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野良猫(仮)のあきらめは悪い!  作者:
第5章  裁きの女神と黒百合の剣編
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再会

 さすがにエルフを傷つけるわけにはいかないので、みんなを守るように結界を張る。エルフの魔力が宿った矢は、誰にも刺さることなく透明な障壁に阻まれて消滅した。

 花楓くんは攻撃を受けてビックリしたのか、黒い竜の姿に戻ってしまう。

 素早く二投目が来る前に、フィオ様がさっと私たちの前に出た。腕を広げて「待って!」と叫ぶ。


「この方々は遠い星からいらっしゃった本物の神様なの! 手を出したら駄目なんだからね!!」


「な、なんと。それは、申し訳ございませんでした!」


 フィオ様の言葉に顔面を蒼白にすると、エルフは武器を投げ出し土下座してきた。いっそお手本のような綺麗な土下座だ。こっちの星でも謝罪の表現に土下座って有効なんだ。


「あ、えっと、顔を上げてください。私たちは人と神のハーフなのだから、人間というのも間違いではありませんし。しかも、普通いきなり見ず知らずの人間が現れたら驚きますよ」


「それでも許されることではありません。言い訳になってしまいますが、世界樹が枯れかけていることもあって気が立っていて。馴染みのない気配を纏う人間に必要以上に警戒心が湧いてしまいました。私がお願いする立場にないことは重々承知いたしておりますが、どうか罰は私だけに」


「いや、罰したりなんかしませんよ。どうか顔を上げてください」

 お兄ちゃんも苦笑した。それから、そっと促すようにエルフの肩を優しく叩く。

 エルフは恐る恐る顔を上げた。私たちの表情を見て怒っていないことが分かったのか、エルフが安堵したように表情を緩ませる。


「誤解が解けたなら俺もいいよ」


 花楓君も軽くそう言うと、竜体から人間の姿に変化しなおした。白木さんも後ろで小さく頷いている。


 しっかし、やっぱりエルフって伝承通り美形なんだな。お人形さんが話をしているみたい。ここにいる現実感がないほどに、ただただ美しい。思わず見とれてしまう。憧れの妖精さんにこの短時間で沢山会えて幸せだ。



 私の視線を不思議に思ったのか、エルフが小さく首を傾げる。さらりと金の髪が揺らいで陽の光に煌めいた。綺麗。あ、でも不躾な視線は不快か。



「ごめんなさい。エルフって初めて見たので珍しくて!」


「いいえ、お気になさらず。私たちの種族は基本生まれた精霊の森から一生出ることはないので、お会いする機会がないのは当たり前です」


 あー、やっぱりそこも地球の神話と同じなんだ。エルフは森を荒らしたり木々を伐採したりする人間が嫌いだとも言われているから、この星のエルフもそうなのかな。人間だと認識したときの敵意の表し方が凄かったし。

 先にフィオ様に会っていて本当に良かった。でなければ、こんな簡単に武器をおさめてはくれなかっただろう。







  改めて切り株のテーブルに着き、フィオ様たちが用意して下さった料理を頂く。成り行きで一緒にテーブルに着く羽目になったエルフは終始恐縮していた。


 改めて全員の自己紹介を済ませてエルフの名前を伺う。


「私はローレンと申します」


 月桂樹を意味する名前だ。植物を愛する精霊だからか、名前も植物由来なのか。


「言うか言わないか迷ったんですけど……」


 デザートの木イチゴのムースまでしっかり食べきり、紅茶を飲みながら人心地ついていると、お兄ちゃんが唐突に話を切り出した。闇夜のような黒い瞳には葛藤が見て取れる。


「先ほどから、森の精霊王様が病で臥せっているとか世界樹が枯れかけているとか、不穏な単語が聞こえてくるんですが。今、この森で何かまずいことでもあってるんですか……?」


 確かに。私もその単語は気になっていたから、食事が終わったら聞こうと思っていたんだよね。世界樹とか神話の中に出て来る樹木だと思っていたけど、この星には実在するようだ。特に世界樹が枯れるなんて、世界の終わりが来るのではないかという不安感がこみ上げてくる。



 もしや、今回愛良さんがこの星に拉致された原因ってこれなんじゃ?



「世界樹はこの世界を支え、穢れの浄化を担っているこの星においてもっとも神聖な木です。ですが、この星の人口が増え世界樹の要領を超える穢れが生き者から発せられることになりました。それでも、ここ何百年かは森の精霊王の癒しの力や人間が開発した神が浄化の一端を担うことで、なんとか世界の穢れを払っていました」


 やっぱり超重要な木じゃん! でも、今まではギリギリだけど耐えてはいたんだね。


「ただでさえとっくに世界樹が受け入れられる容量を超えていたのです。ですが、人口が際限なく増えていき、また機械仕掛けの神々も耐用年数を超えて一柱、また一柱と壊れていきました。そして、負担が増えた森の精霊王もついに限界が来て倒れられてしまったのです。今も王は意識を取り戻さないまま眠り続けています」


 フィオ様の悲痛な顔に私まで胸が痛くなってくる。フィオ様にとっては自分の大事なお父様だ。その方が眠り続けたままだなんて心配だよね。


「浄化を補助する者たちがいなくなったことで世界樹も限界が来て枯れ始めています。今は辛うじて世界の穢れを浄化できていますが、それも時間の問題でしょう」


「……世界樹が枯れたらどうなるのですか?」


「この星は支えを失い崩壊します」


 文字通りに滅亡の危機!! それを知ってしまえばはい、そうですかと知らぬふりは出来ない。

 だって、ほら一応神様だし。食事という供物を受け取ってしまえばね。

 フィオ様やローレンさんは何も言わないが、瞳の奥に微かな期待が見てとれる。お兄ちゃんは難しい顔で腕を組んだ。


「愛良や菖蒲ちゃんがこれ以上この星から搾取されないよう防ぐには、世界樹の問題をなんとかするのが手っ取り早いか」


「でも、このメンバーに癒しの力を行使できる奴いるか? 今の薺の魔力じゃ戦力外だし、俺はそもそも引いているのが魔王の血だから使える魔法が破壊系統に片寄っているんだよな」


「私であれば急場をしのぐことは可能です」


 白木さんが小さく手を上げる。


「それだと結局君たち神が使い潰されるのと変わらない。根本的な解決をするなら」


「世界樹の様子をまずは見てみてはいかがですか? もしかしたら、私の魔力でなんとかなるかもしれません」


 私の提案にお兄ちゃんが苦虫を噛み潰したような顔をした。


「あんまり、夕理さんに目立つようなことしてほしくないんだけどな」


「でも、この星は菖蒲様と白木様の故郷です。お友達の故郷が危機に陥っているのなら神として動かぬわけには参りません。それに、捧げ物もされてしまいましたし」


「あ、あの。そのようなつもりでは……」


 フィオ様の言葉に私は分かっていますよ、とばかりに微笑んでみせた。


「私にも本当に世界樹の力を取り戻せるかは分かりません。なので、期待を裏切ってしまうかもしれませんが、それでもよろしければ世界樹の様子を見せては頂けませんか?」


「ありがとうございます! お願い致します」


 なにより、この場所に私達を飛ばしたのは愛良さんだ。きっと私達にさせたいことがある。彼の意図を汲み取るためにも、まずは怪しいものを調査しないと。









 世界樹は、深い森の奥にあった。これ、案内がなかったら確実に迷っていたよね。さっきから同じ景色がずっと続いていたし。


「これがこの星を守護する世界樹になります」


 一見すると、それは樹木らしくはなかった。だが、あまりにも美しい木だ。木の幹や枝は黄金で出来ており、葉っぱの1枚1枚は真珠や、エメラルド、サファイアにルビーといった色とりどりの宝石で出来ていた。



 だが、世界樹自体が弱っているからか宝石や黄金の美しさも私の目にはくすんで見える。力を取り戻したら、この木はどれほどの美しさを見せるのだろう……。



 世界樹の状態を見るために更に近寄ったところで、木の根元で熱心に何かを祈っている人を見つけた。

 青く綺麗な長い髪をした、優しげな面差しの美少女は。


「菖蒲……様?」


「え、夕理じゃない! それに薺に星宮君も⁉ どうやってこの星まで来たの」


 菖蒲さんの無事な様子に安心して、私は飛びつくようにして彼女に抱きついた。

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