第20話「分けられている」
“選ばれる”ことは、本当に幸せなのか。 行き先が違うだけで、 人の価値まで変わるのか。
レインは、初めて“構造”を目で見る。
移送官の声が、森の空気を切った。
「レイン・アルト」
「ノヴァリス行きだ」
「乗れ」
一拍。
レインは、息を吸った。
手の中の重みを確かめる。
ワカメ。 コマ。竹とんぼ。
硬いパン。 紙。 クレヨン。
(……持ってる)
消えていない。
足を踏み出す。
森の外。 開けた場所に、三台のバスが並んでいた。
色が違う。 扉の上に、行き先が書かれている。
「リベルタス行き」
「ノヴァリス行き」
「国内補助教育」
ざわめきが広がる。
「孤児って毎年優秀だから、十六歳になったら全員リベルタス行きなんだってさ」
「本当スゲェなぁ」
学年関係なく羨ましそうにバスを見る。
「国内補助教育って、いつからあったっけ?」
「さぁな」
その中に、“疑問”はなかった。
子供たちの声。
期待と、不安と、少しの誇らしさ。
国内補助教育って、いつからあったっけ?
さぁな。
その中に、“疑問”はなかった。
子供たちの声。
期待と、不安と、少しの誇らしさ。
その中で――
レインは、立ち止まった。
三台。 確かに、違うはずなのに。
目を細める。
扉の奥。 並んだ座席。
乗り込んでいく子供たち。
椅子の配置。 間隔。 奥行き。
――見覚えがあった。
さっき、隣で見たのと。
一つも、違わない。
視線を、横に滑らせる。
「次、こっち!」
係員が手を振る。
振り分けられていく子供たち。
親と話しているやつ。 無言で連れて行かれるやつ。
(……分けてる)
でも――
(分けてる“だけ”)
誰かが言った。
「孤児は、色んな国に行くんだって」
「いいな……自由じゃん」
笑い声。
一拍。
(……本当に?)
「孤児はあっちだ!」
誰かの声。
小さなざわめき。
でも、すぐに消える。
当たり前のように。
レインは、三台目のバスを見た。
――詰め込まれていく。
押される。
詰められる。
隙間を埋めるように。
(……多い)
バスの大きさは、同じだった。
「早く乗れ」
移送官の声。
背中を押される。
レインは、ノヴァリスと書かれたバスの前に立つ。
一歩。
足をかける。
中に入る。
座席。 匂い。 空気。
どこにも“違い”はない。
(行き先だけが、違う)
それだけ。
奥に座る。
窓の外。
別のバスに、子供たちが乗せられていく。
笑っているやつ。
泣いているやつ。
何も分かっていないやつ。
視線を、横にずらす。
――あっちは、違う。
一拍。
(……こっちだけだ)
外の空気が、遮断される。
小屋の熱も。 声も。 笑いも。
全部。
切り離される。
レインは、膝の上に手を置いた。
その中にあるものを、確かめる。
(……持ってる)
まだ。
消えていない。
ゆっくりと、目を閉じる。
(……見る)
この先を。
何があるのか。
何を、されるのか。
そして――
何を、作れるのか。
バスが、動き出した。
「違いがあるように見せて、実は同じ構造」 を意識して書きました。
バスの色や名前は違う。 でも中身は同じ。 なのに、“扱い”だけが違う。
レインはそこで、 「分けられている」のではなく、 「振り分けられているだけ」かもしれない―― という違和感に気づき始めます。
あと、 ワカメ・コマ・竹とんぼ・紙・クレヨンを持たせたのは、 第一章で生まれた“笑い”や“遊び”を、 レインがちゃんと持って進んでいる証でもあります。




