第23話「価値」
ここまでずっと「価値」は外側から与えられるものとして語られてきました。
選ばれるか、使われるか、捨てられるか。
でも今回、初めて“内側からの価値”が出てきます。
小さなもの。
なくても困らないもの。
それでも、手放せないもの。
その意味が、少しだけ言葉になります。
沈黙。
シオンの笑みは消えていた。
誰も答えない。
空気だけが重い。
レインは三人を見る。
「……ここにいたら」
「何か変わるのか?」
ヴァンは黙ったまま拳を握る。
アリアは視線を逸らしていた。
シオンだけが、静かにレインを見る。 「変わらないだろうね」
淡々とした声。
「でも」
「外に出たら変わる保証がある?」
レインは言葉を返さない。
シオンは続ける。
「価値ってのは」
「必要とされてる間だけだ」
「飽きられたら終わり」
「使えなくなったら捨てられる」
静か。
「ここも外も同じ」
諦めるような目に見えた。
「だったら」
「まだ飯が出る分」
「ここにいる方がマシだろ」
空気が落ちる。
ヴァンは俯いたまま動かない。
アリアも何も言わなかった。
レインは小さく息を吐く。
「……じゃあ」
「ここで終わるのか?」
シオンはレインを見ずに言った。
「またそれか?」
「同じことしか言えないのか?」
沈黙。
その時だった。
カチャ。
小さな音。 全員の視線が動く。
入口。 少しだけ開いた扉の隙間。
そこに、エイルが立っていた。
小さいぬいぐるみを抱えたまま。
静かに、こちらを見ている。
「……聞いてたのか」
レインが言う。
エイルは小さく頷いた。
それから。 ゆっくり、部屋へ入ってくる。
誰も止めない。
エイルは小さいぬいぐるみを胸に抱えたまま、 ぽつりと言った。
「……価値って」 少し考える。
「なくなるの?」
シオンの目が動く。
エイルは続ける。
「私」
「ずっと、番号だった」
静か。
「でも」 小さいぬいぐるみを見つめる。
「これ」
「持ってると、落ち着く」
ぎゅっと抱きしめる。
「だから」
「意味、無いとか、言わないで」
部屋が静まる。
シオンは少しだけ目を細めた。
「……それは」 「お前だからでしょ」
エイルは首を横に振る。
「違う」
静かに。 でも、はっきりと。
「レインが作ったから」
「意味あるの」
レインの目が少しだけ動く。
エイルは続けた。
「紙でも」
「人形でも」
「なくても困らないかもしれない」
一拍。
「でも」
「あると、少し違う」
静か。
「私は」
「それ、好きだから」
誰も喋らない。
エイルは少し迷ってから、 小さく言った。
「……だから」
「見てみたいの」
抱えたぬいぐるみに顔を埋める。
「外で」
「それ見た人が」 「どうなるのか」
一拍。
「……私も」
「諦めたくない」
ティアは強く言った。
「ダメだったとしても」
「あの時、やればよかった」
「こうしておけばよかったって」
小さく息を飲む。
「ずっと」
「時間が止まったみたいになるくらいなら」
視線が上がる。
「やる後悔の方がいい」
静か。
まるで、 自分自身に言い聞かせるみたいだった。
アリアの表情から、さっきまでの軽さが消えていた。
この回は「価値」の定義がぶつかる場面です。
エイルの「好きだから」は、この世界では一番弱くて、一番壊れやすい理由です。
でも同時に、それが一番“消えにくい価値”でもあります。
ここから、アリアの“本音”が、皆の価値観とぶつかっていきます。
次回も読んで頂けると嬉しいです。




