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竜の薬師は自立したい  作者: 篠原 皐月
第3章 そして事態は混迷を深める

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(9)腹の探り合い

 その日。サラザールは、警備隊の職務中に抜け出し、ある場所に向かった。彼は目的の場所が窺える建物の陰から、慎重に周囲の気配を探る。


「あのギブス人材紹介所という所。当初考えていた以上に嫌な気配を漂わせているな。魔術師組合と関係しているとはいえ、人間にしては生意気なくらいの防御魔法と探知魔法だ」

 特に魔術を展開しなくても十分に察知できたそのレベルに、サラザールは小さく舌打ちする。


「それにしても……。この前確かにルーファとやらがあそこに入ったのは確認できたが、出て来るのは確認できなかった。あそこで寝泊まりしている様子はないし、下手に魔法で探れない。それに目眩しの魔法とか使えば分かるし、あいつ自身にそれだけの魔法を使える魔力は感じないとなると……」

 少し前、店を訪れたルーファを尾行したサラザールは、相手に気付かれずに済んだものの、彼がここに入った後に足取りを追えなくなっていた。それを探るために密かに再訪してみたのだが、色々な可能性を考えては潰し、最終的に一つの可能性に行きつく。


「もしかしたら……、物理的にあそこの地下から連絡通路とかが作ってあって、それを使って他の場所に出入りしているのか? それは少しばかり厄介だな」

「何かお困りですか?」

 サラザールがブツブツと呟きながら考え込んでいると、唐突に斜め後ろから声がかけられた。先程まで全く気配を感じなかったそこを振り向くと、見覚えのある男が笑顔で佇んでいる。


(こいつ、例の魔術師組合の副組合長⁉︎)

 ランデルが店に密かに設置した映像記録魔術媒体で、バルナーの顔を把握していたサラザールは、内心の動揺を押し隠しながら相手と視線を合わせた。


「警備隊の方が、こんな所で何をされておられるのですか?」

 若干の不審が入り混じった不思議そうな問いかけに、サラザールは無愛想に答える。


「別に。取り立てて用事はない。いつも通り、担当区域の巡回をしているだけだ」

「警備隊の巡回は通常複数人で。かつ、この辺の担当者は別の方々だったと思いましたが。いつの間にか、色々変更があったようですね」

(分かっていて言っているよな? 本当にいけすかない奴だ)

 ニヤリと笑いながら指摘してきた相手に、サラザールは無意識に眉根を寄せた。するとバルナーが、重ねて尋ねてくる。


「違っていたら申し訳ありません。アメリアさんのお兄さんですか?」

「だったらどうした」

「彼女から少し話を聞いていましたが、妹さんとあまり似ていませんね」

 それを聞いたサラザールは、更に機嫌を悪くした。確かに二人の外見は系統がまるで違う為、これまで他の者に問われるたびに口にしてきた台詞を口にする。


「俺は母親似で、妹は父親似だ。何か文句があるのか?」

「いえ、文句など……。ご両親揃って美形のようですね。平々凡々の容姿としては、羨ましい限りです」

「そうか。美形なのも、色々トラブルの元だがな」

「そうでしょうね。心中お察しします」

 訳知り顔で頷くバルナーに、サラザールは本気で苛立ってきた。これ以上魔術師などを相手にしていられるかと、素っ気なく踵を返す。


「それでは失礼する」

「ちょっと待っていただけませんか?」

 しかし素早く手首を掴まれたサラザールは、相手を見据えながら低い声で恫喝した。


「……その手を放せ。礼儀知らずと言われても、文句は言えんぞ?」

 その醸し出す気配にさすがに内心で怖気づきながらも、バルナーはそんな事は面に出さず、言われた通りに手を放しながら微笑み返した。


「すみません。ちょっとあなたとお話がしたかったものですから」

「俺にはない」

「残念です。それでは一点だけ」

「手短に」

 仏頂面のサラザールを素早く観察したバルナーは、慎重に口を開いた。


「アメリアさんからは微量の魔力を検知できますが、貴方からは全く検知できないのですよ」

「当たり前だろう。俺は故郷にいる頃から、魔力とか魔術とか知らんからな」

 サラザールは平然と、嘘八百を口にする。しかしバルナーは、何やら疑わしげに言い出した。


「アメリアさんも、以前そう言っていましたけどね。実はお兄さんの方は結構な魔力の持ち主で、そのコントロールが完璧なだけじゃないですか?」

 その指摘に、サラザールは顔が引き攣りそうになったものの、なんとか平静を装いながら言い返した。


「馬鹿か、貴様は。何を根拠にそんな事をほざく」

「勘、ですけどね。なんとなくあなたが気に入ってしまったもので」

 ニコニコとそんな事を言われてしまったサラザールは、本格的に苛つきながら悪態を吐く。


「男に好かれて喜ぶ趣味はない。消えろ」

「分かりました。それでは失礼します。ああ、ギブス人材紹介所に依頼したい場合は」

「誰が行くか!」

 憤然としながらその場を立ち去るサラザールを、バルナーは苦笑しながら見送った。


「本当に魔力持ちかどうかまでは分からないが、兄貴も別な意味で手強そうだよな……。ルーファの奴に、気合入れるように言っておくか」

 そんな事を楽しげに呟きながら、バルナーはギブス人材紹介所に向かって歩いて行った。



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