85 ロスト・エンジェルスって一応銃刀法があるんだぞ?
「──ぐはぁッ!?」
重たい蹴りに40キロ程度の体重が加算されることにより、工場を閉めていたシャッターがくの字に曲がる。
「油断し過ぎだ。バカ」
紫髪の青年エアーズは、手を広げて“かかってこい”と言わんばかりにルーシを挑発した。銀髪ショートヘアの幼女は、「……。ああ、くたばりやがれ!!」と明らかにロスト・エンジェルスの公用語でない言語で、しかし明らかに相手を煽り、ルーシは瓦礫の中から立ち上がる。
刹那、ルーシ・レイノルズは音の速さすらも置き去りにし、エアーズに詰め寄った。頭に血が昇っているのか、弱っているメビウスやフロンティアには見向きもしない。
そんな余裕を失ったルーシを嘲笑うのは、メビウスとの戦闘でも見せていた金色の刃物のような物体を出したエアーズである。
まっすぐ飛び跳ねたルーシは、10本展開された刃物のうち4本をまともに食らう。両腕に右脚、左肩に赤いシミが浮かび上がった。
「おう。このバカの首はおれのモンだ。それ以外はどうだって良い。戦闘できねェのならふたりとも下がってろ」
右脚を抑えて立ち尽くすだけの、睨みつけてくるだけのルーシを見て、エアーズはメビウスとフロンティアを逃がそうとする。
そんな中、銀髪の幼女ルーシは左手で自分の顔を隠し、目を充血させて猛り笑う。
「ふふふ……。ふふ、はは、ヒヒヒ……。あっひゃひゃはっはははははははっはあははは!! おもしれェよ、オマエら!! 笑顔の耐えないアットホームで楽しい職場つくれるほどになァ!!」
声変わりすらしていない、年齢的には女子小学生くらいの子どもが発する笑い声には思えない。本来ならば愛らしい笑顔も、いまとなれば台無しだ。
「なにがおもしれェんだ? おれをウィンストンのガキ仲介をさせてこの白髮女とぶつけさせ、その間にMIH学園のプロスペクト使って平和の魔術ごっこ。だけど策を見抜かれて居場所見つけたら拍子抜けするくらい弱ェー。おれはまったく面白くねェけどな?」
眉間にシワを寄せるエアーズは、倒れていないだけの幼女にトドメを刺すべく空中高くへ大砲を展開した。
「……、エアーズくん。あの小娘のペースに乗るな。こんな悪意の宣伝者の言葉に惑わされたら──」
「あァ? 骨すら透けて見える幼女になにができるってんだ? ──ヘッ。そういうことか」
エアーズがなにかを理解した頃、ルーシは近くにいるリヒトという部下にアイコンタクトを送り続ける。あのチンピラさえ潰せれば、残りは瀕死の女ふたり。エアーズが来る前にリヒトは透明化している。賭けを始めるには充分だ。
「おっと、ロスト・エンジェルスって一応銃刀法があるんだぞ?」
「てめッ!?」
「──行けッ!! リヒトォ!! ……!!?」
されど、ルーシの目論見は完全に見破られていた。常時ルーシを注視しているはずだったエアーズが一瞬背後を振り向き、リヒトからナイフを奪い取ったのだ。
「ま、オマエはこのガキじゃねェからな。殺すつもりはねェよ」
と、エアーズはリヒトへごく普通のバタフライナイフを返却する始末であった。
銃刀法があってこの拳銃所持率なのか……
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