裏メニュー 6品目
「ねぇ、穂積くん。今日、すごく寒いよ。なんだか体の芯まで冷たくなっちゃったみたい。」
肌寒さが一段と増した日の夜。膝を抱えてソファに座り、愚痴をこぼしていた。
「そうですね。急に気温が下がりましたからね。」
「何か、あったかいものが食べたいなぁ。」
私はねだるように穂積くんに訴えた。今日は甘えてみる作戦だ。
「……何がいいですか?」
面倒そうな顔はするものの穂積くんはいつも聞いてくれる。
「んー、そうだなぁ。穂積くんの煮込みハンバーグが食べたい!」
「煮込みハンバーグですか。材料、あるかな……」
冷蔵庫の中を確認し少し考えた様子を見せたあと、腕で丸を作りOKの合図をくれる。可愛すぎないだろうか。
「やったー! 穂積くん、ありがとう!」
ソファから飛び出し、穂積くんの腕にしがみついた。ぎゅっと彼の腕を抱きしめてみる。
「出来るまでちょっと待っててください。」
彼はエプロンを着けて調理に取り掛かった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
穂積くんは私のリクエスト通りにハンバーグを作っている。ボウルに肉を入れ捏ねているところだ。
うん。そうだ。リクエスト通り作ってくれている。何も問題ない。……問題ない。
いや、あるよ! 大問題ですよ、穂積くん。
今日は結構アピールしたと思いますよ。
甘えた感じ出してみたり、上目遣いで近づいてみたり、腕にしがみついてみたりしたのに、この反応!
酔った勢いで告白した後、彼からの反応を待ってはいるものの全然何もないのでアピールしてるんですけど?
おみくじに両想いになれるとか自分で書いてたじゃん?
その後、何にもないとかどうしたんですか!?
……と問うてみたい気分ですよ、穂積くん。
なんて考えている間にハンバーグの焼ける香りが漂ってくる。いつもながらに食欲に直接働きかけてくる美味しい香りがしている。
焼けたハンバーグをデミグラスソースで煮込み始めた。甘い香りが畳み掛けてくる。煮込み始めた横でパンを取り出しトースターで焼く準備をしている。
煮込み終わったハンバーグと綺麗に焼けたロールパンを一緒に持ってきてくれた。
目の前にハンバーグと用意してくれて隣に座る彼にドキドキしている。
「「いただきます!」」
出来立てのアツアツハンバーグを一口取り、口をハフハフとさせながら食べていく。ソースの絡んだお肉が肉汁を広げながら解けていく。
「熱々のハンバーグ美味しいよ!」
お肉に、パンにと、彼の手料理を堪能した。
「だいぶ温まったね。逆にちょっと汗ばんじゃったかも?」
先程まで冷えていた体が薄っすら汗ばむほどに暖まっていた。
甘えた感じがダメなら大人の色気を見せるときでは?
Tシャツの裾を持ってパタパタとやってみた。
穂積くんは一瞬こちらを見た気がするが、もう別な方向を見ている。
今日の攻めはイマイチだったようだ。




