(9)腹の探り合い
その日。サラザールは、警備隊の職務中に抜け出し、ある場所に向かった。彼は目的の場所が窺える建物の陰から、慎重に周囲の気配を探る。
「あのギブス人材紹介所という所。当初考えていた以上に嫌な気配を漂わせているな。魔術師組合と関係しているとはいえ、人間にしては生意気なくらいの防御魔法と探知魔法だ」
特に魔術を展開しなくても十分に察知できたそのレベルに、サラザールは小さく舌打ちする。
「それにしても……。この前確かにルーファとやらがあそこに入ったのは確認できたが、出て来るのは確認できなかった。あそこで寝泊まりしている様子はないし、下手に魔法で探れない。それに目眩しの魔法とか使えば分かるし、あいつ自身にそれだけの魔法を使える魔力は感じないとなると……」
少し前、店を訪れたルーファを尾行したサラザールは、相手に気付かれずに済んだものの、彼がここに入った後に足取りを追えなくなっていた。それを探るために密かに再訪してみたのだが、色々な可能性を考えては潰し、最終的に一つの可能性に行きつく。
「もしかしたら……、物理的にあそこの地下から連絡通路とかが作ってあって、それを使って他の場所に出入りしているのか? それは少しばかり厄介だな」
「何かお困りですか?」
サラザールがブツブツと呟きながら考え込んでいると、唐突に斜め後ろから声がかけられた。先程まで全く気配を感じなかったそこを振り向くと、見覚えのある男が笑顔で佇んでいる。
(こいつ、例の魔術師組合の副組合長⁉︎)
ランデルが店に密かに設置した映像記録魔術媒体で、バルナーの顔を把握していたサラザールは、内心の動揺を押し隠しながら相手と視線を合わせた。
「警備隊の方が、こんな所で何をされておられるのですか?」
若干の不審が入り混じった不思議そうな問いかけに、サラザールは無愛想に答える。
「別に。取り立てて用事はない。いつも通り、担当区域の巡回をしているだけだ」
「警備隊の巡回は通常複数人で。かつ、この辺の担当者は別の方々だったと思いましたが。いつの間にか、色々変更があったようですね」
(分かっていて言っているよな? 本当にいけすかない奴だ)
ニヤリと笑いながら指摘してきた相手に、サラザールは無意識に眉根を寄せた。するとバルナーが、重ねて尋ねてくる。
「違っていたら申し訳ありません。アメリアさんのお兄さんですか?」
「だったらどうした」
「彼女から少し話を聞いていましたが、妹さんとあまり似ていませんね」
それを聞いたサラザールは、更に機嫌を悪くした。確かに二人の外見は系統がまるで違う為、これまで他の者に問われるたびに口にしてきた台詞を口にする。
「俺は母親似で、妹は父親似だ。何か文句があるのか?」
「いえ、文句など……。ご両親揃って美形のようですね。平々凡々の容姿としては、羨ましい限りです」
「そうか。美形なのも、色々トラブルの元だがな」
「そうでしょうね。心中お察しします」
訳知り顔で頷くバルナーに、サラザールは本気で苛立ってきた。これ以上魔術師などを相手にしていられるかと、素っ気なく踵を返す。
「それでは失礼する」
「ちょっと待っていただけませんか?」
しかし素早く手首を掴まれたサラザールは、相手を見据えながら低い声で恫喝した。
「……その手を放せ。礼儀知らずと言われても、文句は言えんぞ?」
その醸し出す気配にさすがに内心で怖気づきながらも、バルナーはそんな事は面に出さず、言われた通りに手を放しながら微笑み返した。
「すみません。ちょっとあなたとお話がしたかったものですから」
「俺にはない」
「残念です。それでは一点だけ」
「手短に」
仏頂面のサラザールを素早く観察したバルナーは、慎重に口を開いた。
「アメリアさんからは微量の魔力を検知できますが、貴方からは全く検知できないのですよ」
「当たり前だろう。俺は故郷にいる頃から、魔力とか魔術とか知らんからな」
サラザールは平然と、嘘八百を口にする。しかしバルナーは、何やら疑わしげに言い出した。
「アメリアさんも、以前そう言っていましたけどね。実はお兄さんの方は結構な魔力の持ち主で、そのコントロールが完璧なだけじゃないですか?」
その指摘に、サラザールは顔が引き攣りそうになったものの、なんとか平静を装いながら言い返した。
「馬鹿か、貴様は。何を根拠にそんな事をほざく」
「勘、ですけどね。なんとなくあなたが気に入ってしまったもので」
ニコニコとそんな事を言われてしまったサラザールは、本格的に苛つきながら悪態を吐く。
「男に好かれて喜ぶ趣味はない。消えろ」
「分かりました。それでは失礼します。ああ、ギブス人材紹介所に依頼したい場合は」
「誰が行くか!」
憤然としながらその場を立ち去るサラザールを、バルナーは苦笑しながら見送った。
「本当に魔力持ちかどうかまでは分からないが、兄貴も別な意味で手強そうだよな……。ルーファの奴に、気合入れるように言っておくか」
そんな事を楽しげに呟きながら、バルナーはギブス人材紹介所に向かって歩いて行った。




