49 祖父を無理やり女にすることは道徳的だと?(*)
短めの銀髪は目が痛くなりそうなほど美しく、顔立ちは妖精みたいに整っている。だが、目つきは虚ろそのものだ。
「タバコ、吸うかい?」
「吸いません」
「友だちで吸っている連中は?」
「友だちいないんで」
「寂しいヤツだなぁ……」
いきなり同情された。意味が分からないまま、モアは10歳か11歳程度の幼女がタバコを咥えるという驚愕の絵面を見てしまう。
慣れた表情で煙をこちらに吐き出してくる。副流煙の害を知らないのであろうか。
「あの、その歳でタバコ吸わないほうが良いですよ」
「これは酸素だ」
「返事になってません」
「冗談だよ。タバコくらい自由に吸わせてくれ。別にこの店は禁煙席というわけではないだろ?」
「いやいや、倫理的な問題がですね」
「倫理? 祖父を無理やり女にすることは道徳的だと?」
──コイツ、ヒトのパソコン勝手に見やがったの!?
「とはいえ、まだ実行には移していないんだろう? 面白い話というのはそれだ。世の中カネを払ってでも女になりてェヤツらは多いはず。ソイツらに千載一遇の大好機を与えてやるのさ」ルーシは2本目のタバコに火をつけ、「そのトランス・セクシャル薬の原本を寄越せ。増産してやる。インセンティブはそちらが多く持って構わない。そうだな……。100万メニー単位で儲けられるはずだ」
なんというか、チラリとディスプレイを見ただけなのにここまで話を膨らませてくるのは、そもそもこの研究をだいぶ前から知っていたからなのでは? とモアは当然の疑問を感じる。
それでも、自分の研究物が世に出回ってロスト・エンジェルスのためになるというのならば、ルーシの話に乗る意味もある。
問題は、ルーシがどのように商売を行うかだ。
「随分雄弁ですけど、具体的にどうやって増産して売るんですか? いまの話だけで首縦に振るほど馬鹿じゃありませんよ、あたしは」
「ほらよ」
ルーシは名刺らしきものを投げてきた。嫌がらせでもしたいのか、と訊きたいほどであるが、モアは顔に引っ付いたそれを確認する。
「……KOOLカンパニー代表取締役社長の名刺?」
ロスト・エンジェルス屈指の勢いを誇る新興企業、KOOLカンパニー。金融業と軍需産業、解禁されたばかりのハッパ事業など取り仕切り、海外領土開発にも一枚噛んでいるという。
「知っての通り、私の父であるクール・レイノルズがつくった企業だ。しかし父は大統領になったため社長を退任。代わりにトップへ成り上がったヤツと私は友だちでね。たいていの頼み事は聞いてくれるのさ」
ただ、黒い噂が耐えない企業でもある。創業者のクール・レイノルズからして、実のところマフィアなのではないかという嫌疑をかけられているのだから。
モアはしばしルーシの目を覗き込むように見据える。ルーシの心境をある程度知りたいからだ。魔術で悟るのは実力差が故困難。こうなると、最後は心理学的な要素に頼るしかない。
そして、「そんなに凝視するなよ。照れるだろうが」とルーシはニヤニヤしながら目をそらした。嘘をついている可能性は低い……とモアは思ったわけだ。
久々の孫娘がメインの回でした。
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