50 随分目をそらさないのだな
男性は嘘をつくとき目をそらし、女性はその逆を行う。詐欺にかけようとしているのならば、ルーシという幼女は嫌というほど目をあわせてくるはずなのだ。
「……。分かりました。世の中のためになるんなら、成分のファイルを用意します」
もっとも被験者として祖父がいるのは伏せておく。蒼龍のメビウスが姿かたちを変えてMIH学園にいる、と知られたら色々と面倒そうだからだ。
*
「──熱心なのは結構だが、生憎派閥とやらに入るつもりはないので」
メビウスを呼び出したキャメル・レイノルズの熱烈な“派閥”への誘いに、白い髮の少女は眉すらも困らせる。
「利点だってあるはずよ? さっきみたいに絡まれる可能性はグンと下がるわ。建前上私の傘下に加わったことになるから、貴方に危害が加わる場合──私を始めとする“フランマ・シスターズ”が全力で守ってみせる」
「守られるほど弱そうに見えるのか?」
「思ってないわ」
「ならなぜ執拗に誘ってくるのだ? 妹との待ち合わせに遅れてしまうではないか」
「それだけ貴方が逸材ということよ。ルーシちゃんにはあっさり断られちゃったけど、なにも私に従えって話じゃないのよ? ただ共同体として集団的に防衛し合いましょうって話で」
「……。随分目をそらさないのだな」
「美人をながめてなにが悪いのかしら?」
「開き直るつもりか? やれやれ。君はどうにもクールには似ていないな」
「……へ? お兄様?」
メビウスは自身の老化を痛感した。この見た目でクール・レイノルズの知り合いです、という言い訳は不可能に近い。図らずとも墓穴を掘ってしまった。
「ともかく、経験上目を逃さない女性は嘘をついているのでね。それに勧誘したくてウズウズしているのか知らないが、随分とおしゃべりなのも気になる」
というわけで撤収だ。メビウスは言葉に詰まるキャメルを横目に、立ち去ろうとした。
が、「待って」とキャメルが最後の静止を行う。
「……。貴方からはルーシちゃんと同じ匂いがするわ。すべてを見透かすような態度に余裕たっぷりの表情。ねえ、貴方は何者なの?」
メビウスは微笑み、手を広げる。
「そのルーシとやらを私は知らないのでね。まあ、いまは何者でもないさ。なにかになろうとも思っていない」
手を挙げてメビウスは去っていった。
廊下にひとり残されたキャメル・レイノルズは、「ルーシちゃんみたいな子はひとりだけで良いのよ……」とぼやくのだった。
メビウスは携帯電話を取り出し、モアへ電話をかける。
しかし、モアは応答しない。
なにもかもが噛み合わないな、とメビウスは苦笑いし、これからなにをするか考えていたら。
「ば、バンデージさん……。つ、疲れました~」
しなびた少女がそこにいた。170センチを優に超す高身長に焦げた茶髪。顔色はあまり良いとは言えず、やや太い眉毛。スラリとしたモデルのような体型。そんなラッキーナ・ストライクである。
「絡まれなかったか?」
「……なんか良く分かんないですけれど、怖いヒトに殴られそうになったのに、次の瞬間にはそのヒトが意識不明になってたんです」
50話記念にタイトル・あらすじ変えました。
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