優しい目覚めのミルクティー
明けましておめでとうございます。今年もこの小説をよろしくお願いいたします。幸多き1年となりますように。
今年は辰年ですね。ドラゴンな日奈さんと花楓くんの年だー。龍はカッコよくて好きです!
暗い暗い闇の底で私は目覚めた。ここは私の神域か。私の意識が戻ったからだろう。ポツリポツリと、周りの木々が様々な色に光始める。
魔力が全身に行き渡り、身体中に力がみなぎるのを感じる。思ったより、私はかなり自分の持つ魔力を父に封じられていたようだ。
とはいえ身体が成長しきる前に、この魔力を身の内に宿していたら、確実に暴走させた上で自滅していただろうからいいか。
「さてと。家族や皆を心配させないうちにさくっと生き返りますか」
金烏さんに首を切られたことで、人間としての私は死んだ。残る命は純粋な神としてのもの。今まで人の皮を被ってきた重みがなくなったからか、解放感がすごい。妙に身体が軽いな。
パサリ、とすぐ後ろで音がした。あら、私の背中から黒い翼が生えている。今のは無意識に自分の翼を羽ばたかせた音だったのか。
自分の服装も、絵画に描かれるギリシャ神話あたりの神々がよく着るような時代がかった白いドレスに変わっている。金糸で花の刺繍が施されているのが綺麗だ。
神様としての自分の姿がどのようなものなのか心配だったが、翼がある以外は人間寄りの姿だな。
父がライオン、母が猫。兄が豹だからてっきり私もネコ科の生き物になると思ってたんだけどな。お父さんからは翼部分しか遺伝しなかったようだ。
ちょっと残念なような、安心したような。動物は愛でたい側でなりたいわけではないからね。
さて、これだけパワーアップしたら大丈夫だ。愛良さんを今度こそ助けられる。
まずは神域から出るか。私のワガママを聞いてくれた金烏さんや天使様にお礼を言いたい。それに、不可抗力とはいえあんな光景を愛良さんに見せてしまったのだ。優しい彼はきっと気にする。下手をしたら泣いているかもしれない。だから、早く私は大丈夫だよって言ってあげたい。
さぁ、行かなくちゃ。神様は皆を幸せにするために存在するのだ。そして、傲れる者には罰を与える。私はウーンと伸びをしてから、神域から外へと飛び出した。
目を開けると、早朝の薄青い光の中に私は立っていた。見知らぬ草原が周りに広がっている。
「お姫様ー、お早いお戻りで」
地上に降り立ってすぐ。待ち構えていたかのように、金烏さんが迎えてくれた。
「ただいま。愛良さんは大丈夫でした?」
「大丈夫なわけないっすよ。おっかな過ぎて、あの場にとどまっていたら確実に殺されるから逃げてきました」
金烏さんが自分の身体を抱きしめながら震える。
「やっぱりそうでしたか。愛良様はお優しい方ですからね」
「お姫様だからこそ余計に狂ったんすよ」
金烏さんの言葉に不穏なものを感じる。体感温度が一気に10度くらい下がったよ!
「……その上、お姫様の呪いまで発動したらちょっとあの魔術師が可哀想になりますよ」
図ったようなタイミングで、私の身体からごっそりと魔力が抜け出していく。仕掛けておいた呪いが発動したか。
予想以上に早かったな。それが私の偽らざる正直な感想だった。あの表情から分かってはいたが、私は愛良さんに相当好かれていたらしい。自惚れじゃなくて良かった。
神との約束は絶対だ。それを違えた場合神罰の対象となる。私は今回それを利用したのだ。優しい愛良さんなら、私が死んでこの世界を救うことを良しとはしない。私を殺した時点で、あのマスターが愛良さんを幸せにすることなどまず出来ない。絶対に叶えられない約束を結んだ時点で、あの男は私のかけた罠にまんまとはまった。そして、約束に反した咎で私はあの男を呪ったのだ。
「どうぞ。朝のお目覚めに紅茶をどうぞ」
「ありがとうございます。少し喉が乾いていたので嬉しいです」
ミルクティーの仄かに香る優しい甘さにホッとする。余計な力が抜けていった。
「あれ、ところで天使様はどうしたのですか?」
金烏さんと一緒だったよね。
「あいつなら、あの後すぐお姫様のご家族に謝罪に行かれましたよ。ケジメを付けると言って」
そんなの良かったのに。天使様は真面目だな。私としては普段の兄と父の溺愛ぶりを知っているので、2人の反応が怖いな。私自身が叱られるのは覚悟の上だけど、天使様は完全にとばっちりだよね。どうしよう。先に天使様を助けに行くべき?
「……あいつの心配だけはいらないと思いますよ。贖罪の機会を与えてやることこそが慈悲でしょう」
「そ、そうですか?」
さすがにお父さんもお兄ちゃんも、天使様を殺すまではいかないと思うから大丈夫かな。家族は私の特性を知っているから、本当に私が死んだわけではないのを分かっているから怒りは深くないだろうし。でもちょっと心配だから、様子だけは見に行こう。
「しかし、世界そのものが怒っているような気がするんですけど、私の思い過ごしでしょうか」
「いや、正しいですよ。この星を支えているのは愛良様の魔力ですから。その神が怒りで荒れ狂っているなら、世界もその影響を受けるでしょう」
「あぁ、やっぱり」
私はそうなる可能性も予期していた。この星の人々に、いかに自分たちが危ないシステムのもと日々の生活を営んでいたか知って欲しかったからだ。
誰かの犠牲の上に成り立つ構造など、いつか破綻するに決まっている。それは壊さなければならない悪習だ。世界の終わりはもうすぐそこまで来ていることに、気づいて欲しかった。
「さてと、じゃあまずは愛良様に会いに行きましょうか」
私の神使にあたるイルカを呼びだす。そういえば、こうして呼ぶのは初めてだな。
「はじめまして。これからよろしくお願いいたします」
キュイ、とイルカは高い声で鳴くと、甘えるように身体をすり寄せてきた。可愛い!
「お姫様には、使い魔がいらしたんですね」
「えぇ、こうして会うのは初めてなんですけどね」
私の魔力から生み出されたイルカは、綺麗な水色をしていた。背中に乗ると不思議なほど安心感があった。当然のように金烏さんが私の肩にとまる。
イルカはぐんぐんと空へと浮かび上がっていく。それほど人里から離れた場所にはいなかったようだ。眼下には美しい白壁の建物が広がっている。遠くには、青く澄んだ海が見えた。
まだ、この星は美しい。あの優しい神様が全てを破壊してしまう前に、会いにいかないと。




