第三話 緑眼は月光のように
「まさか⋯⋯そのようなことが⋯⋯」
だが、ケヴェリアの心は弱くなかった。
「はあぁぁぁぁ⋯⋯!!」
パチン!!
彼女は両手で自分の頬を叩いた。
「泣いている場合ではありません。父上も、常に心身ともに強くあれと言っていました。そして父上を憎き罪魔の手から助け出します。すみません、ロウディアンさん、お言葉に甘えさせてもらいます」
はぁ、良かった⋯⋯。
「ええ、もちろんです。今日はゆっくり休んでください。あと、ロウディアンでいいですよ」
「では私のこともケヴェリアと」
「わかりました、ケヴェリア」
「はい、ロウディ⋯⋯クチュン⋯スビッ」
「あ、このままでは風邪をひいてしまいます、浴室を使ってください、着替えを持ってきます」
私は階段を登り、ばあさんの部屋に入った。クローゼットを開き、客人用の布生地の長衣を取り、一階に戻った。
「どうぞ」
「お借りします」
「その革袋に包まれた長い物は……マスケット銃でしょうか?ここに置いてもいいですよ」
銃口がはみ出しているのが見えた。
「えっと、はい。マスケット銃です。すみません、こんな物騒な物を……。」
ケヴェリアは銃を取り出し、私に見せた。
「問題ありませんよ、綺麗に手入れされてるので余程大事な物なのでしょう。ではこちらへ」
「ええ、父上から貰った銃でして」
「そうなんですね」
ケヴェリアと話しながら浴室まで案内した。
「ご存知だと思いますが、手の形にくり抜かれた壁に自分の手をはめると水が出てきます。ではごゆっくりと身体を休めてください」
「はい、ありがとうございます」
パタン
罪魔か……。あれが使えるだろうか……。
しばらくしてケヴェリアが浴室から出て、居間へ来た。
「どうでしたか?」
「すごく気持ちよかったです。しかもこの長衣の生地が驚くほど滑らかで、着心地も素晴らしすぎます。こんなの、手練れの職人でも難しいのではないでしょうか」
「その長衣はばあさんが客人用に仕立てました、といっても着るのはケヴェリアが初めてです。長衣も喜んでいますよ、似合っています」
「そ…そんなことありませんよー。にしてもロウディアンのおばあさまが、あれ?では、どちらに?」
「じいさんとばあさんは、近頃、老衰で亡くなりました、私は二人の養子みたいな者です。」
「そう……だったんですね」
「大丈夫です、微笑みながら苦しまずに逝かれましたので」
そう、人はいつか亡くなる
「その、ロウディアンは大丈夫ですか?少し寂しそうな声色だったので、余計なお世話かもしれませんが⋯⋯。」
「余計なんかではありませんよ。心配してくれてありがとうございます、ケヴェリアは優しくて素敵ですね」
「そ⋯⋯そんなことは」
ケヴェリアの耳は少し赤くなっていた。
「ロウディアンの方がよっぽど優しくて素敵です。隠れるために森に入りましたが、周りは次第に暗くなってゆき、雨も降り出して、それでもずっと走り続けました。寒くて、心細かったです。でも明かりが見えて、突然押しかけた私にあなたは手を差し伸べて救ってくれました。ロウディアンは私の恩人です」
「いいえ、私は当然のことをしたまでです。目の前に助けを求めているレディをただ見過ごすわけがありません」
「ロウディアンが何を言おうと、ロウディアンは私の恩人です」
ケヴェリアは少しムスッとした表情を私に向けた。
「ふふ、そうですか。さて、もう遅いです、寝ましょう」
「はい」
二階まで登る。
「ロウディアン、もう一回言わせてください」
「なんでしょうか?」
ケヴェリアはくるりと回り、肩までの黒髪を揺らしながら、私に微笑みかける。
「ロウディアン。本当にありがとう」
月光は窓を通して彼女を照らし、長衣の光沢がより鮮明に見え、緑眼の輝きはより一層磨き上げられ、その美しい瞳はこちらを見つめる。
ああ、私は心を奪われた。
「どう⋯⋯いたしまして、おやすみなさい」
「ええ、おやすみなさい」
ここまで読んでいただきありがとうございます!
ロウディアン曰く、ケヴェリアの緑眼はエメラルドに見えたらしいです。
次回も読んでいただけると嬉しいです。




