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野良猫(仮)のあきらめは悪い!  作者:
第1章 異世界旅日記編
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黄金の国 エルドラード

「もうお別れ何て寂しくなるわー。また、いつでも遊びに来てねー」


 私にすりすりとすり寄り、大粒の涙を零す赤べこちゃんの涙を首輪様に頼んで出したハンカチでそっと拭ってやる。

 天気は快晴で、ポカポカと暖かく旅立ちとしては良い日和である今日、私たちは瑞穂国を出て、別の国へと移る。

 赤べこちゃんは、この街を守る妖だからここでお別れだ。寂しくなるな。



 私の飼い主(仮)はこの世界では、不吉な黒を持つ魔物であり、あまり長く一所に留まると正体がバレル可能性が高くなるため、常に旅をしているのだ。

 体に黒い色を持つだけで、強制的に旅暮らしを強いられてしまうとは大変だね。


「はい、お土産をもってまた寄らせていただきますね」


「外の世界は本当に危険なんだから気を付けてね。ちゃんと魔物のきょうだいと一緒にいるんだよ。貴方たちもちゃんと佐藤さんを守るのよ」


「当たり前でしょう」


 当然のトーンで言葉を返し、私の頭を撫でてくれるリュイさんに私も目を細める。


 最後にもう1度、赤べこちゃんにすりすりと寄ってお別れの挨拶をしたあと、私はこちらに腕を広げたリュイさんの腕の中に飛び込んだ。









 日本に似た島国である瑞穂国を出た私たちは、リュイさんの魔法で現在砂漠の国に足を踏み入れていた。

 気候が随分変わって、空気がカラッとしていて日差しが随分強い。石造りの街並みが立ち並ぶ通りには、この国の国旗である七色の旗がはためている。


 赤べこちゃんにもらった旅本の知識を基に、この国の情報をまとめるとこうなる。


 黄金の一大産地であるこのエルドラードは、建物の飾りとして普通に金が使われている。きらびやかに彩られた豊かな国は、貧困や飢え、犯罪もなくこの世にあらわれた理想郷として吟遊詩人には歌われているそうだ。

 豊富に取れる金で財を成したこの国は福祉に力を入れていて、教育費や医療費が無料だったり、住居手当が付いたりして暖かい国からの手当てのもと人々はのびのびと暮らしている。

 社会的弱者を国全体で守るシステムが政策の中で構築されており、その上人々は当たり前のように困っている人に手を貸してくれる。


 通りを行く人々の顔は総じて穏やかで、確かにユートピアが本当に存在するのならこんな国なのかもしれないと思わせてくれる。


 この国の顔にもなる山の上に建てられた王宮は、全て金で作られており下から眺めるだけでも随分目立つ。

 太陽の光を受けて燃えているような輝きを発しており、近くによったら眩しすぎて絶対にサングラスが必要だな、と思う。


「うーん。兄さん、今日って何日だっけ?」


「えっと、確か今日から3月に入るはずだよ」


「しまった。祭りの始まる日か。道理で人通りが多いはずだよ」


 お祭りという楽しそうな響きに興味を引かれてブーリさんを見上げれば、意図を察したように説明を加えてくれる。


「今日は奇跡を起こす神の壁画を崇めるお祭りの日なんです。この日は、神の色である紫色の衣装を身にまとわなければいけないんですよ」


 だから、街ゆく人が皆紫の洋服来ているのか。民族衣装かと思っていたわ。ブーリさんは、楽し気に笑うと、私にも可愛い菫色のポンチョを着せてくれた。


 ブーリさん曰はく、今日から一月(ひとつき)だけ、神の奇跡によって普段は『死への道』と呼ばれるほど乾いた砂漠に一面の花畑が出来るのだという。何それ見たい。


 壁画が安置されている神殿は一面が金で覆われ、精緻な神や精霊の彫刻と宝石で飾られた壮麗な太陽の神殿には、たくさんの人々が集まり祈りを捧げていた。

 人ごみが凄すぎて正直壁画の上の方しか見えない。たくさんの花々が描かれているような。ブーリさん曰はく、この国を守護する白い狼と神の花畑が描かれているそうだ。

 因みに、この神殿の神官長は先天的な予知能力を持ち、信者の悩みに的確に答えてくれるためとても信奉されているらしい。


 赤い布に金糸や銀糸で施した衣装をまとい、角の生えた鬼や悪魔を思わせる仮面をかぶった人物の登場に思わず口をあんぐり開ける。神官長様と周りは膝まづき、手を合わせる光景に、え、あれがと想像と違い過ぎて遠い目になる。これが、文化の差か。


「佐藤さんは、お腹空いてない?」


 リュイさんの問いかけに、正直な私の腹が音を立てて答える。恥ずかしい。礼拝をする人の輪から外れて、石造りの家々が立ち並ぶ路地を抜けていく。一般家庭もさり気なく金で飾られていてオシャレだ。どの家にも屋根の上にはこの国の守り神である二対の狼の像が置かれていて、こちらを優しい眼差しで見降ろしている。


 路地を抜けて、人で賑わう広場を望む場所にあるレストランに入る。昼時だけあって、人が多い。


 柑橘系のソースがかかったステーキがとっても美味でした。いや、牛である赤べこちゃんの前でお肉は食べづらかったから、久しぶりのお肉嬉しい。肉汁が滴っていて、お肉が柔らかい。添えられたフライドポテトには、間にチーズが挟まっていて驚いた。

 デザートのチョコレートのタルトとバニラのアイスは、温かいチョコレートと冷たいアイスの組み合わせが、頬が落ちそうなレベルで美味しい。ただ、魔物な二人は食事を必要としないため、食べているのは私だけなのがちょっと寂しかった。

 まぁ、でもブーリさんはブラックコーヒーなのに、リュイさんは砂糖たっぷりのアイスコーヒーを満足そうに飲んでいてちょっとほっこりした。この国ではアイスコーヒーを注文すると、基本的にはアイスや生クリームが載ったとっても甘い飲み物になるのだ。本当に甘い物が好きなんだね。



 店を出ようかという所で、隣の席の人からの不穏な会話が聞こえてきて思わず動きを止める。


「最近、旅人の行方不明事件が頻発しているらしいな。この国は裕福だから、物盗りじゃ無さそうなんだけど、何だか不気味だな」


「聖なる日が近いというのに不心得者も居たもんだよな。行方不明者とは別に数体の首なし死体も見つかっているってニュースで言っていたし、夜は出歩かないようにしないと」


「家族としては、遺体だけでも戻ってきてくれた方が行方不明になるよりは幸せなのかねー。まぁ、お互い気を付けようや」


 地上に現れたユートピアにも恐ろしい犯罪はあるようです。ブーリさんが難しい顔をする。


「佐藤さん、遊びに行きたいときは俺が何処にでも連れて行くから、一人で出歩いたりしないでね」


 リュイさんのあまりに真剣な顔に思わずうなずいたが、多分猫は狙われないと思う。





 郷土の歴史を説明した博物館や、町外れにある古代文明の巨石を組み合わせた石造りの遺跡を見学して、私たちはホテルへと向かった。夕焼けが、建物を飾る黄金を、赤味を帯びた金へと美しく輝かせる。本当に、この街は美しい。現実感がないほどに。


 丘の上にあるホテルは街を見下ろす素敵な立地にあった。後ろには切り立った山々が見え、ホテルの周囲も森で囲まれている。どこからか、川の流れが聞こえてきて自然の音に癒されてしまう。


 案内された室内は、温もりのある漆喰の壁が印象的なカントリー風のお部屋だ。幾何学模様のラグマットが敷かれ、書き物机にはちょこんと民族衣装を着た可愛らしい少女の人形が置いてある。ベッドもフカフカで旅の疲れが癒される。


「あの、この部屋高くは無いんですか。大丈夫?」


「別に普通だと思うけど」


 リュイさんは首を傾げるが、この部屋の広さと豪華さはスイートルームなんじゃないかと思う。瑞穂国でも泊まったところは高級旅館だったし。


「あの、気になったんですが、旅のお金とかっていつもどうしてるんですか?」


 ベッドに座って、早速テレビを見始めていたブーリさんがこちらを向く。


「あー、それはねぇ。普通の人間には取れない場所にお宝って結構眠ってるんですよね。地下鉱脈から上質な宝石を取り出したり、深い水底に沈んだ難破船から回収されてない金貨などの宝を拾ったりしてそれをお金に代えてるんです。後は、信仰に対しての供物ですかね。兄さんとかは、弱い魔物を守る国を作っていたのでその国の魔物は人に化けて商売をして成功をおさめている者もいて、まぁ、こちらに恩を感じて便宜を図ってくれる者もいますよ」


 私の首輪様はお金まで出してくれる優れものだから、てっきり魔法でお金を出しているのかと思っていたが、物理的に回収していたらしい。


 明日は神の花畑を見に行くので、今日は夕食を取ったら早めに就寝することになった。花畑は早朝の朝もやの中で、朝日に照らし出された姿が一番美しいのだという。そうと分かったら、早起きを頑張らなければ。


 で、もって、夕食をとるためにホテルのレストランに降りたのだが、皆様思い出してほしい。私の飼い主さん(仮)とその弟は、繊細な芸術品のような美貌を持っていることを。魔物は美しい容姿で人を魅了し、逆らえなくしてから人を利用する特性を持つ。

 つまり、この二人も思考を蕩けさせるような魔性の美を誇るのだ。猫な私は平気だけどね! 昼間博物館を回った時にも、いきなり入場券を余ったからと二人分手渡されたり、お嬢さんたちの王子様を見るような熱狂的な視線がささったたり、遺跡では猫な私相手だけでなくやたらお菓子を貰ったところでまぁ、片鱗はあったがお酒も入り、旅行中の高揚感で気が大きくなった夕食の席はすごかった。


 猫ちゃんな私は通常通り従業員さんやお客さんに「可愛い」「キュート」「これ、魚料理美味しいよ。お食べ」「安心して、猫ちゃんが食べやすいようにご飯は切ってあげるからね」と至れりつくせりだった。それは良い。お礼に毛並を優しく撫でられるのもいい。私を見る目は総じて敵意の無い、可愛がってくれるような、安心できる視線だ。問題は。





 人間社会に馴染めるように彼らは普段魔力を極限まで隠している。そのため、ただの人間としか思われない。だから、普通の人は視線を向けて来るだけだが、自分に自信があるようなグラマラスでゴージャスな美女なんかは積極的に話しかけて来る。上のバーで良かったら飲みなおさない、と流し目つきで提案してくるのだが、二人は言葉は丁寧ではあるものの、バッサリと全ての誘いを断っていた。しかし、お嬢さんたちの獲物を狙う肉食獣の目が何とも怖いね。

 中には、男の人もいて「奢るから一緒に食べないか?」と自分のテーブルに誘うものや、「いいお酒が手に入ったんだ」とまさかの自分の部屋に誘うものもあった。男の一人は飼い主さん(仮)が好みだったようで、リュイさんの身体を嘗めまわすように見る視線が厭らしい。あ、こいつ今度は手を撫で始めた。誘う様な官能的な動きに思わずその人に向かって牙を出してうなる。落ち着いてとばかりに、男の手を振りほどくとリュイさんは私を抱っこしてくれる。そして、氷の様な眼差しをむけると、男は顔を真っ青にさせて逃げて行った。あ、ちょっと、いつもより魔力を滲ませていたもんね。

 瑞穂国では、ずっと夕食はお部屋でご飯を食べていた理由が分かった気がした。これは、落ち着いて食べられない。

 メインである鶏肉のハーブ煮込みの残りをかきこみ、私は部屋に戻ろうと促した。美形も大変だ。









 翌朝。

 神の花畑は信仰の地でもあることから、神殿での祈りの儀式を受けた者しか立ち入ることは出来ない。

 魔物な二人が、神殿に入るのは大丈夫なのかと一応聞いたものの、笑顔で「問題ない」と言われてしまう。なら、いいのかな。

 ブーリさんに仕えているメイドさんが作ってくれた例の花柄のリュックに、ホテルが準備してくれたお弁当と水が入ったペットボトルを入れて背負う。そして、観光客と共にリュイさんに抱っこされて、黄金が煌めく美しい神殿に入ったのだが、そこは異様な緊張感で満ちていた。仮面を被った神官が騒めく室内に向けて手を上げれば一瞬で静まり返る。


「皆、聞いてくれ。今だ神の奇跡は起きず、砂漠に花が一輪も咲いておらぬ。しかし、これは女神様からの警告なのだ。悪しき黒を宿した魔物が現れた」


 重々しい神官長の一言に皆が凍り付いた表情を浮かべ、恐怖からか泣き出したり、この世の終わりと取り乱すものまで現れた。

 黒の扱いについては、ブーリさんに聞いて知っていたがこんな反応をされるとは。黒ってそんな怖いの?


「だが、神は我らを見捨ててはおらぬ。かつて尊き神より与えられしこの災いを絶つトゥミの力をもって、その魔物を生贄に捧げよというご神託だ。幸い場所は分かっているから、私に任せろ」


 金のナイフを掲げた神官長の姿に周りは、神官長様バンザーイと五体投地決めてみたりやたら恍惚とした表情での感謝の祈りを捧げだすなど、神殿内が異様な熱気に包まれてビックリしてしまう。

 黒の魔物って、と私は恐々リュイさんの顔を見上げるが、そこには何の感情も浮かんでいなかった。

 どうやら、私の飼い主さん(仮)がまたもやピンチのようです。


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