第十四章(1):迫る脅威と神界への扉
世界に微かな異変の気配を感じていたけれど、それは日を追うごとにひどくなった。
空はどろどろに濁り、大気は重く、まるで世界の活力が吸い取られていくような嫌な感覚がする。
これはきっと、以前ガイア様が激怒する前に感じた、あの、世界に亀裂が入るような、不穏な予感の再来だ。
「まさか……ガイア様、お目覚めになっちゃったの……?」
せっかくルシアン様と築き上げた、この平和な日常が。
私の、ルシアン様との穏やかな日々が壊されちゃうなんて。
再建された城の玉座の間には、普段の和やかな雰囲気はなかった。
今は張り詰めた空気が漂っている。
ルシアン様が真剣な表情で私たち四人の勇者と向き合っていた。
彼の蒼い瞳には、警戒心と、「大切なものを絶対に護る」という強い決意が宿っている。
私の、私のルシアン様……
本当にかっこいい。
「ガイアの気配が、強まっている……一時的な休息を終え、再び世界に干渉しようとしているようだ」
ルシアン様が静かに、しかし重い声で告げた。
うわー、ガイア様、本当に来ちゃった。
平和なこの世界、ルシアン様と頑張って護ってきたのに、やっぱり「来るべき時」は来るんだね。
あの神様が、また……。
「どうします、ルシアン様……? また、あの時みたいに、ガイア様と戦うしかありませんか……?」
私は聖剣の柄頭に埋め込まれた赤い宝珠をぎゅっと握りしめた。また戦うしかないのかな。
「武力で再び対峙しても、完全に決着をつけるのは難しいだろう。ガイアは世界の創造主だ。その根源的な力を、完全に消滅させることは……不可能に近い」
ルシアン様が眉間にしわを寄せて言う。
うん、そりゃそうだ。チートな創造神だもの。
「それに、再びあのような戦いが起きれば、世界そのものが耐えられないかもしれない……何か、別の方法を考えなければ……ガイアの真意を知り、可能ならば対話する機会を持てればいいのだが……」
対話?!
あの、人間をちっぽけな存在としか思っていないような、完璧主義のガイア様と?
いやいや、それは無理でしょう。
私たちも「他にどんな方法があるの!?」って頭を抱える。
アルドロンさんは難しい顔で腕組みしてるし、ローゼリアちゃんは不安そうに桃色の宝珠のペンダントを握りしめているし、カスパール君は相変わらずひねくれた表情で、何か考えているみたい。
ルシアン様と一緒に、この危機を乗り越える方法って、ないのかな。
その時、アルドロンさんが、杖の緑の宝珠に触れながら、何かを閃いたように声を上げた。
「ルシアン……! もしかしたら……宝珠に、神界へアクセスする能力があるかもしれん!」
「神界へ……? 宝珠に、そんな能力が……!?」
私たち、思わず叫んでしまった。
宝珠が力を覚醒させるだけじゃなく、異界へのゲートを開く能力も持ってるのは知っていたけれど、まさか、神界にまで行けるなんて。そんなことあり得る?
「ああ。創造神ガイアの神の力を取り込んだ、宝珠だ。理論上は……可能かもしれん……」
アルドロンさんが緑の宝珠を光らせながら言う。
すごい!
アルドロンさん、宝珠覚醒で得た知識、本当にすごい。
さすがルシアン様が認めた大賢者だ。もう、先生って呼んでもいいんじゃないかな。
ルシアン様は、アルドロンさんの言葉を聞き、蒼い瞳に鋭い光を宿らせた。
「神界へ……ガイアと直接、対話をする……危険な賭けだが……武力以外の方法としては、唯一の可能性があるかもしれない……」
ルシアン様はしばらく考え込み、そして、決断した。
「よし……宝珠の力を使って、神界へ行く。ガイアの真意を探り、可能ならば……対話する」
神界へ!
創造神ガイア様がいる場所へ!
武力じゃなくて、対話で!
なんて大胆な計画なんだろう。
ルシアン様。
緊張しつつも、どこかワクワクするような、複雑な感情が込み上げてくる。
私の「推し」と共に、神界へ行くなんて!
これって、最高の神界ツアー推し活になるかも。
「ルシアン様! 私も行きます! どこへだって、ルシアン様と一緒ですもの!」
「ルシアンの決断ならば、我々も共に」
「フン……面白そうじゃないか。神と直接やり合うなんて、最高だ。行こうぜ、神界へ」
私たち勇者は、ルシアン様の計画に即座に同意した。
だってルシアン様を一人で行かせるわけにはいかないし、この世界の危機を、彼一人に背負わせるわけにはいかないから。
それに、真実を知るためなら、どんな場所へだって行く。
何よりも、私の「推し」の傍を離れるなんて、絶対にしたくない。
四つの宝珠、アルドロンさんの緑、私の赤、ローゼリアちゃんの桃色、カスパール君の紫。
そして、ルシアン様の黒い宝珠の指輪。
五つの宝珠の力を合わせて、私たちは神界へのゲートを開いた。
異界へのゲートとは異なる、清らかで眩い光を放つ、神聖な扉。
そこから感じる空気は、神聖だけど、どこか冷たくて、人間には少し異質な感じがする。
世界の理を超え、神々の領域へ……
いざ、出発だ。




