第二章(3):それぞれの道、未来への誓い
ルシアン様がこの世界から消えてから、長い時が過ぎた。
彼のいない世界は、まるで色を失ったように見えた。
それでも、私、アルドロンさん、ローゼリアちゃんの三人は、ルシアン様が命を懸けて護ったこの世界を、今度こそ完全に平和にしなければならないという、共通の使命感に突き動かされる。
悲しみは深く、言葉にならないほどだったけれど、それがかえって私たちの絆を強くした。
私が深く沈むたび、アルドロンさんとローゼリアちゃんは言葉ではなく、ただ私の傍にいてくれた。
その温かい存在が、私を一人にはさせなかった。
この時の二人には、本当に感謝している。
一人だったら、きっと、立ち直れなかっただろうから。
私は、聖剣と赤い宝珠と共に各地を旅し、ヴェクスの残党や、人間の心の歪みから生まれる争いを鎮めていく。その度に、ルシアン様ならどう考えただろう、と彼の幻影を探した。
彼のいない世界は、どこか色褪せて見えた。
それでも、いつかルシアン様が戻ってきた時のために、自分の力を高め続けた。
そして、ルシアン様が護った世界を、彼に見せられるような、美しい世界にしようと願ったんだ。
私のルシアン様……
あなたが命を懸けて護った世界は、こんなにも綺麗なんだよ……!
いつか、あなたに見てもらいたい……!
けれど、心の奥底では、私の中に深い罪悪感が芽生えていた。
ルシアン様が消えたのは、私のせいではないか。
彼を助けられなかったのは、私の力が足りなかったからではないか。
私はもう、ルシアン様のアクスタを見ることができない。
ルシアン様のアクスタの、キラキラとした笑顔は、今の私にはあまりにも眩しすぎた。ルシアン様がいない現実を突きつけられるようで、息が苦しくなる。
「ごめんなさい、ルシアン様……」
ルシアン様のアクスタを、そっと両手で包み込み、お守り袋に入れたまま、引き出しの奥深くに大切にしまい込んだ。
いつか、また心から彼を「尊い」と思える日が来ると信じて。
それは、私の「推し活」の一時的な封印だった。
アルドロンさんは、緑の宝珠の杖を手に、世界の歴史や知識をさらに深め、未来に起こりうる災厄に備えた。
ルシアン様の代わりとして、彼は、世界の知性を護らなければならないという重圧を感じていたが、そこから逃げ出すことはなかった。
彼はまた、ルシアン様が異界に跳んだことを深く憂慮し、彼を救出する術を生涯をかけて静かに調べ続ける。
ルシアン様が遺した知識と、彼自身の叡智で、来るべき未来を、静かに見据えていたのだ。
しかし、時は残酷だ。
アルドロンさんは、私たち三人の中で最初に、その長い生涯を閉じた。
彼は、亡くなる間際、かすかに微笑む。
「やっと……やっと、会える……」
彼の瞳は、病で彼より先に旅立った、美しい妻の幻を見つめているようだった。
手に握りしめた緑の宝珠の杖が、彼の最後の息吹と共に微かな光を放ち、やがて消え去る。
最後まで知識の探求を諦めず、穏やかな笑みを浮かべたまま、静かに息を引き取った。
彼の死は、私たちにとって計り知れない悲しみだったが、同時に、彼が全うした使命の重さを改めて感じさせた。
その数十年後、私にも寿命が訪れる。
病床で、私は傍らに寄り添ってくれるローゼリアちゃんの温かい手に、そっと自分の手を重ねた。
「ローゼリアちゃん……お願いがあるの……」
私は、か細い声で、あの引き出しの奥に大切にしまってあったルシアン様のアクスタを指差した。
「これを……このお守りを、私と一緒に……埋葬してほしいの……」
ローゼリアちゃんは、私の願いを察し、悲しみに潤む瞳で深く頷いてくれた。
私の最後の願いを聞き届けた後、彼女は約束通り、黒いお守り袋を、私の亡骸と共に静かに埋葬してくれた。
私の手の中で、聖剣の赤い宝珠が最後の輝きを放ち、そして消える。
それは、私のルシアン様への、そして世界への最後の祈りだった。
そして、さらに時が経ち、ローゼリアちゃんもまた、その生涯を終える。
彼女は、人々を癒やし、世界に希望を与え続けたその優しい光のまま、安らかな眠りについた。
その胸には、カスパール君が禁忌を犯し行方不明となった深い悲しみが、ずっと横たわっていた。
毎日のようにルシアン様とカスパール君の無事を祈り、いつか再び会える日が来ることを、桃色の宝珠と共に願い続けていたのだ。
彼女の手に握られたペンダントの桃色の宝珠は、その光を失い、静かに輝きを止める。
私たち三人、アルドロンさん、私、ローゼリアちゃんは、それぞれの人生を全うし、次なる場所へと旅立っていった。




