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セイラン解封記  作者: 遠野圭人
第一章:白秋

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第十三話:龍刻

「やっぱり、記憶がないのかい? セイラン」

「はい、うっすらとしか……思い出せそうで思い出せない、夢みたいで……」


 目を覚ましたセイランは、起きるや否や抱きついてきたバツを抱えながら、頭を撫でていた。ケイリンは扉の向こうに、声をかけた。


「ユウロン、そこにいるんだろう? 昔のあんたと同じじゃないかい?」

「……そんな前のこと、覚えてねぇよ」

「嘘つくんじゃないよ。制御できずに大暴れした挙句、行くあてもなくここに流れてきたんだろう?」


 姿を現したユウロンは、素知らぬ顔をして鼻を鳴らした。


「ふん、それより小娘のことだ。いちいち気を失って暴れるようじゃ、旅を続けられねぇぞ。そこのガキも死にかけたんだからな」

「えっ、どういうこと? 本当なの?」


 バツは顔を隠すように、セイランに抱きついている。大きなため息をついたケイリンは、ことの顛末を話し始めた。


 聞き終わったセイランは、青ざめた顔で頭を下げた。


「そんな、本当にごめんなさい……バツ。皆さんにも迷惑をかけてしまって」

「そんなに気にするんじゃないよ。あんたのおかげで、助かったんだから。シャオやティエンたちもかなりの怪我を負ったが、死んじゃいないよ」


 ケイリンが治療を施してくれたのだろう。自分がすべきことだったのにと、セイランは申し訳なさで胸がいっぱいになった。


「四龍の力を受け継ぐのは、血筋ではないようでね。誰がそうなのか、力を発現するまではわからないんだ。しかも力を制御するのも困難で、いいように利用されたり身に余る力に溺れていったりして、死んでいく者がほとんどだと言われている。力の代償なのかもしれんね……」

「……俺は、そんな雑魚どもは違うがな」

「どの口が言うのやら。あんたもあの大戦の前、あの子たちに──」

「やめろ! 聞きたくねぇ!」


 遮ったユウロンの声は、いつになく鬼気迫るものがあった。怒っているのか、悲しんでいるのか、背を向けて部屋を出ていった。


「……ユウロンにも、右腕に紋様がある。龍の力を受け継いだ印だと言われていて、龍の刻印、龍刻(りゅうこく)と呼ばれるらしい。それがセイランの左腕にも、浮き出ていたんだ」


 左腕の服をまくると、うっすらとだけ見える。以前は、こんなものはなかった。


「あの腕輪はランフーから贈られたんだろう?あれには封印の力が込められていた。セイランの生活の妨げにならぬような、最低限の力だったからか、もう限界が来ていたみたいだね」

「じいちゃん……」

「もう割れたまま、戻らなくなってしまっていてね。もう封印の力は失っているみたいだが、直しておいたよ。大切なものなんだろう?」

「はい、ありがとう、ございます……」


 幼い頃のことで忘れていたけれど、この腕輪をもらう前にも意識を失ったことがある。セイランは目からあふれてくるものを、止められなかった。


「泣いてるの? 体のどこかが痛いの?」

「ううん、痛くないよ。でも、勝手に出てくるんだ……」


 バツまで瞳を潤ませていて、セイランは少し可笑しくなり、目尻の涙を拭いた。何かを隠しているのだとしても、守ろうとしてくれていたのだ。セイランはランフーの背中を、思い浮かべた。


「……おぉ、ティエン。見舞いに来たのか。照れてないで早く入りな」


 意外にもティエンが、会いに来てくれたらしい。後ろで手を組んでいるようで、ただでさえ赤みのある肌がより赤くなっているように見え、目がなかなか合わなかった。


「……助けてくれて、ありがとうございました。ちょっかいもかけちゃって、ごめんなさい」

「気にしてないから……こちらこそ、来てくれてありがとう」


 ティエンはもじもじとしている。はっきりと覚えているのは、ティエンが怪我を負ったところまでだ。何故か結界の外にいたせいで、捕まっていた。


「あのときは、どうして結界の外にいたの?」

「そ、それは……えぇっと……」


 ティエンが言い淀んでいるのに対して、ケイリンはにこやかだ。バツもセイランと同じで、不思議そうな顔をしている。


「姉ちゃんと雰囲気が似てたんです。セイラン……さんのこと、それもあって気になってて。姉ちゃんはここに来る前に死んじゃったんだけど、姉ちゃんが好きだった白い花を、探しに行ってたんだ」

「そんなつらいことが……命日だったの?」

「日は近いけど、そうじゃなくて。治してくれたお礼に、その花で腕飾りでもつくろうかと……」


 真っ赤になったティエンに、バツは近づいて頰をつついている。腕輪をつけていたから、そうしようとしてくれたのかもしれない。


「でも捕まっちゃったときに、燃えちゃった。セイランさんにもみんなにも迷惑かけて、ごめんなさい」

「あはは! お前にしては、殊勝な態度だね。でもまだあるだろう?」


 セイランは何のことかと思ったが、ティエンは一輪の花を差し出してきた。後ろ手に組んでいたのは、花を持っていたかららしい。


「これだけ握りしめてて燃えなかったんだけど、ひしゃげて萎びちゃったんです。諦めてたら、おば……ケイリンさんが綺麗にしてくれました」

「この子、火傷でうなされながらも、これだけは離そうとしなくてね。あたしの五行は土だから、花を生かすことなんてお手のものさ」

「嬉しい。本当にありがとうございます。ティエン、ケイリンさん……大切にしますね」


 セイランはその花を、そっと抱いた。ただの花ではなく、絆の証であり、人妖の架け橋になるかもしれない。


「……ただそのままじゃ、持っていくのは無理がありそうだね」


 花はいずれ枯れる。ケイリンの言うことはもっともで、旅の道中で何が起きるかもわからない。飛び回っていたバツは、セイランに近づこうとはせずに浮かない顔をしていた。


「バツ、どうしたの?」

「わたしのせいで、枯れちゃったら嫌だから……」


 バツも思った以上に気にしているようだ。

 沈んだ顔をしている面々の中、ケイリンだけは違うようで、何か言いたそうにしていた。

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