第四十一話 初恋の残滓(ざんし)
式典終了後、僕は国賓への挨拶のために白亜宮へ向かった。
まずは、ライトパレスのヴィンダーグ国王を表敬訪問する。
彼とは二ヶ月前に一週間ほどかけて親交を深めたばかりなので、それほど堅苦しくない程度の挨拶を交わした。
接待も、家令エルリックが担当しているので、安心して任せることにした。
次に、エトーリア大公ベルクブルク公爵を訪ねる。
この方とは一年近くお会いして無かったので、色々旧交を温めるところから始めなくてはならなかった。
僕がこの地を拝領したり切り取り勝手を受任出来たのは全てこの方のおかげだったし、また僕の家臣の大半はこの方に用意して貰ってもいた。
ある意味、最も重要な来賓だとも言える。
「ベルクブルク大公殿下、ご無沙汰しております。」
僕は最大限の敬意を込めて礼をする。
「ローデンシウス卿、息災なようで何よりだ。
貴卿の活躍は王都でも聞き及んでおる。余も我が事のように喜んでおるのだ。」
「それも全て、大公殿下のお陰と心得ております。
先日も経済に明るいルイーザをご紹介頂き、本当に助かりました。
あらためて御礼申し上げます。」
大公は笑いながら、
「なに、この様な美人が子供を抱えて困っておったら、何かしてやりたくなるのが人情だろう。
ただ、我が家は妻の悋気が酷くてな、こんな美人は当家では雇えないので、そなたに押し付けた、という次第だ。」
ベルクブルク大公の接待役として、壁際に佇んでいた猫族のルイーザが深く頭を下げてくる。
ところで、と、大公が顔色を改めて、
「ドワーフ国王陛下と成龍エスタレイウス殿が来ている、と言うことは、魔鉱石の鉱脈を見つけたという噂は本当なのだな?」
大公は『噂』と言ってはいるが、或いは我が家中の者から大公へ報告が上がっている可能性もある。
僕はなるべく嘘になら無いように、かつ当たり障りのないように言葉を選ぶ。
「殿下のお耳に届いた噂がどの様なモノかは存じませぬが、龍族との国境紛争を経て最終的に彼等と和睦を結び、その彼等の協力で魔鉱石の鉱脈を見つけたのは確かです。
現在は、採掘した魔鉱石の運搬を始めようとする段階で、採算ベースに乗るのはまだまだ先の状況です。」
実際には、採掘から運搬までは我が侯国の独占事業のため、鉱山から運び出した段階で、ドワーフ側からかなりの手数料が入る。
また、半年後には精錬設備を立ち上げ予定であり、そこまでいけばこの魔鉱石事業は莫大な収入をもたらしてくれるはずだ。
でも、わざわざそこまで細かいことを此方から言うことも無いだろう。
続けて、
「我等の本業は、あくまでもこのノルドホーンでの観光事業と考えております。
ドワーフ国王やエスタレイウス殿を呼んだのも、彼等との縁を大切にして、観光事業の足しにしたい、というだけのものです。
お陰で、今回のパレードも、彼等の派手なパフォーマンスで大いに盛り上がることが出来ましたし。」
僕の話をどこまで信じているのかは分からないが、大公は素直に頷きつつ、
「……で、あるか。
これは老婆心とでも言うべきものだが、我が国において、とにかく貴卿は何かと注目されやすい存在だ。
そのことは、常に意識しておいて間違いは無いと思うぞ。」
その発言は、宮廷で起きている具体的な何かを示唆しているのだろうか?
足元の政治に必死になりすぎて、王都の情報収集まで全く手が回っていない。
確かに、今後はその方面にも気を配るよう肝に命じておきたい。
「ところで、来年は国王陛下の在位20周年にあたる。
ここ15~6年は魔王との戦いに明け暮れていたので何も出来なかったが、来年は盛大に祝いたいと思っている。
恐らく、夏前辺りだとは思うが、当然貴卿にも参加して貰いたいのだが?」
僕は王国所属の貴族だ。当然参加しなければならないだろう。
……本音を言えば、王都に行けばルナに会えるかな?という、淡い期待も有った。
もちろん、会ってどうするって訳でも無かったけど。
「はい、その折にはこの辺境の地より喜んで馳せ参じます。
さぞや盛大な式典になるのでしょうね?」
僕の言葉に、大公は少し吹き出し、
「貴卿がその様な追従ごとを口にするとは思わなかった。
いや、失礼。
今や、立派な地方領主となられた様だ。余も、色々労を取った甲斐が有ったというものだ。」
その後は、接待役のルイーザも交えて、肩肘の張らない話に終始する。
大公の飾らない人柄もあり、外交辞令ではなく、思わず愉しい一時を過ごすことが出来た。
ただ、余り長居するわけにいかない僕は、頃合いを見て失礼して、次の賓客のところへと向かった。
宮廷魔術団団長エリウルは、僕と共に魔王を倒した勇者パーティーの一員だ。
僕が部屋を訪れた時には、同じくパーティーメンバーだったエルフのフィリオーネと談笑している所だった。
僕の顔を見るなり、エリウルが笑いながら、
「いよぉ、色男!ハーレム作りに勤しんでいるようだな?」
「何ですか、いきなり人聞きの悪い?」
「んん?フィリーの話だと、魔族の三人姉妹に加えて、最近は猫耳の未亡人を囲ったみたいじゃないか?」
僕がフィリーに『いったい何を吹き込んだんだ?』と非難の視線を向けるも、彼女はあらぬ方を向いて惚けた。
「三姉妹の件はともかく、猫族のルイーザさんはベルクブルク大公に紹介して頂いた新しい人材です。
ハーレムの一員なんかにしたら、僕が大公から殺されてしまいますよ。
……ま、確かに素敵な方ですが。」
最後は、フィリーへの当て付けだ。
案の定、彼女はキッと睨んでくる。
「おいおい、夫婦喧嘩は犬も食わないぞ?」
「夫婦じゃないですよ!」
「夫婦じゃないもん!」
僕とフィリーの図らずも息の合った抗議に、思わず鼻白むエリウルだった。
こうして三人揃うと、ルナが居ないのが寂しいな、と呟くエリウル。
「まぁ、身重だからしょうがないよな?」
━━━え?いま『身重』って言いました?
「へぇ、そうなんだぁ?」と、何故か嬉しそうなフィリー。
彼女の『おや?残念そうだね、ユーキ?』というからかいの視線が、僕の神経を妙に逆撫でする。
「それは、目出度いね。」と、つい台詞が棒読みとなってしまう。
ルナの妊娠なんて、初耳だった。
僕の初恋の相手であり、初めての相手でもあるルナ=ネーヴィル。
なんだか、とても切ない。
最後に、エスタレイウスの部屋を訪れた。
僕が、飛竜を使った派手な演出のお礼をすると、
「我も人族の祭り事に初めて参加したが、なかなかに楽しいものであるな?
次は我が龍の姿で現れようぞ。」
と、最近人族の風習に興味津々な彼は、本当に楽しそうに笑った。
その、自然で飾らない感じは、男の自分から見てもカッコいいと思ってしまった。
まったく、イケメンは何をしてもサマになりますな?
「ところでユーキ殿、ラミィは勉強熱心な方ですな。我等龍族の魔術や技術に興味がおありなようで、三日と空けずに我の所に通っておられる。」
え?あのラミィが勉強熱心?
それって単に、イケメンの貴方に会いたいだけだと思いますが?
浮気性みたいですし。
どうもルナの近況を聞いてから、全てに関してイマイチ面白くない僕であった……。
次回掲載は、3/14 0時を予定しております。
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