86 アンタには絶対に分からないだろうね。ヒトの情なんて(*)
「あ、どうも」
困惑のあまり頭を下げたリヒトへルーシは怒鳴る。
「リヒト!! コイツ殺る気ねェならポールの援護でもしていろ!! 無駄な味方ほど邪魔なものはないんだからよォ……!!」
ドイツもコイツも役立たず。もう自分でなんとかするしかない。道標を自分でつくらなければ、この場は切り抜けられない。
──死にかけとはいえ、蒼龍のメビウスだ。半端な反目をぶつけたところで返り討ちに遭うだろうな。と、なれば。
「あァ? まさかおれ相手に空中戦仕掛けるつもりか? 骨と一緒に愚図成分も出してンのかァ!?」
エアーズは意気揚々とルーシへ導かれるように天空高く蹴り上がっていく。アスファルトに穴が開くほどに地面を蹴ったためか、翼を広げ空でふわふわ浮いているだけの銀髪幼女の頭上をあっさり確保するのだった。
*
ラッキーナ・ストライクという高身長の少女は、廃工場の蒸し暑い個室にて身体の震えを抑えられずにいた。
「誰か、誰かタスケテ……」
話はこうだった。MIH学園の3学年、現主席のルーシ・レイノルズが魔術の稽古をつけてくれると提案してきたのだ。すこし前にメビウスへも提案したのだが、結果は彼女の意味深長で丁重な言葉で断れてしまった。だからラッキーナは、ルーシに教えを乞おうとした。あの幼女の口車に乗せられ、世間知らずの令嬢はあっさり処刑場へと自らの意志で向かっていった。
その結果がこれである。突如ルーシと黒髪巨漢に意識を失う寸前まで殴打され、半強制的に『パクス・マギア発現のために死ぬ』という旨を口に出す羽目になった。言葉にしてしまったものはそう安々と打ち消せない。
その後、ラッキーナはほとんど残っていなかった意識を振り絞り、自らの胸を割るかのように現れたふたつの魔力の塊だけは視認したのであった。
「……。バンデージさん」
目は涙で充血しており、それでも脳裏に浮かぶのは白い髪の美少女。強盗に一ミリもひるまず、達観したような態度と落ち着いた言い回し、彼女の立ち振舞いは、ラッキーナの偉大な両親を彷彿とさせる。
「……!? 爆発っ!」
なにかしらの勢力とルーシの一味が対峙している? それとも、あの魔力の塊が? あるいは両方? ラッキーナの頭は怯えに支配されている。そんなこと、当人が一番分かっている。分かっているが、どうしても足が震えて立ち上がる覚悟すら湧いてこない。
そんな折である。
個室の壁が消滅した。より正しくいえば倒壊した。されど、九死に一生を得るとでもいうのか、ラッキーナ・ストライクには埃がすこしかかるだけだった。
そこへはふたりの人物がいる。互いにラッキーナのことはお構いなしだ。もう壊せるところなんてない廃工場から発展し、いよいよこのどこだかも分からない街が区画ごと消滅しようとしているのか?
そして、声色からして女性同士の相対らしい。まさかあの白い髪の少女が助けに来てくれたか?
「ったくよぉ!! そんなにあの女が大事か? くたばり損ないはトドメ刺してやるのが人情だろ!?」
「アンタには絶対に分からないだろうね。ヒトの情なんて」
突如として現れた金髪ぐるぐるメガネ少女は、ラッキーナと瓜二つの少女と対決していた。
良い勝ち方しましたね、ベイスターズ。ホームランこそ正義です。
いつも閲覧・ブックマーク・評価・いいね・感想をしてくださりありがとうございます。この小説は皆様のご厚意によって続いております!!




