48 私は悪くない。悪くないが、良くもない。なぜか分かるか?
キャメル・レイノルズに指をさされた白髮少女メビウスは、手を広げて疑問符を頭に浮かべるような表情になった。
「一体なんの用事があるというのだね? やはり学内でカイザ・マギアなど使わんほうが良かったか?」
「逆よ。使ってくれたから話す気になったのよ。契約金1億2,000万メニーは眉唾じゃないって分かったから」
刹那、ギラギラ光る目つきをメビウスは感じ取る。こんな小娘に最新鋭対魔術師ステルス戦闘機並みの値札がついている事実は、いまキャメルが口走るまでほとんどの者が知らなかったのだろう。
しかし同時に、レーザービームで敵を焼き払う超音速型兵器とほぼ同じ評価をされている事実も重くのしかかる。強盗しても返り討ちに遭う可能性のほうが高い……と。
そしてかつての首席キャメルから直接指名を受けたことが、襲撃を諦める決定打になった。
「まあ、良いだろう。どうも君は首を横に振ることがなさそうだ」
キャメルは苦く薄い笑みを浮かべ、「そうね……」とだけ返事した。
*
「お姉ちゃん、遅いなぁ」
メビウスの孫娘モアは、授業が終わり次第集合することになっていた区内の喫茶店にて待ちくたびれていた。
「携帯の充電切れたのかな? 一番古いヤツなんてあげるんじゃなかった」
あまりにも古臭い携帯電話を使っていたので渡した型落ちのスマートフォン。200年先の技術を突っ走るロスト・エンジェルスにおける必須品である。ただ、あれはすこし古すぎたのかもしれない。
そうやって色々嘆きながら、ノートパソコンに向かって『おじいちゃんを女にしてやろう!!』という計画書を制作しているときであった。
「やあ。調子は?」
「……?」
「私は悪くない。悪くないが、良くもない。なぜか分かるか?」
異様な雰囲気を醸し出す、いつの間にかこの場に現れたかのような銀髪碧眼の幼女が、テーブルの隣に立っていた。なにかしらの違法薬物に引っかかるのは確実といえるほど、目つきも表情もヘラヘラしている。一見すると敵意がないように見えるが、実際のところ悪意しか感じ取れない。
「……。さあ、ルーシ先輩」
「さあ? 私は答えを訊いているんだ。質問に答えろよ」
「…………あたしもう帰るんで」
「帰る? せっかく楽しいことしに来たのに?」
「先輩と話してても良いことありませんから」
「ヒトを疫病神かなにかだと勘違いしているのかい? ま、ひとつ面白い話がある。とりあえずコーヒー飲めよ」
会話に整合性がない。いますぐにでも通報して警察、いや軍隊に任せたほうが良い気がする。
とは思いつつも、モアが場から離れるにはルーシを物理的に避けて通れない。それに他の客もこの幼女の異常さになにも感じないらしく、誰も彼も介入してこなかった。
そのため、モアはコーヒーを一回飲んで気を落ち着かせようとする。そしてルーシがこの動作を見計らっていたかのように、テーブルを挟んで座った。
メビウスとモアの目線が半々だす。次話は完全モアサイドです
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