特別な趣味と特例の実務
新連載始めました
和風シンデレラ小説への転生憚です。無法の女×現在軸では大曇り拗らせヤンデレ男(原作では報われないツンデレ幼馴染男)長編連載です。よろしくお願いいたします。
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今日は高校で不審者対応訓練があるらしい。
内容は授業中に不審者役の先生が入ってくるので、逃げようね、というものだ。一応トラウマになったりしないよう事前に告知があったけど、「実際不審者が入ってきたら予告なんてないんだからね」と先生は何度も注意をしていた。
一方でクラスメイトは「黒辺危なくね?」と私に注目していた。なぜなら私の今の席は廊下側の一番後ろなので、不名誉だけど不審者にとって一番狙いやすい位置だから。前だと先生がいるし、止められやすいので私の座る席が……一番危ない。
とはいえ、訓練だ。今回は。それに危ないのは私だけじゃないし、危ない人間は先生側であろうが問答無用で入ってくるだろうし、なんなら一番最初の不意打ちで先生を殺そうと考える場合もある。座席問わず警戒を怠らないというのが正解だろう。
それに不審者──ある日突然現れるような存在以外にも、脅威はある。兄だ。
退屈を理由にデスゲームを開くよう兄は、今私が授業を受けているフロアのもう一個上の教室で数Ⅱを受けている。
なぜ私が兄の時間割を把握しているかと言えば、デスゲーム開催を未遂に終わらせてもなお続けているドッキリのためだ。兄以外に迷惑をかけてはいけないので、なんなら座席もロッカーも知ってるし、席替えのタイミングも周期予測を立てている。勉強の合間にだ。すごい大変。
兄は「何でも完璧にできすぎるあまり退屈でデスゲームを開く黒辺誠くん」なので「何でも完璧にできすぎるあまり退屈でデスゲームを開く黒辺誠くんが入るような高校」としてこの高校の偏差値は死ぬほど高い。さよ獄の主人公である田中ひろしくんは漫画で「どこにでもいる平凡な高校生」と紹介されていたがこの高校にいるだけでだいぶ君は頭がいいよ」とツッコみたくなる。
しかし入学してひろしくんを見てみると、デスゲーム開催が不発におわった影響か、さよ獄よりも暗いというか静かだ。
徳川明日加という幼馴染の女の子と一緒にいて、心なしかカップルっぽくなっている。さよ獄ではお節介を焼く感じの徳川明日加に対して、「もう子供じゃないんだから」と若干困っていたようだけど、静かに二人でベンチに座って時間を過ごしている。
そんなことをぼんやり考えていると、背中にカシャン、と何か当たった。ふいに後ろを振り返ると、黒いジャンパーを着てフードを目深に被り、マスク姿の男が、おもちゃのナイフを持ち私を見下ろしていた。
不審者は私の肩を優しくつかむと、後ろから抱きしめるみたいにカシャン、カシャンと心臓を二回刺した。
「結んでない」
ぼそっと、兄の声が響く。結んでないって何が? と思う間に手首のシュシュをトントン、と指で差しながら兄は私の前の席の生徒を玩具のナイフで刺した。
さらにその横の席の生徒の背中を刺し、声も出せず愕然とする私の隣の席の生徒を刺す。
この時点でもう、私含め兄は四人……刺してる。
そこでようやく黒板で板書をしていた先生が振り返り、不審者──兄に気付いた。
「不審者だ‼」
教師が大声を上げた。告知されていたはずなのに、「え、何」「どういうこと?」と生徒たちは立ち上がりながら戸惑う。先生の傍のまわりの生徒は席を立たず座ったままこちらを見ていて、兄は構わず、自分の傍にいて立ち上がり逃げようとする生徒から順に刺していく。
教師は兄の元には向かわず、教卓側の扉を開けようとした。しかし開かなかった。ドアのまわりの生徒が扉を開けるのを手伝おうとしたり、周りの生徒を押しのけたりしてもみくちゃになっている。その間に兄は教卓とは反対側の生徒を次々刺した。カシャンカシャンと軽い玩具の音と共に、生徒の混乱の声が教室に響く。
ナイフは玩具だ。でも、完全に教室はパニックになっていた。やがて生徒たちはドアの傍に追い詰められ、兄に立ち向かおうとするがそのまま刺され、教師すら心臓を一突きされて終わった。
教室がしんと静まり返る。
やがて兄はフードを外した。
「危ないですよ。様子見て座ったままとか。それにドアとかも、外側から出られないように出来ちゃうんで、こだわらないほうがいいかもですね」
そう言って冷静に防犯対策のフィードバックを行う。そのフィードバックを受け止められる人間は、教室に誰一人いなかった。
◆◆◆
「お兄ちゃんなにあれ」
その日の昼休み、私は兄のもとに向かった。最初に呼びに行ったとき、教室にいた兄は廊下に出ることなく、お前が来いと言わんばかりに私を凝視し、やむなく私が教室に入ると「教室に入ったらダメだよ」と言い出した挙句、兄がいつも使ってる席に私を座らせた。
「なにあれって何が?」
「不審者訓練だよ。なんでお兄ちゃん入ってきたの?」
「ああ、先生がダメになったんだよね」
兄がそういうと、兄の隣の席の男子生徒が「うちの担任が不審者役だったらしいんだけど、駄目んなってさ~」と声をかけてきた。
「駄目って、どうしたんですか?」
「お腹壊したらしくて」
兄がなんかしたのでは。
私は兄を警戒するが、兄は私に話しかけてきた男子生徒を冷たい目で見ていた。こっちに何かしそうな顔してる。なんなんだ。
「黒辺どうだったの不審者訓練」
兄の視線に気づかない男子生徒は訊ねてくる。
「怖かったですよ。私だけ三回刺されましたもん」
兄は私を三回刺した。あとの生徒は一回だけ。明らかに殺意の波動が強すぎる。
「お前、妹可哀そうじゃん。なんで三回も刺してんだよ。試し撃ちじゃないんだから」
男子生徒は笑う。兄は合わせて笑うだけで返事をしない。
なんか理由があるのだろうなと薄々察した。そして、クラスメイトの前で言うのが多分、憚られる理由なんだろうな、とも。
「でも、危機感は持ってほしいと思ったよ。三回も刺される前に逃げればいいのに」
「確かに」
兄の言葉に男子生徒は笑う。兄も合わせ、目も口もちゃんと笑っているけど、何の感情も動いてないことがハッキリ分かる笑顔だった。
◆◆◆
「なんで三回も刺したの」
夜、二人になったタイミングで、私は兄に聞いた。
「どうなるんだろうなと思ったから」
兄は真顔で答えてきた。サイコパステストしてるんじゃないんだからと返したくなったけどやめた。
「ドア閉めてたの何? あれお兄ちゃんがやったの?」
「うん」
「なんで?」
「危機感持ってほしいから」
「どういうこと?」
「告知済の不審者訓練なんか意味ないじゃん。それに殺そうと思ったらドアの細工くらいするでしょ」
確かに……訓練なんだからドアに細工するな、というのはいざとなった時に備えるという目的に反している気がする。
「それは……そうだね。え、でも何で、そんな乗り気なの?」
兄はこういう模擬訓練に対して、手を抜くことは無いけど、同時に全力を出すタイプでもない。適当にしてもみんなの中では満点が取れる。それが兄だ。
「乗り気……っていうか、舞の担任は、舞の担任である以上、不審者対応しっかりしてもらわないと困るから」
「……え、わ、私の為ってこと」
「だって高校通いたいんでしょ?」
兄は何かの見積もりを立てる業者みたいな口ぶりで言う。
「……ぞれで全員刺したの?」
本来不審者対応訓練は2人程度刺されたという模擬シナリオに沿って行うらしい。しかし今回、私のクラスでは全員刺されたということで、新たにマニュアルを組みなおさなきゃいけないなと担任の先生が話をしていた。先生の雰囲気からして、事態はかなり深刻だったし、兄は……面白半分で刺したから、私も教室に行ったりしていたけど……。
「はい」
兄は当たり前のように頷いた。
「ごめんなさい……普通に、趣味の範囲だと思ってました」
兄に頭を下げると、兄はじっと睨んできた。
「ごめん、本当に」
「趣味はスタートだけだよ」
兄はそう言って、視線を落とした。
「え、じゃあ三回刺したのって趣味なの?」
「どうなるかなって思ったって言ったじゃん」
そう言って笑う兄は心の底から楽しそうだった。昼休み、男子生徒に対する笑い方とは全く違う。
兄は、退屈でデスゲーム開催を考えたりと、よく分からない人だ。でも、不審者対応訓練について色々考えていたり……それでも趣味の部分はあったりと、見当がつかない。
でも、一応……私のことを心配はしているようだ。それがどんな心配か、私が誰かに思う心配の色や形と一緒なのかも知らないけれど。
兄が笑えて、それで出来れば誰かが死んだりしない、誰かの命に関わらない日々が続けばいいなと思った。
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