第22話「飽きる」
「同じものなのに、違う」
ぬいぐるみひとつで、 笑う子、投げる子、話しかける子。
形は同じ。 でも――使い方は、全部違う。
それでも、笑いは生まれる。
今回は、その「ズレ」と、 もうひとつの違和感の話。
小屋の中に、まだ笑い声が残っている。
子供たちはぬいぐるみを手に、 思い思いに遊んでいた。
レインは、それを見ていた。
(……使える)
一拍。
(……試すか)
それでも――
「見て!これ、ズンチャン!」
ミレアが得意げに掲げたのは、妙に足の多いぬいぐるみだった。
「……だからなんで虫なんだよ」
カイは顔をしかめる。
ミレア
「いいでしょ!かわいいじゃん!」
カイ
「どこがだよ!」
サリアが横で笑う。
「でもちょっと動きそうだよね、それ」
カイ
「動くわけないだろ」
レインは、少し離れた位置からそれを見ていた。
サリア
「お待たせ、できたよ」
白やグレー、淡いピンクのフワモコが、子供たちの手に渡る。
子供の女の子
「お姉ちゃん、ありがとう」
「大切にするね」
ぎゅっと、フワモコを抱きしめる。
子供の男の子
「トコトコ、ピョーン!」
ぬいぐるみを走らせて、そのまま振り回す。
別の子は、床に転がしたフワモコを追いかけて――
そのまま笑い転げた。
小屋の中に、ぱっと声が広がった。
サリアは、その様子を見て――
少しだけ目を細めた。
「……かわいいね」
「ジュドォーン!!」
ぬいぐるみがぶん、と振り回される。
カイ
「……どこがだよ」
「ウサギ、無傷だぞ」
レインは、黙ってそれを見ていた。
(……なんだ、これ)
投げて遊ぶ子。
抱きしめる子。
話しかけている子もいる。
同じものなのに、違う。
笑っている。
ただ、それだけなのに。
胸の奥が、わずかに動く。
(……遊んでる)
ぬいぐるみを持って、声を変えて、動かして。
笑いが生まれている。
(……これで、いいのか)
完全じゃない。
上手くもない。
それでも、確かに――
「もう一回やって!」
「さっきのやつ!」
声が重なる。
レインの胸の奥が、わずかに動いた。
(……これで、笑うのか)
わからない。
笑い声が、小屋の中に広がる。
そのとき。
「オー……タノシソウ」
後ろから、のんびりした声がした。
振り向くと、ジョンが立っていた。
その少し後ろ。
壁にもたれるようにして、トーマがいた。
腕を組んだまま、子供たちを眺めている。
「……賑やかになったな」
ぽつりと、呟く。
ぬいぐるみをひとつ手に取り、くるくると眺める。
にこにことした顔。
そして、軽く言った。
「リベルタス、コレ……タクサンアル」
一瞬、空気が止まる。
「マンガ、アニメ、オモチャ」
「コレ、ミンナ、アソブ」
子供たちが顔を上げた。
「……いっぱい、あるの?」ミレアが聞く。
「……は?」カイが眉をひそめる。
「え、今のって……」サリアも戸惑う。
ジョンは首をかしげる。
「ウン。フツウ」
あまりにも軽く。
当たり前みたいに。
レインの中で、何かが引っかかった。
(……たくさん?)
(……遊ぶ?)
(……普通?)
そのとき、ジョンがぬいぐるみを指でつつきながら、続ける。
「コレ、カッテ」
「スグ、アキル」
「タノシイ、スグオワル」
静かに、空気が変わった。
トーマは、その様子を眺めたまま――
「……そりゃ、そうだろうな」
「与えられたもんは、飽きる」
小さく、呟く。
一拍。
「ツギ、カウ」
静かに、空気が変わった。
誰も、すぐに言葉を返せなかった。
レインの中で、その言葉だけが残る。
(……飽きる?)
視線を落とす。
手の中のぬいぐるみ。
歪で、不格好で――
さっきまで、笑っていたもの。
(……これが?)
横では、ミレアがまだ遊んでいる。
カイも、呆れながら付き合っている。
サリアは笑っている。
(……こんなに、笑ってるのに)
答えは出ない。
ただ、違和感だけが残った。
ジョンはもう、別のぬいぐるみを手に取っていた。
さっきの話なんて、気にしていないみたいに。
レインだけが、少しだけ止まっていた。
(……なんだ、それ)
夜。
部屋は静かだった。
小さな机の上に、ぬいぐるみがひとつ置かれている。
レインは椅子に座ったまま、それを見ていた。
(……笑ってた)
昼間の声が浮かぶ。
(……楽しかった)
わずかに、口元が動く。
でも――
「マンガ、アニメ、オモチャ」
「ミンナ、アソブ」
(……たくさん、ある?)
指が、ぬいぐるみに触れる。
「スグ、アキル」
(……飽きる?)
その言葉だけが、妙に残っていた。
ぬいぐるみを持ち上げる。
(これが……すぐ、いらなくなる?)
しばらく、黙る。
答えは出ない。
ただ――
胸の奥に、ひとつだけ残るものがあった。
(……違う)
(あれは、勝手に笑ってた)
ゆっくりと、ぬいぐるみを机に戻す。
視線が、横へ流れる。
ノート。
手を伸ばす。
開く。
白いページ。
ペンを持つ。
一瞬、止まる。
(……作る)
小さく、息を吐いた。
(飽きるなら)
一拍。
(……飽きないものを、作ればいい)
ペン先が、紙に触れる。
――かり、と音がした。
――“試す”ために。
「楽しいは、すぐ終わる」 「次を買う」
それが“普通”の世界。
でもレインは、そこで止まった。
同じぬいぐるみで、 あんなに笑っていたのに。
(……違う)
この違和感が、 次の一歩になります。
――「飽きないもの」を作る。
ここから、少しずつ変わっていきます。




