第九章(2):縁の地、記憶の嵐
私たちは、三つの覚醒した宝珠が示す方向へ、ルシアン様への道を一歩ずつ進んでいく。
旅は以前にも増してスムーズになった。
アルドロンさんの膨大な知識で、危険な場所を避け、効率的なルートを選ぶ。
例えば、突然現れた古代の罠も、アルドロンさんが「これは〇〇という古代魔法の罠だ。解除方法は……」と、宝珠覚醒で得た知識を駆使して、あっという間に無力化してくれる。チートすぎる!
私も、聖剣に宿った赤い宝珠の力で、以前よりも遥かに速く、強く剣を振るうことができるようになった。現れた魔物の群れも、聖剣技で一掃!
スカッと爽快!
ルシアン様からもらった力、半端ない!
ローゼリアちゃんは、私たちの旅の疲れを癒やし、怪我を回復させ、穏やかな光で私たちを包み込んでくれる。
彼女の癒やしは、私たちの体だけでなく、心まで温かく満たしてくれる。
私たち三人の力が合わさることで、私たちは、かつての五光の勇者として活動していた頃の、あの確かな連携と、揺るぎない強さを、確実に、そして素早く取り戻しつつあった。
私たちは、あの頃の私たちに、ルシアン様と共に世界を護っていた、あの頃の私たちに戻ってきている。
そして、それはきっと、ルシアン様が宝珠に込めた願いなのだろう。
ルシアン様、見ててくれてますか?
私たち、頑張ってますよ!
***
宝珠の導きは、やがて私たちを、ある場所に導いた。
そこは、人里離れた、荒涼とした土地。
建物の姿は見えないけれど、地面には不自然な歪みがあり、微かに、複雑で、そして少し危険な魔力の気配が漂っている。ここ……何か、ありそう……!
そして、この魔力の気配……どこかで……!
ここ……もしかして……!
カスパール君の手に握られた紫色の宝珠が、突然、激しく脈打ち始める。
ドクン、ドクンと、まるで彼の心臓が早鐘を打っているみたいに。
宝珠から放たれる光が、辺りを怪しく、不気味な紫に染め上げる。
この場所……この魔力の気配……そして、宝珠の反応……!
まさか……!
ここ……ここは……!
かつて、大魔導士カスパール君が、魔法の探求に、そしてルシアン様と共に世界の真理を追い求めた、古びた魔法研究施設の跡地だった。
今は見る影もない、荒れ果てた土地だけれど、ここには、カスパール君の、ルシアン様への、そして魔法への、底知れない情熱と、探求熱が深く、深く染み付いているんだ。
ルシアン様と一緒に新しい魔法について語り合った夜、一人で禁断の領域に踏み込もうとした実験の痕跡、ルシアン様がいなくなった後も、彼が遺した資料を読み解き、ルシアン様の到達した領域に追いつこう、いつか超えようと、孤独に研究を続けた日々……彼の人生そのものが刻み込まれた場所。
ここが、カスパール君の宝珠を呼んでいる……!
場所との共鳴が始まったんだ……。
カスパール君の紫色の宝珠が、激しく、激しく脈打ち始める。
ドクン、ドクンと、荒々しく、制御できないかのように。
宝珠から放たれる光が、あたりを不気味な紫に染め上げる。
その光の中で、カスパール君の脳裏に、前世の大魔導士としての記憶が、嵐のように、怒涛のように押し寄せた。
ルシアン様と共に世界の理を解き明かそうとした、熱狂的な日々。
禁断の魔法に手を染める誘惑。
そして、ルシアン様がいなくなった後の、深い喪失感と、彼が遺した魔法の果て、世界の真実を見たいという、執念にも似た探求心。
転生後の、辛く、理不尽な境遇で心が荒んだ日々。
人間への根深い不信感と、孤独……
だが、ルシアン様を探し出したいという思いだけは、決して消えなかった。
ルシアン様……!
宝珠は、カスパール君の大魔導士としての魂と、ルシアン様への深い、深い執着、世界の真理への探求心、そして、彼の心に刻まれた闇……その全てと共鳴している。
カスパール君の探求心と、ルシアン様への想いが、宝珠の中で混ざり合い、新たな、そして少し危険な力として昇華されていく。
その時、空間の歪みがさらに強まり、眩い光と共に数体の人影が現れた。
それは、ガイア様に仕える聖裁騎士団の精鋭たちだった。
彼らは、ガイア様の紋章が刻まれた輝く鎧を身につけ、神聖な光を放つ武器を構えている。
「これ以上、宝珠の力を覚醒させることは許さん! かつての勇者たちよ、お前たちの時代は終わった! 今この世界の勇者は、我々聖裁騎士団である!」
例の騎士団長が、厳かな声で宣言した。
彼の言葉は、私たちへの明確な敵意を含んでいた。
「ガイア様は、異界の扉が開かれることを望んでおられない! 我々がこの場で、お前たちを止める!」
その言葉に、私たちはハッとした。
以前、カスパール君がガイア様の真意を仄めかしたことはあったが、まさかここまで直接的に妨害してくるとは。
ガイア様が、ルシアン様を異界に閉じ込めておきたいと考えているのだとしたら……。
その思惑が、今、目の前で明らかになったのだ。
「そんな……ガイア様が、私たちを……?」
ローゼリアちゃんが、驚きと戸惑いの表情を浮かべた。
純粋な彼女の心は、創造神がそのような意図を持っていることを信じられないようだった。
「チッ……やっぱり来たか、面倒な奴らめ」
カスパール君が、悪態をついた。彼の手に握られた紫の宝珠が、激しく脈動する。
聖裁騎士団は、私たちに向かって一斉に攻撃を仕掛けてきた。
宝珠の覚醒を妨げ、私たちを排除しようとするガイア様の意志が、その攻撃には込められているようだった。




