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野良猫(仮)のあきらめは悪い!  作者:
第5章  裁きの女神と黒百合の剣編
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新たなる旅路

「そろそろこの森を出て、愛良様のところへ向かいませんか?」


 朝食が終わった後、意を決して皆に提案する。世界樹やら森の精霊王様やら天使様やらの事件が次々起こったせいで、体感的には1日だが気づけばそれなりの日数が過ぎ去っていた。いい加減愛良さんがとても心配だ。


「随分長居してしまったもんな。色々良くしてもらって有難いけど、確かにもう出発しないとだよな」


「そんな。こちらは全く迷惑などではありませんから、もっと居て下さってかまわないんですよ」


 フィオ様がそう言ってくれるのは嬉しいけど、私たちはあの優しい神様を救わなければならない。ここからどの程度離れた場所になるかは分からないから、急がないと。


 そもそもの旅の理由を話せば、フィオ様は納得した顔で頷いてくれた。


「それは心配でしょう。では、旅に入用なものは出来る限りこちらで準備させていただきますね」


「え、いや、そこまで甘えるわけには……」


「貴方がたにはその程度では返しきれない、とてつもなく大きな恩がありますから。どうか受け取ってくださいませ」


 フィオ様の美しすぎる笑顔に、ちょっとした圧を感じるのは気のせいだろうか。






 だが、実際問題として私たちはまず何処へ向かえばいいのかが分からない。その点において、一番頼りになるのは白木さんだった。


「これからアスパダナに向かいます」


 聞き覚えのない地名だが、おそらく私たちが最初に降り立った砂漠のことだろう。脳内にアスパラガスが思い浮かんだのは内緒だ。


「『世界の半分がある』と称えられるオアシス都市か。確かにあの国の繁栄ぶりを思えば、かの神が囚われていたとしてもおかしくはないわね。研究機材だっていくらでも揃えられるでしょうし」


 菖蒲さんも納得したように頷く。砂漠の真ん中にそびえ建つ壮麗な宮殿しか印象にないけれど。確かに、『世界の半分』を手に入れたことも理解できる豪華絢爛さだったよね。そうだ。宮殿の前に訪れた菖蒲さんの神殿も立派だった。気付かなかっただけで、あの砂漠の奥には広大な街が広がっていたのかもしれない。こんな時じゃなければ観光したかった!


「アスパダナってどんな場所なの?」


 お父さんの質問に、白木さんはすぐに答えを返してくれる。



 オアシスからの豊富な水源に育まれた肥沃な大地と豊かな自然。そして、国の位置的に交易の重要な拠点にもなることから、古くから人や最新の物が集まり大いに栄えた場所なのだという。


「前まではあの国の周辺は、オアシスのお陰で緑豊かな草原やナツメヤシの森が広がる自然豊かな場所でした。私たちの仲間も大勢住んでいたのです。しかし、水源に変化はないにも関わらず急に植物が枯れ、砂漠の面積が一気に広がり死の大地になったのですよ。この森に帰ってきた妖精は神の呪いだと言っていましたが、その神が貴方がたの探す火の神ならば納得です」


 フィオ様が重々しく頷いた。うん、愛良さん相当怒っていたもんな。


「あの国は旅行者も多いですが、変に目立たないように砂漠地帯の民族衣装を着て行かれた方が良いと思われます。お礼に差上げますわ」


 フィオ様のご厚意に甘えて、服を用意してもらう。赤や黄色、青といった原色そのままの鮮やかな色彩の布で作られたワンピースがアスパダナでの一般的な女性の格好なのだという。


 この派手さ、日本じゃ絶対着れないな。


 満場一致で私用だと決まったピンクのワンピースに袖を通しながら思う。でも、複雑な植物モチーフの紋様が全面に刺繍されているのは綺麗で見ごたえがある。精緻な刺繍には随分と手間がかかっているよな。

 日光を遮るため長袖なのだろうが、見た目ほど暑くない。風通しが良く、冷んやりとした着心地だ。これなら、砂漠を行くのも幾分マシかもしれない。



 着替え終わって部屋から出ると、男性組は先に着替えて待っていた。うーん、男の人の服もすっごくカラフルで見ていると目がチカチカする。

 あれかな。砂漠の中でもすぐ見つけられるようにこんな派手な原色使っているのかな。遭難した時も、こんな派手な色は砂漠にないだろうから見つけやすいのかも。


「夕理さん、とても似合っているね。可愛いよ」


 お兄ちゃんがいち早く私に気づいて、ニコニコしながら褒めてくれる。シスコンな兄のこの反応は予想通りなので、私も笑顔でお礼を言う。


「ありがとうございます。お兄様もよくお似合いですわ」


「本当に、我が家のお姫様は何を着てもよく似合うね」


 お父さんも私の頭を撫でながら褒めてくれた。嬉しいので、自然と笑顔になってしまう。


「旅の足しになるように、少しですが食料と路銀を用意させて頂きました。どうぞお受け取りください」


「ありがとうございます」


 フィオ様ったら、準備が早い。代表してお兄ちゃんが受け取り、中身を確認するのを隣で一緒に見てギョッとする。ドライフルーツやチーズに焼き菓子、パンなんかはいい。とても有難い。ただ、袋一杯の金貨は多くないか。あと、もう1つの袋には宝石がいっぱい入っていた。


「た、大変有難いのですがこんなには」


「旅では何が入り用になるか分かりませんから、お金があるに越したことはないと思いますよ。それに、貴方がたの目的を思うと、事は早さが大事です。お金で解決できることは、出来るだけお金で解決したほうがいい」


 フィオ様が以外と黒い。あれかな。不法入国を怪しまれたときに、役人に金を握らせて黙らせろってことかな。


「あの国はお金を持つ者が正義ですから。多少の無理を押し通すためには必要な経費です」


 フィオ様は冷たく微笑んだ。私の想像は間違ってなさそうだ。








「本当に寂しくなりますね。全てが終わったら、またこの森にも遊びに来てください。私たちはいつでも貴方がたを歓迎いたしますよ」


 まだまだ安静が必要だと言うのに、森の精霊王様まで見送りに来てくれた。その心遣いは嬉しい。あと、余談だが美人のシュンとした顔って妙な罪悪感にかられるな。


「ありがとうございます。また遊びに来ますね」


「貴方がたの旅路に大きな幸運がありますように」


 私たちの元に、可愛らしい森の精霊たちが飛んできた。頭上で止まると、パタパタと背中の蝶の羽を羽ばたかせる。金の光が降り注いできて、身体に力が満ちる。これ、何かしらの加護を頂いてしまったな。


「それでは、アスパダナまでお送りしますね」


 フィオ様がウィンクすると同時に魔力を行使した。一瞬で緑溢れる森から、黄金の砂漠へと景色が一変する。


 だが、最初に訪れた砂漠とは違い、明確に人々が住む街が見える位置にあった。地理の授業で習ったアラビア半島の街の姿によく似ていた。高層ビル群が林立する姿はちょっとドバイを思わせる。

 日干しレンガの伝統的な家々と、高層ビル群の対比がすさまじいな。あら、ショッピングモールなんかもある。日本の都市に近い街だ。


「どうやらアスパダナの中心都市の近くに飛ばしてくれたみたいね」


 今度こそ愛良さんを助けるんだ。どんな手を使っても。私はそう固く決心して、砂漠の摩天楼を見上げた。

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