第六章(2):紫の残像、追憶の彼方
私たちはルシアン様の宝珠に導かれるまま、旅を続けていた。道中、例の奇妙な荒廃に頻繁に遭遇した。
かつては賑わっていたであろう街道沿いの町は、まるで嵐が過ぎ去ったかのように破壊され尽くし、建物の残骸がむき出しになっていた。
住民らしき人影はなく、ただ不気味な静寂だけがそこにあった。
「またか……」
アルドロンさんが、険しい表情で呟いた。
私たちは、この数日で同じような光景を何度も目にしてきた。
村人たちの話によれば、最近、この世界各地で謎の破壊行為が頻発しているという。その修復にガイア様が忙しくされているとも。
前の村で聞いた噂と同じだ。
幸いにも、今のところ人々の直接的な被害はないようだった。
目撃者の証言は皆一様に、「魔物を引き連れた黒い男の仕業だ」と口を揃えた。
「黒い男……髪が長くて、マントを羽織っていると? うーん、誰だろう?」
ローゼリアちゃんが首を傾げた。
私たちの知る限り、そんな容姿の魔導士には心当たりがない。
特に、私たちのカスパール君は、肩で切り揃えた髪に、お金持ちの御曹司らしい瀟洒な服装を好んでいたし、マントを羽織るようなこともなかった。
それに、彼は魔物使いではなかったはずだ。
「まさか、カスパール君が、そんなことをするはずないわ!」
ローゼリアちゃんが力強く否定した。私も同じ気持ちだった。あのカスパール君が、こんな無慈悲な破壊行為を行うなんて、信じられなかった。
アルドロンさんは、眉間に皺を寄せ、黙って荒廃した町を見つめていた。彼の緑の宝珠が微かに脈動している。
(まさか……この魔導力、どこかで感じたことがあるような……。だが、カスパールの魔導とは少し違う……いや、似ている……? いや、そんなはずはない。きっと、似たような系統の魔導使いがいるだけだろう……)
彼は頭の中で自問自答を繰り返していたが、確信には至らなかった。
カスパール君の魔導は確かに強力だったが、彼がこのような大規模な破壊を引き起こす姿は想像できなかったのだ。
***
その日の午後、宝珠が示す次の目的地へ向かう途中、ついに私たちは、その「魔物を引き連れた集団」に遭遇した。
遠くからでもわかる、おびただしい数の魔物たちが、まるで意思を持っているかのように統制され、一つの都市に向かって進軍していた。
その中心には、ひときわ巨大な影が立つ。
「あれだ……! 噂の黒い男と、魔物たちだ!」
私が叫んだ。
私たちは、その破壊行為を止めようと、無謀にも魔物の群れに近づいた。
私たちの接近に気づいたのか、魔物たちの統制がさらに厳しくなる。
そして、その黒い影が、私たちに気づくと、ものすごい速さで逃げていく。
その動きはあまりにも速く、残像しか見えないほどだった。
捉えようとすればするほど、視界からするりとすり抜けていく。
私も必死で追いかける。
やっとのこと、遠目で捉えた男の顔は、黒いマスクのような衣装で完全に隠されており、その姿をはっきりと把握することはできなかった。
しかし、一瞬、黒い影の動きが止まった。
私を射抜くように、その男がこちらを見たのだ。
その瞳は、暗闇の中で妖しく光る、紫色をしていた。
その一瞬の停止は、まるで何かを思い、ためらったかのように見えた。
「カスパール君……!?」
一瞬の停滞の後、その男は、魔物を引き連れて風のように去っていった。




