(20)事情
「ここがギブス人材紹介所で、まずあの奥のカウンターで受付をするんだが」
入り口から建物の中に入りながらルーファが説明したところで、男の声が響き渡る。
「ルーファじゃないか! 女連れとは珍しいな! まさかこんな嬢ちゃんが依頼人じゃないよな?」
そんなことを声高に尋ねてくる男に、ルーファは心底うんざりした表情を向けた。
「依頼人だったらどうするつもりだよ……」
「ルーファさん?」
壮年の男が真っ直ぐ自分達に向かってくるのを認めたアメリアが、若干不安そうにルーファを見上げる。ルーファは彼女に困ったような表情を向けながら、目の前にやってきた人物を紹介した。
「アメリア。彼がここの責任者のアレクだ。大抵はここにいるし、俺に急いで連絡を取りたい時や人手がいる時は、こいつに言ってくれ」
「おいおい、こいつ呼ばわりするなよ。初めまして。よろしくな、アメリア」
「あ、はい。こちらこそ、よろしくお願いします」
笑顔で手を差し出されたアメリアは、反射的に握手をしながら挨拶を交わした。すると手を放した直後、アレクが遠慮なく尋ねてくる。
「ところでアメリアは、ルーファとはどういう関係なんだ?」
「その……。ここを紹介してもらったお客というわけではありませんが」
「知り合いだ。最近王都に出て来た薬師について、レストから聞いていないか?」
困惑しながらも、アメリアは素直に答えようとした。しかしここでルーファが会話に割り込む。それを聞いたアレクが、合点がいったように笑みを深めた。
「そうか! 厄介事に巻き込まれやすい体質で、毛色の変わった武闘派の女薬師さんって、あんたのことか!」
(レストさん……。私のことを、一体どんな風に第三者に吹聴しているんですか!)
僅かに顔を強張らせながら、アメリアは心の中でレストに罵声を浴びせた。そんな不穏な気配を察したルーファは、小声で彼女に詫びる。
「すまない、後で注意しておく」
「いえ、次に顔を合わせた時、直接文句を言いますから大丈夫です」
そこでアレクは、改めて笑顔で申し出た。
「それじゃあ、アメリア。王都に来て日が浅くて、知り合いも少ないだろう。何か困ったことがあったら相談に乗るし、いつでもルーファに連絡をつけるから、遠慮なく来てくれて良いからな?」
「ありがとうございます」
「それはそれとして、ルーファ。ちょっと良いか?」
「ああ。アメリア、ちょっと待っててくれ」
そこでアレクはルーファに声をかけ、二人で彼女から少し距離を取った。そしてアメリアに聞こえないように、小声で言葉を交わす。
「ルーファ。彼女、お前の素性を知っているのか?」
「それは話していない。だからそのつもりで頼む」
「分かった。《《用心棒のルーファ》》だな。それはともかく、どうしてお前が女連れで街を出歩いているのかを聞かせてもらいたいんだが。お上品な社交場ならともかく、こんなところではなかっただろう?」
ニヤリと嫌らしく笑いながらの質問に、ルーファは素っ気なく答える。
「彼女の休みに合わせて、街を案内していただけだ。まだゆっくり王都内を見て回ったことがないと言っていたからな」
「へえぇ? それはそれは……」
「何だ。その含みのある物言いは?」
「含んでるからな。分かった。今後は彼女の要請なら最優先で対応しておくから安心しろ」
「……よろしく」
生温かい視線を向けられたルーファは、どうにも居心地の悪い思いをしながら礼を述べ、アメリアのところに戻った。
「ここの案内は済んだから出ようか。まだ案内したいところがあるし」
ルーファの台詞を聞いたアメリアは小さく頷き、アレクに向き直る。
「それではアレクさん、失礼します。何かありましたら、その時はよろしくお願いします」
「ああ、待ってるぜ。厄介事がなくても、ここを訪ねて構わないからな」
「分かりました。ありがとうございます」
礼儀正しく一礼して去っていくアメリアとルーファを見送ったアレクは、嬉しそうに独りごちる。
「うん、これはようやく良い報告ができそうかな? 色々と面白くなってきた」
満足そうに頷いたアレクは、いつもの仕事の顔でカウンターの奥へと戻った。




