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特別編:リリアさんの推し活とリルとの再会


平和になった白亜の城で、新たな「推し活」の萌芽が芽生えつつあった。



ある日の午後、ティータイムを楽しんでいると、若返ったアルドロンさんの妻、リリアさんが、そっと私たちの席にやってきた。


赤茶色の髪に濃い茶色の瞳を持つ彼女は、小柄で可憐な印象だ。


エリアス様の計らいで、若返ったアルドロンさんの妻として、彼女も若返って転生したんだ。


アルドロンさんは、この時たまたま別の任務で城を離れていた。ナイスタイミング!



「セラフィナさん、ローゼリアさん……その、お伺いしたいことがあるのですが……」


リリアさんは少し緊張した面持ちで、私たちに問いかけた。



「最近、お二人がよくお話されている『推し活』というのは、一体どういうことなのでしょうか……?その……なんだか、とても楽しそうにされているので、気になってしまいまして……」



リリアさんの問いに、私とローゼリアちゃんは顔を見合わせ、目をキラキラさせた。



キターーー!



「リリアさん!それ、とーっても大事なことだよ!」私が身を乗り出すと、ローゼリアちゃんも「そうそう!私たち、仲間が増えるの、大歓迎だよ!」と満面の笑みで頷いた。



私たちは、リリアさんに「推し活」の真髄を熱く語った。



「推し活というのはね、自分の心を最高に満たしてくれる『推し』を見つけて、その方の素敵なところを日々発見し、愛を捧げる活動のことなんだ!」



「そう!例えば、カスパール君のツンデレな優しさとか、全部が尊くて……!」


ローゼリアちゃんは興奮気味に、カスパール君の魅力を熱弁している。愛がすごい!



リリアさんは、私たちの説明を真剣な表情で聞いていた。


そして、アルドロンさんを思い浮かべるように、頬を少し染めた。


「あの……私も、推し……見つけているのかもしれません……」



その言葉に、私とローゼリアちゃんは飛び上がって喜んだ。


「リリアさん、もしかしてアルドロンさんが推しなの!?」と私。



「ええ!?やっぱりそうだよね!アルドロンさんのあの、真面目で、でもちょっと不器用なところが、たまらなく可愛いって思ってたのよ!」とローゼリアちゃん。



リリアさんは、私たちの言葉に照れながらも頷いた。


「はい……昔からずっと、アルドロンのことが……でも、勇者様方にそんな風に言われると、なんだか恥ずかしいですね」



私たちはすぐにリリアさんを「推し活仲間」として迎え入れ、早速、彼女の「推し活」の始まりを祝して、アルドロンさんとの馴れ初めを聞かせてもらうことにした。


特等席だ!





「リリアさん、アルドロンさんとどうやって出会ったの?」


リリアさんは、遠い目をしながら語り始めた。



「アルドロンは、小さい頃からずっと本ばかり読んでいて、とても賢い子でした。でも、家はあまり裕福ではなくて、ずっと苦労して育ちました。そのせいで肯定感が低いというか……頭脳は自信があっても、自分の容姿には自信がないようなことを言っていましたね。でも、私から見たら、とんでもないイケメンなのに……」



「わかるー!若返ったアルドロンさん、すごくイケメンだよね!」ローゼリアちゃんが興奮して頷くと、私も「うんうん!隠しきれない高貴な色気があるよね!」と同意した。



その会話を聞いていたルシアン様が、私の隣で少し不機嫌そうな顔をしているのが見えた。


「……セラフィナは、俺以外の男の容姿も褒めるのか?」と、小さく呟いている。



きゃー!



ルシアン様がヤキモチ焼いてる!


尊い!


この独占欲がたまらない!





リリアさんの話は続く。


「私が初めて会った時も、彼は難しい本を読んでいました。私は、こんなにも頭の良い人がいるんだと、心を奪われました。 実は学校では、私にアプローチしてくる男の子がいて、何度も誘われていたのですが、私の心はずっとアルドロンに惹かれていました。でも、アルドロンは、自分に私が振り向くはずがないと、全然私の好意に気づいてくれないのです。 どうにかして、彼に告白してほしくて……」


リリアさんは、少し照れながら、しかし懐かしそうに続けた。



「だから、ある日、私は彼に一つの難問を送ったのです。 それは、私が書いた暗号のようなもので、解き明かせば私の気持ちがわかるように仕組んでいました。彼ならきっと解いてくれると信じて……」


その話を聞いて、私とローゼリアちゃんは思わず身を乗り出した。



「それで!?アルドロンさん、解いてくれたの!?」と私。



「はい……彼がその難問を解き明かした時、すぐに私の元へ走ってきてくれました。そして、私がずっと聞きたかった言葉を……『リリア、私は君のことが……』って。それが、私たちの始まりなんです」



リリアさんは、そう語りながら、まるで昨日のことのように鮮やかにその時の情景を思い描いているようだった。


少女漫画か!



「そして、勇者様として旅立つことになった時、彼も私も、すでに初老の域に達していました。私は、彼が夢を追いかける姿を応援したくて、背中を押して送り出しました。でも、まさか、その間に私が病に倒れてしまうなんて……」



リリアさんの目には、うっすらと涙が浮かんでいた。



そのリリアさんの話を聞いていたルシアン様が、静かに口を開いた。


「……アルドロンを、あの年齢で勇者に誘ったのは、この俺だ。勇者となった彼は、長旅に出ることも多かった。その結果、彼は不在の間に、あなたを失うことになってしまった。そのことを、心から申し訳なく思っている」



ルシアン様の言葉は、深い後悔と責任が滲んでいた。


アルドロンさんとリリアさんの過去を知り、その魂の絆を理解しているからこそ、そう感じているのだろう。



リリアさんは、そんなルシアン様を見て、優しく首を横に振った。


「いえ、ルシアン様。それは違います。アルドロンは、あの時、本当に輝いていました。彼の知識と、人のためになりたいという強い気持ちが、あの旅で世界を救う力になったのだと、私は信じています。それに……こうして、またアルドロンと共にいられる……本当に、奇跡ですね」



リリアさんの言葉は、ルシアン様の心にも温かく響いているようだった。


そして、リリアさんは続けた。


「皆さんがガイア様から世界を救ってくださった後、エリアス様が私の前に現れてくださったんです。『リリア、アルドロンのところへ行く時が来ました』と。そして、私をこの城まで連れてきてくださいました。エリアス様のおかげで、こうしてアルドロンと再び巡り合うことができたんです」


リリアさんの目に宿る感謝の光は、深く、温かいものだった。


私とローゼリアちゃんは、感動のあまり、そっと涙を拭った。



「リリアさん、アルドロンさんの推し活、全力で応援するよ!」私たちは、新しい推し活仲間との出会いを心から喜んだ。





***





その頃、アルドロンは城から遠く離れた街で、小さな魔物の討伐任務にあたっていた。



若返った彼の容姿は、人々の目を惹きつける。


サラサラとした薄茶色の髪が、動くたびに光を受けて輝き、吸い込まれそうな濃い茶色の瞳は、どこか知的で優しい輝きを放っている。



どちらかといえば、女性が「可愛い」と感じるような、親しみやすいイケメンだ。


彼自身は自分の容姿に無頓着で、「こんな顔で人にどう思われるかなんて、考えたこともない」と言っていて、以前セラフィナが「推しノート」にメモするほどだったが、その整った顔立ちは、行く先々で女性たちの熱い視線を集めていた。



隠れイケメン、ここに爆誕!



今回立ち寄った宿屋でも、若くて可愛らしい娘が、アルドロンに夢中になっていた。


「アルドロン様、おかわりはいかがですか?私が注ぎますね!」


「アルドロン様、旅のお疲れはございませんか?肩をお揉みしましょうか?」


甲斐甲斐しく世話を焼く娘に、周りの客たちも「あの旅の賢者様は、モテるなぁ」と囁き合っている。



アルドロンは、そんな娘の好意には全く気づいていないかのように、ただひたすら持参した魔導書を読み進めていた。


鈍感なのか、それとも興味がないのか……いや、たぶん前者だ!



しかし、娘が飲み物を持って近づいた時、ふと顔を上げた。


「ありがとう、だが、もう十分だ。それに……」


彼は、娘の顔を真っ直ぐ見つめ、静かに微笑んだ。


その微笑みは、優しく、しかし明確な境界線を感じさせるものだった。


「私には、愛する妻がいるのでな。 彼女を置いて、他の女性に心を傾けるなど、言語道断だ」



アルドロンの言葉に、娘はショックを受けたように顔を赤くし、すごすごと引き下がった。


宿屋の客たちも、その言葉に感銘を受けたように「さすがは勇者様だ」と感嘆の声を漏らした。



アルドロンは、娘が去った後も、変わらず魔導書をめくっていた。


しかし、その瞳の奥には、どこか遠い場所を見つめるような、切ない光が宿っている。


(早く城に帰りたい……リリアに会いたい……)


彼は、リリアの面影を思い浮かべ、小さく息をついた。


若返ったとはいえ、長年連れ添った妻への愛情は、何一つ変わっていなかった。


むしろ、再び共に時間を過ごせる喜びが、彼の心をより一層強くリリアへと引きつけていた。


彼は、今頃リリアが城でどう過ごしているか、そして彼女が自分の帰りを待っていることを、ひたすらに願っていた。



まさか、自分の妻が、自分の推し活を始めているとも知らずに……。





***





討伐任務を終えたアルドロンは、帰路の途中で立ち寄った村のパン屋で、香ばしい匂いに誘われて店に入った。



そこで彼を出迎えたのは、見慣れた、小さな男の子だった。


「いらっしゃいませぇ!」


元気な声で出迎えてくれたのは、見習いの服を着た一人の少年。


ちょっと粉のついた頬には、明るい笑顔が浮かんでいる。


まだ幼ないその顔は、以前見た時よりもほんの少しばかり精悍になっていた。



「……君は、リル、か?」


アルドロンは、思わず声を漏らした。



カスパールが、勇者たち三人を騎士団の要塞から助け出した時に、協力してくれた子供、リルだった。


リルは首を傾げた。



目の前の青年が、かつて自分を助けてくれた賢者だとは思いもしない様子だ。


アルドロンは若返っていたため、リルにとっては初対面の顔だった。



「うん!僕、リルだよ!あのね、旅の人?もしかして、勇者様がお泊りになるって聞いてたから……その、ピンクのフワフワの、ローゼリア様のお仲間……??」



リルは、まだローゼリアを「ピンクのフワフワの勇者様」と記憶しているようだった。


アルドロンは、微笑んだ。



「私はアルドロンだ。以前、お前が助けてくれた、あの賢者だよ」


そう言って、アルドロンは緑の宝珠の杖を見せた。


かつて、リルが見たことのある、賢者の杖だ。


宝珠が放つ柔らかな光に、リルの瞳がきらきらと大きく見開かれた。



「えっ……!アルドロンさん!?うっそー!そんなにわかくなったの!?」


リルは、驚きと混乱で目を見開いた。


彼の記憶の中のアルドロンは、白髪で皺の刻まれた老賢者だったのだ。



アルドロンは、リルの驚きに苦笑した。


「ああ、色々と事情があってな。世界に平和が訪れたことで、私も若返ることができたのだ」


「すごいね……!ほんとにアルドロンさんなんだ……!」


リルは、宝珠をじっと見つめ、確信したようにうんうんと頷いた。



「ところで、ここで一人で働いているのか?両親は……」


アルドロンは、以前助けた時のリルの状況を思い出し、優しく尋ねた。



リルの顔から笑顔が消え、少し寂しそうな表情になった。


「うん。お父さんもお母さんも、もうずっと前に……いまはね、このパン屋さんのおじさんが、お世話してくれてるの」



その言葉に、アルドロンは心を痛めた。


彼は、リルの瞳に、かつての自分と同じような孤独の影を見た気がした。



「そうか……。お前のおかげで我々は要塞から脱出することができた。あの時の礼を、まだ言っていなかったな。本当にありがとう、リル」


アルドロンの真摯な言葉に、リルの頬が少し赤らんだ。



「ううん、そんなことないよ……!ぼく、勇者様たちの力になれたなら、それでいいの……!」


アルドロンは、リルの頭を優しく撫でた。



そして、決意したように、真っ直ぐリルを見つめた。


「リル。もしよければ、私と共に来る気はないか? 私たちの城へ。そこには、ルシアン王や、他の勇者たちもいる。お前がもし望むなら、そこで新たな生活を始めることができる。お前が以前、我々を助けてくれたように、今度は私が、お前の力になりたい」



リルの瞳が、大きく揺れた。


パン屋での生活は決して不満ではなかったが、両親を早くに亡くした彼にとって、温かい家庭と、頼れる大人たちの存在は、何よりも魅力的に映った。


そして、何よりも、かつて助けてくれた勇者たちのそばに行ける、という事実に胸が高鳴った。



「ぼく……いく!アルドロンさんとお城にいく!」


リルの顔に、再び明るい笑顔が戻った。


アルドロンは、その笑顔に満足そうに頷いた。


そして、パン屋の主人に事情を説明し、リルの旅立ちを快諾してもらった。



こうして、リルはアルドロンと共に、白亜の城へと向かうことになったのだった。


平和になった世界で、新たな絆がまた一つ、結ばれようとしていた。

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