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第一話 導く者には忠誠を

 私は主君を失った、老衰だった、老夫婦だった、悲しみはそこまで感じない、私が人間ではないのもあるだろうけど、最後まで微笑んでいた。

 

 ばあさんが亡くなってから三日後じいさんもそれに連れられたかのように私を置いていった、じいさんは魔導工学、ばあさんは魔力生物学の学者、その二人の専門的知識によって「私」と自称する彼らにとっての最高傑作「ナナカマド製魔樹衛兵」が作られ、名はローワンを語源にしてロウディアンと名付けられた。


 じいさんばあさんが亡くなってから一週間たった今は十一月の中旬。

 

 私はまだ家の周りを警備していた、習慣と言えばいいのだろうか、それともこの行動こそが名残惜しさを体現しているのか私はよくわからない。

 

 ここに居続けるわけにもいかないのだろうか、じいさんばあさんがどう思うのだろうか、だからといって目的も行く当てもない。

 

 そう考えるうちに夕暮れがやってきた、鮮明に映る夕陽に人々は「綺麗」と思うのだろう、ただ私は虚しいと考えてしまう、じいさんが幾度も口ずさんでいたから……。


 「このように輝いた終わりを見せられると、老いぼれは憧れると同時に自分の残った時間を改めて考えてしまう……儚いのう」

 

 人の考えることはどうも魅力的だ、何とも言えない感情をその語彙で重ね合い、行動で体現する…私はそこまでの深い感情を持っていない、ゆえに魅力的だと感じる。

 

 やがて日は沈み、月を迎える。

 家の整理と掃除はおおまかにはできたが、所々にほこりが溜まっている……そういえばじいさんが亡くなる二日前に手紙を残したと言っていた。

 

「のう、ロウディアン、ばあさんが先に逝ってしまった、わしもすぐじゃろう……年の勘じゃ、すまない、お前を置いていくことになる…わしの引き出しに手紙を入れた、今読むのはやめてくれ、気恥ずかしい」


 じいさんの低くかすれた声はずっと頭に残るだろう。

 手紙の存在を忘れていたわけではない、だがどうしても手を引いてしまう、見て見ぬふりも潮時か。

 

 私は無造作に埋め込まれている石タイルの上から一歩足を引き、振り向く、老朽した壁と屋根には所々苔が生えている、ばあさんが幾度も払い剥がそうとしたが、じいさんは味があると聞く耳を持たなかった。

 

 ドアを開き、前へ進み、階段を登る、古い板はギシギシと鳴り、部屋全体に響く、二階に着いた後左に曲がるとじいさんの部屋がある、中に入ると正面の窓が月を映す、天井に吊るされた火が消滅したランタンと色褪せた埃をばら撒く絨毯、壁側の二台の棚には本がきっちり並べられていて、月光が照らす机は私に向いている。


 引き出しを開けると一枚の紙がただ半分に折られていた、上にはお世辞でも綺麗とは言えない字で「ロウディアンへ」と、これを読めている自分がとても信じがたい、ばあさんも読めたもんじゃないと呆れていたのに。

 

 手紙を開くと、丁寧な文字でこう書かれていた。

 

 「よう、ロウディアン、わしらがいなくなっても元気にしとるか?お前さんのことじゃからさほど心配はしておらん、どうせ家の周りをうろちょろしているんじゃろ、なにすればいいかってな、そんならこれは命令じゃ、好きに生きろ、このまま家にずっと居てもいい、外を見てきてもいい、心配するな、ここはずっとお前さんの家だ、まぁ、お前さんみたいなやつに言うのも酷なことじゃが、少しずつ模索していけばよい、ばあさんみたいなわしを引っ張ってくれる存在がお前さんにもできれば良いのじゃが、先の話かのう、最後に一つ、わしらは永遠にお前さんのことを愛している、あの時からな。」

 

 ……本当に酷なことを言う人だ……わかりましたよ、じいさん。

 

 導く者には忠誠を。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

果たしてロウディアンは手紙についてどう考えるのか?

次回も読んでいただけると嬉しいです。


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