第3話
「る、ルクスさん、知らないんですか!?」
「うん」
「こ、この人はナーサさんですよ! ラツィさんが所属している第五師団の師団長で、赤竜殺しのナーサという異名を持つ人なんですよ!」
「あっ、そうなんだ。さっきラツィが色々言っていた人」
「ほぉ? うちのは、さっきの発言以外にも何か言っていたのか?」
「アホとかバカとか、色々」
「ほぉ!? いい度胸だな、ラツィ!」
ナーサが声を荒らげ、顔をずいっと近づけてくる。
「言ってないわよ! デタラメ言わないで!」
「でも、内心思ってない?」
「思ってるけど……!」
「ほぉ? 思っているのかぁ?」
「ひっ! な、ナーサ! そんなことないわ! ちょっと、ルクス! あんたが余計なこと言ったせいで、面倒なことになったじゃない!」
「それは良かった」
「良くないわよぉ!」
ナーサとラツィは私を中心ににらみ合っている。
ラツィは怯えた様子で、ナーサはどこか余裕のある表情で。
「ちょ、ちょっと……あんたのせいでこんなことになっているんだから、何とかしなさいよぉ!」
ラツィは弱気な、小さな声でそう言ってくる。
私はラツィに頷いて返し、それからナーサと向きあった。
じろっとした目が、私とぶつかる。
私はその場で、即座に反転。
ラツィと自分の場所を入れ替えるように動き、それからとんとラツィの背中を押した。
「二人で話し合うといい」
「ルクスぅ!」
腹を割って話せば、きっと納得できるはずだ。
私はラツィの背中をぐいぐいと押していき、ナーサの前に押し出した。
一体どんな面白いことになるのか……いやいや違う違う。
私は自分の本心を押し込みながら、ナーサを見る。
しばらく彼女はラツィをじろっと睨んでいたが、くすくすと笑った。
「なんだ。おまえちゃんと友達いたんだな」
「……い、いたわよ」
「安心したよ。おまえが宮廷に入る前の情報だと、いつも孤立していたって書いてあったからな」
「そ、それは情報を集めた人間の偏見よ!」
やっぱりぼっちだったんだ。
ラツィが必死に否定している中、ナーサはぽんとラツィの頭を叩いた。
「能力があっても、周りの協力がなければ発揮できないんだからな? ちゃんと周りに馴染む努力をするんだぞ?」
「わ、分かったわよ……用件は、それだけなの?」
「ああ。ま、頑張れよ」
ナーサはそう言って、視線をこちらに向けてきた。
上から下まで何かを確認するように見てくる。
「……何か変?」
「ルクス、でいいんだよな?」
「うん」
私がそう答えると、彼女の口元がにやりと緩んだ。
「なるほどなぁルクスってのが面白い奴ってのは聞いていたけど……確かに面白い奴じゃないか。どうだ? あたしの師団に来ないか?」
「今の場所も楽しいから……ラツィだけで勘弁して」
「はは、そりゃあ残念だ。ルクスの分も、可愛がってやるからな」
「いやぁ! ルクス、あたしと交換しなさいよ!」
ラツィが悲鳴を上げたが、ナーサの意見が変わることはなかった。
彼女は手をひらひらと振って、去っていった。
それを見届けたラツィはほっと息を吐いてから、額を拭った。
「……ふう、なんとかなったわね」
「ラツィは悲鳴しか上げてなかったと思うけど」
「ふふん! ああやっておけば、結構ナーサも優しくしてくれるのよ! 計画的悲鳴よ!」
「そっか。今のこと伝えてくるね」
「やめて!」
ラツィがぐっと腕を掴んでくる。
今にも泣き出しそうな必死の顔だったので、私から伝えることはやめようと思った。
別に、伝える必要もなさそうだし。
「でも、随分と仲良さそうだった」
「仲良くないわよ! あんなおばさんとは!」
「そっか。ラツィ」
「何?」
「まだナーサいる」
「………………へ?」
私がラツィの後ろを指さすと、彼女はゆっくりと体を後ろに向けた。
まるで、壊れかけの人形のような不安定な動き。
振り返り終わったラツィは、びくん! っとひときわ大きく震える。
「ほぉ、ラツィ。色々面白いことが聞けたなぁ」
「……あ、あはは……き、気のせいじゃない?」
「あたしが、まさか聞き間違えるなんてあると思うか?」
「そ、それは……た、たまにはあるんじゃない? じ、人生長いと……」
「直訳すると耳が遠くなったってこと?」
「ルクス! 年取ったとかそういう発言は駄目よ! ナーサ気にしてるんだから!」
「そこまでは言ってない」
「しまった!」
ラツィが口元に手をやるのと、ナーサの体が消えたのは同時だった。
……消えた、のではない。
あまりにも素早い動きで、そう見えただけ。
ナーサはまるで瞬間移動でもするかのような速度でラツィの背後を取ったのだ。
ナーサはその勢いのまま、拳骨でラツィのこめかみを挟んだ。
「余計なこと考える悪い頭にはお仕置きが必要だよなぁ!」
「い、いだい! よ、余計なことじゃないわよ! 事実を言っただけよ!」
あっ、開き直った。
しかし、その言葉によってナーサの腕にさらに力がこもったのが分かった。
ラツィが涙目とともにこちらへ腕を伸ばしてきた。
「助けてルクスぅ! 頭が割れちゃう!」
「それは掃除が大変そう」
「違う! あたしの心配しなさいよぉ!」
まだ冗談に返事をする元気はあるようだ。
でも、このまま放っておくとラツィは南の国ではなく病院送りになる可能性がある。
できれば一緒に行きたいので、ナーサを止めることにした。





