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第1話「笑っているのに、笑っていない」

この物語は、

「笑いが存在しない国」で育った少年が、

“それは本当に正しいのか?”と疑問を持つところから始まります。

少し不気味で、でもどこかズレた世界の話です。

ゆっくり読んでもらえたら嬉しいです。


この国には、笑いがない。

――なのに、教室では毎日“クスクス”が聞こえる。



誰も、それをおかしいとは言わない。

だから、誰も気づかない。



「昨日の夜、満月きれいだったね」

「うん、すごく暗かったね」

小さな笑い声が漏れる。

教室の後ろで、レイン・アルトは顔を上げた。



今の、どこが面白い?

「昨日、パン食べた」

「私も」

また、同じ反応。



(オチもズレもない)

それなのに――笑っている。

レインは立ち上がった。



「それ、本当に面白いのか?」

二人はきょとんとした顔をした。

「え?」

「いつもの会話だろ?」

レインは首をかしげる。

「どこが面白い?」



二人は少し考えた。

それから――また、笑った。

「なんとなく?」



「……」

レインは黙り込む。

教室を見渡す。

同じような会話と反応。



(まただ)

レインは真剣な顔で言った。

「全く顔が笑っていない!」

教室が静まり返る。

「大爆笑したことがないのか!?」



「なんだよ急に」

「変なやつだな」



レインは机に手をつき、身を乗り出した。

「こうだ!」

大げさに手を叩き、腹を抱える。



「あっははははっ!」

教室に、その声だけが浮いた。

乾いた空気の中で、ひどく場違いな音。



誰も、どう反応していいか分からなかった。

「これが大爆笑だ」

圧倒されるクラスメイト。



――笑う者はいない。

レインは、周りを見て気づいた。

自分だけが、間違っているみたいに。



「な、なんでお前そんなこと知ってるんだ?」

「知るわけないだろ」



(……見たことがある気がする)

「そうか」

“理由のある笑い”を――

自分でも、はっきりしない記憶。



「休み時間終わっちゃう。もう行こうぜ」

クラスメイトたちは去っていった。



レインは廊下に出る。

(やっぱり、分からない)



昼休み。

隣のクラス。

「毎日同じだよね」

「うん、変わらないね」

クス、と笑う。



(……同じだ)

内容は違う。

反応だけが、同じ。

「……おかしい」



(この国の笑いは、おかしい)

レインはノートを開く。

『会話→反応

理由なし

習慣?』

ペンが止まる。



(なぜ俺だけ、こう思う?)

頭の奥に、言葉が浮かぶ。

――大爆笑はこうだ。

(……どこで見た?)

放課後。



レインは図書室にいた。

「お笑い……」

本棚を見て回る。

歴史。

政治。

宗教。

――どこにも、ない。



レインは司書に聞いた。

「笑える本はありますか?」

司書は首をかしげる。

「……笑える本?」



「はい」

司書は少し考えて、首を振った。

「そういう本は置いてないわ」



「……ない?」

「ええ。本は学ぶためのものだもの」

「笑うための本は……ここ数十年、見たことがないわね」



レインは考えながら言った。

「じゃあいつまで、あったんですか?」



司書は少し首をかしげた。

「さぁ……気にしたこともないわ」



小さく呟く。

考えるなら――あそこだ。

森。

草の上にしゃがみ込む。

葉の上に、小さなカエル。

緑の葉に、緑の体。

少し離れた黄色い葉には、少し黄色い個体。

レインはノートを開く。



『環境

隠れる?』

ペンを走らせる。

自然は面白い。

理由がある。

仕組みがある。



(でも――)

「それ、カエル?」

声。

振り向く。

ミントグリーンの髪の少女が立っていた。

迷いなく隣にしゃがみ込む。

葉を覗き込む。



「この子、葉っぱと同じ色だね」

レインは少し驚く。

「……分かるのか、それ」



少女は笑った。

「生き物はね、隠れるの上手なんだよ」

レインは少女を見る。

(この子は――分かる)

初めてだ。

同じものを見て、同じことを考える人間。


少女は手を差し出した。

「私ミレア!」

森の風が吹く。



レインは、その手を見つめた。

――ズレているのは、俺だけじゃなかった。



その瞬間。

ミレアは――

誰も笑っていないのに、笑った。

まだ誰も知らなかった。


ここまで読んでくれてありがとう。

この国の“笑い”、どこかおかしいですよね。 レインがそれをどう壊していくのか――ぜひ続きを見てください。

――――――

■登場人物紹介

レイン・アルト(15)

主人公。人の行動や日常の“変さ”を観察するのが好きな少年。

観察メモと発想力を武器に、娯楽を作ろうとする。


ミレア・フォルン(14)

虫や小さな生き物が大好きな少女。

好奇心旺盛で天真爛漫。紙芝居にも積極的に関わる。


カイ・ヴェルド(14)

銀髪の美少年で絵の才能を持つ。

クールでプライドが高いが、虫が苦手。紙芝居の作画担当。


サリア・ルクス(16)

明るく面倒見のいい姉ポジション。

子供たちをまとめる存在で、よく笑う。


セレナ・ルミエル(32)

教会の神官で子供の教育担当。

規律を重んじるが、笑いを完全には否定できない。


トーマ・エルド(47)

森に住む元神官。

かつて娯楽を広めようとして教会を追われた。

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少しずつ、三カ国の全貌が見え始める。 『笑い』『選別』『価値』が交差する異世界ファンタジー。 (※執筆・画像すべてスマホ1台で制作しています)
― 新着の感想 ―
形だけの笑いに溢れた不気味な日常。 その「ズレ」を鋭く突くレインの孤独な戦いが面白いです。 「大爆笑はこうだ!」と実演する彼の不器用な情熱が、冷え切った教室に風穴を開ける瞬間が楽しみです。 カエ…
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