」
「…………」
「あたたたたたたたたたたたたたたた――」
一子相伝の拳法でも使いそうな乱華の腕を掴み、俺は確保している宿屋の一室まで突っ走った。防衛本能が人前で騒ぐことを怖れたのである。興奮を隠し切れない少女は、部屋へ入るなり嬌声を上げた。
「当たってるじゃないっすか!」
「だよな! やっぱり見間違いじゃないよな!」
二人でモリオンの数字を再度読み上げて狂喜乱舞する。
どれくらい喜んでいたのだろう。
疲れ果てた俺は寝台に大の字で寝転んでいた。
椅子に腰を下ろした少女が興味深そうに疑問符を投げかけてくる。
「なにと交換するつもりなんすか?」
「そう言えば賞品の詳細を知らないな」
冷静さを取り戻した俺は、乱華に詳細を教えてもらう。
これまでの流れを鑑みると賞品の内容は、そのときの価値により変動するらしい。
常にバージョンアップを予定しているMMOでは、それが当然らしく、むしろ不変な存在は選択肢を減らす悪とされている。
「とりあえずNPCのところへ行かないっすか?」
「そうだな。一度賞品を見てから吟味したい」
意見が一致したところで外へ出る。
蝙蝠の仮装をしたNPCの周辺は、賞品を求める冒険者で混雑していた。
当選したモリオンをトレードして、選択肢の中から賞品を指定する。
トレードウィンドウは当事者以外不可視のため、他者に当選の有無や交換した賞品を知られることはない。また交換賞品一覧は非当選者にも開示されているので、売買可能な素材や装備品の流通を待ち望む者も多かった。
「五等『マペットの玉繭』を五万で売ってくれませんか?」
「四等『海豚亭お食事券』を十万以上で購入します。交換前の価格に関する問い合わせも大歓迎! お気軽に声をかけてください」
こういう類の声が鳴り止まない。鬱陶しく感じる人もいるのかもしれないが、個人的に市場のような活気は嫌いじゃなかった。いつも妹や姉貴が馬鹿騒ぎしている環境で育ったので、ちょっと賑やか過ぎるくらいが丁度心地良いのである。
「やっぱり初物は人気があるんだな」
「入手経路の判明してない素材や装飾品が多いっすからね。最悪でも先行者特需は受けられる上に、後々入手困難と判明すれば二度美味いっす」
「なるほどな。とりあえず賞品を確認してみるよ」
「了解っす」
そんなわけで俺はNPCに話しかける。
いくつかの選択肢を経て、一等賞品群が表示された。
【エクスカリバー】SSS
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英雄王アーサーが愛用した片手剣
DMG:75 Delay:240
固有技<レクイエム>を使用可能
競売不可/譲渡不可/複数所持不可
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【ラグナロク】SSS
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神々に終焉をもらたす両手剣
DMG:142 Delay:420
固有技<ジャッジメント・イプクリス>を使用可能
競売不可/譲渡不可/複数所持不可
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【アトラス】SSS
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蒼穹を支えるべく誕生した両手斧
DMG:160 Delay:500
固有技<メンタルヘルス>を使用可能
競売不可/譲渡不可/複数所持不可
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【布都御魂】SSS
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荒ぶる神を退ける力を持つ両手刀
DMG:150 Delay:480
固有技<臥煙>を使用可能
競売不可/譲渡不可/複数所持不可
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その後も延々と装備不可能な伝説級の専用武器が名を連ねていた。
アルテミスの弓があれば迷いなく選択していたのだが、どうやら天使専用の武器は対象外となっているらしい。あれだけ浮かれていたのが嘘みたいに、これぞという交換したい賞品がなかった。隣で吟味している乱華に俺は率直な感想を述べる。
「伝説級の武器でも表記は単純なんだな」
「SSS級は大抵装備しないとわからない隠し性能があるんすよ」
「なんでそんなややこしいことを?」
「そのほうが入手後の楽しみが増えるじゃないっすか?」
「なるほど……確かにそれは言えてるな」
妙に納得させられながら俺は選択肢を先に進めていた。
一覧を最後まで見ていくと武器以外の選択肢が二つ出てくる。
【恵比寿の釣竿】SSS
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七福神恵比寿が使用したとされる伝説の釣竿
伝説級の獲物に対してボーナスを得る
競売不可/譲渡可能/複数所持不可
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【守護天使の指輪】SSS
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七つの美徳が刻まれた不思議な指輪
すべての攻撃を時々無効化する
競売不可/譲渡不可/複数所持不可
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恵比寿の釣竿――レベルや職業を問わず装備できるのがいいな。
しかも譲渡可能なことも嬉しい。俺は鉱山都市コークスで知り合った爺さんの顔を浮かべながら『恵比寿の釣竿』を選択していた。




