87 わしはもう72歳のジジイじゃ
「……細胞が再生し始めているな」
各自がそれぞれの闘争に挑んでいく中、メビウスは辛うじて生き残っていた。
エアーズの攻撃によって細胞再生が無効化されており、食らった攻撃を免疫や魔力で修復できていなかったが、これでようやく動ける。
と、思い、隣に転がっているフロンティアの傷口を塞ごうとしたら。
「──うぐぅ!!」
メビウスはまたもや吐血し、手にびっちゃりと血液がこびりつく。呼吸も不整脈のごとく整わず、やがて力なく地面に膝を屈してしまった。
「ばんで……メビウスさん……オレ、こんなところで死ぬのかな……」
仰向けに地面へ転がり、曇り始めた空が命運を象徴するように雨を降らす。フロンティアの弱気な口振りに、メビウスは返事すらできない。
そんなとき。
「メビウスさん! こんなやべー場面に呼んでくんねェなんて水臭せェッスよ!!」
……ごく一部の者は魔力のみで天候すら変えることができる。連邦国防軍が何度も実験したという“核兵器”に良く似ている爆発がもたらした雨は、笑顔を浮かべるサングラス姿のジョン・プレイヤーによって降り止んだ。
「やっぱりアンタ“蒼龍のメビウス”じゃん。そりゃ強くて当たり前だ」
放っておけば数分後には絶命していたメビウスとフロンティアの元に、スタスタとミンティが歩み寄ってきた。彼はこれまた軍用品の興奮剤と医療セットを両手に抱えている。
「ほら、着払い勢らしく仲良くしようぜ。ちょっとキツく閉めっけど我慢してくれ」
「ありがと……う」
「いまから死ぬわけじゃあるめェ。そんな顔するなよ」
フロンティアの治療をミンティが請け負う中、メビウスの手元には軍用興奮剤が置かれている。脳内麻薬を強制的に発生させる、下手な麻薬よりもよほど中毒性と危険性の高い劇薬である。
ジョンがメビウスに近寄ってきた頃、白い髪の少女は後ろ髪を孫娘からもらったヘアピンで止め、彼に不敵な笑みを見せる。
「戦闘準備万端って感じッスね。やっぱ弟子に獲物盗られるのは嫌なんですか?」
「当たり前だろう。わしを誰だと思っている。私は……蒼龍のメビウスだ」
やられっぱなしでは終われない。あの幼女を無力化しなければならない。いままさにメビウスたちは危害を加えられているのだから。
そんな覇気を完全に取り戻したメビウスは、興奮剤をなんの躊躇もなく心臓に打ち込む。
「って、これ腕に打つヤツッスよ? 心臓に打ち込んじゃったら後々寿命縮まっちゃう」
メビウスは、白い髪の少女は、胸に打った注射器をポケットにしまい、口調とは裏腹にニヤリと笑うジョンへ告げる。
「なにを言っておるのだ。わしはもう72歳のジジイじゃ。寿命などいまさら惜しくもないわい」
ちょっと短めでした
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