第4話
「ナーサ。このくらいにしてあげてほしい。色々、問題のある子だけど、しっかり教育するから」
「あ、あんたのせいが半分くらいあるわよ!」
それは言いがかりだ。
助けるのをやめよかと思ったけど、私は続けて口を動かした。
「それに……ナーサに憧れている人もたくさんいる。みんなの見本になるべき人だし……これ以上は」
周りの人たちも、騒然とした様子で見ている。
宮廷の人たちは、それなりにナーサに対して理解があるようだけど、遠くからも気にかけるような視線がいくつもあった。
……これ以上、ナーサを自由にしていると、そんな人たちから尊敬されなくなってしまうのではないだろうか?
ナーサの身を案じての提案に、彼女はにこりと微笑んだ。
「そうだな。ただ、ルクス。部下への指導のやり方について気になったことはないか?」
「将来のことを考えると……興味ある」
「だろう? 今そのやり方を教えていると言ったら?」
「なるほど。続けても問題ない」
「助けるなら、最後までやり遂げなさいよぉ、ルクス!」
ラツィが悲鳴を上げながら、ナーサの腕を掴んだ。
ラツィの顔が険しくなったと思うと、彼女の体から魔力が溢れ出てきた。
無理やり肉体を強化したと思ったら、次の瞬間、ナーサの腕から逃れでた。
……渾身の力を籠めたのだろう。あまり他人に見せられないような顔になっていたし、今も肩で息をしている。
ラツィは拳を構え、臨戦態勢を整えている。
そんな様子を見届けたナーサは、満足そうに笑った。
「こんだけ元気ならこき使えそうだな。実戦でも期待しているからな」
ナーサはそのまま歩き去っていき、ラツィもようやくといった様子で安堵の息を吐いた。
「まったく……ルクスもアレアも酷いわ。友達が殺されそうになっているのに助けてくれないなんて!」
「でも、自業自得だったし。ね、アレア」
「あ、あはは……ど、どうでしょうか……?」
ラツィは頬を膨らまし、腕を組んでそっぽを向いた。
まだ、元気そうだけどいじけてしまったようだ。
仕方ない。
私はアレアとともに静かに列で待っていた。
改めて見てみると、今回の仕事で集められた人たちは……皆若いだろうか?
これから仕事をする、と言うよりも何やら旅行にでも行くような雰囲気の人さえもいる。
悪い言い方をするなら、緊張感がないって感じだ。
まあ、ナーサもあんな感じだったし、実はそんなに深刻じゃないのかもしれない。
ずっと気を張ることはできないんだし、このくらいの空気の方がいいのかもしれない。
そんなことを考えていると、近くの人から気になる話が聞こえた。
「今回の総指揮はガルス様が行うのよね?」
「うんうん聞いた聞いた!」
「私も! ガルス様が総指揮するっていうからすぐ立候補しちゃったわ!」
「もしかしたらお話くらいできるかもしれないしね!」
またか。
ガルスってやっぱり人気なんだ。
確かに容姿は整っているし、かなりの実力を秘めている。
一度は手合わせしたいと皆も思っているのかもしれない。
それなら、人気なのはわからないでもない。
周囲の話し声に耳を傾けていたのは私だけではなくラツィもだ。
私の前にいたラツィが首だけをこちらに向けてきた。
「そういえば、ルクス。あたしまだ詳しい話聞いてなかったんだけど?」
「詳しい話?」
「ガルス様となんだか仲良いわよね、あんた?」
「別に仲良くない」
大変不服である。
ガルスがこの前、私に声をかけてきたこともあって、周囲の視線は色々と変化している。
探るような目には何度もさらされてきて、またかという気持ちが強い。
「だってこの前の舞踏会で庇ってもらってたじゃないの。どんな関係なのよ?」
私は恋バナというのが大嫌いだった。
冒険者時代に何度かパーティーを組んだこともあり、その時の女子達に色々と聞かれたことがあったけど、私に一切の経験がないので話すような内容はなかった。
刀を振っていた方がよっぽど楽しいくらいだ。
「……それは、たまたま。ガルスが優しい人なんじゃない?」
「そもそもガルス様のことを呼び捨てだなんて!」
「私はみんなのことそう呼んでるし」
「それはそうかもしれないけど……でも、そもそもね! ガルス様は冷たい……ってわけじゃないけど、むやみやたらに他人を助けるっていうタイプでもないわよ! だから、気に入られているのよルクスは! 羨ましい!」
「なら、交代する?」
「え!? 代わってくれるの!?」
「できるのなら、代わりたい」
そうすれば、宮廷内での探るような視線もなくなるはず。
「いやぁ……ルクスさんとラツィさんは身長とか性格とか全然違いますから……無理だと思います」
「うう! アレアと違って胸の差はそんなにないのに!」
「お、大きな声で言わないでください……!」
アレアが恥ずかしそうに顔を俯かせる。
私も彼女を助けるように、ラツィをじっと見た。
「ラツィ、アレアも恥ずかしそうだし……そういう話は小さな声にするんだよ」
「口に出さないでくれませんか……っ!?」
アレアがそう叫び、ラツィが楽しそうに笑った。
「ねぇ、そういえばこれから行くルエコムンドだけど、みんなは行ったことあるの?」
ラツィの言葉に私とアレアは顔を見合わせる。
「そうですね。私も何度か行ったことがあります。……友人もいますから、とても心配です」
「……友人。無事だったらいいね」
「はい。でも、魔物が発生して危険なのはラースベドという街ですので……友人も旅行などしていなければいないはずなので……大丈夫だと信じたいです。ラツィさんはどうなんですか? 行ったことあるんですか?」
アレアの問いかけに、ラツィは首を横に振った。





