伯爵の家に遊びに行こう
「すっかりラキコに嫌われたわねぇ、キルタくん」初手からグサッと来た。普通に凹む。なんなの。
中央区の一角、立ち並ぶタウンハウスの一棟。燦々と降り注ぐ日の光に照らされる、格調高き中庭テラスの、精緻で白い丸テーブルのほとり。――お茶会と言うにはアンフォーマルな軽食形式にて、二人は歓待を受けていた。
切田くんの横にて粛々と座る、清楚な佇まいの黒髪の女性が、訳知り顔のドヤ顔で首を突っ込む。「…あんなんじゃ当たり前にござろうよキルタ氏〜。…というか、マ〜ジでござるか?お主。ちょっと振り返ってみるでゴザルよ」
「初対面での話の取っ掛かりにと、知恵を絞って散々歩み寄った挙げ句、……そしたら嫌な顔されて詐欺師呼ばわりされて…」(…そこまで言っては、…いや、同じ事か…)
「いくら営業目的にしたって限度があり申そう。ただでさえ上司指定の怪しい客先。そんな飛び込み営業イヤイヤイヤ〜のイヤ〜でござろうよ?」皮肉げかつ横柄な態度で、ハハァン?と煽る。「……もしやキルタ氏〜、自分が嫌えば相手からも嫌われる。そんな簡単な認識さえ出来ない類の、プフ〜。量産増殖プラナリアの腐れ能無し馬鹿チン○コだったのでござろうか?」黒縁メガネをずらした緋村もゆが、流し目で嗤った。「…あーあ…」
「…ラキコだって自分に出来る事を、精一杯に頑張ってるだけなのに…」
「…きっと今頃泣いてるよ…?」
「…ねぇ、泣いてるよ…?」
(…うるさいなぁ)「……てか、緋村もゆ。あなた何でそこにいるんですか」何故か隣にちょこんと座っている、(なんなのこの人…)黒髪赤目の少女を見る。
「…フルネームで呼び捨て、…酷い扱い…」眼鏡をずらしたままフンフンと怒る。「…『もゆさま』でしょう…?」(…何だとぉ…?)
そんなしょうもないやり取りに、金髪片眼鏡の豪奢なおじさんがクスクスと笑いかける。「あら、あなたの仲間じゃなかったの?私すっかり…」
「違いますよ。ラキコさんの連れです。そちら側の人間じゃないんですか?」「……寡聞にして存知上げないわねぇ……」二人はムムムとなる。
緋村もゆはフンフンと怒った。「扱いひっどぉ!いくらなんでもライン越えだよ!…あーあーあー!そう来たでござるか!あーめっちゃ傷つくぅ〜!」
「見損ないましたぁ!せっかく拙者が目をかけてあげたのに。そういう差別を区別だと刺しに来る類の、脳内ハラスメントハッピーパウダーな御仁でござったのですな!性根の腐った孤独死物件!馬鹿馬鹿バーカ!そっちがその気ならこっちにだって考えが、……ムギィ!覚えとくでござるよ!!」黒縁メガネを乱暴に外す。
「…意地悪の悪人…!」(口悪ぅ〜)ドスドスとがに股で、赤ローブの少女はタウンハウスに消えた。
「…なんだったのかしら」(……僕にもわかりません)とても怖い。
立場の割には偉そうな素振りをまったく見せない、ラフな格好のキンキラおじさんは、ミルクコーヒー並みの余裕たっぷりに、白銀の水差しみたいに嫣然と微笑む。
「じゃあ、ラキコ諸々に嫌われた者同士。今は仲良くするとしましょ?キルタくん?」
◇
「……おふろ……」「『聖女』さま、こちらに……」ハウスメイドたちに何やら囁かれた東堂さんが、連れ立ってフラフラと部屋を出ていこうとする。――凛とした表情で振り返る。「……類くん。ちょっと席を外すね」
「状況が動いたら、きみの判断で進めてくれていい。……私が追いかけるから」
「わかりました」(警戒心〜、…とはいってもなぁ…)ムムムとなる。(流石に止めるわけにもいかないだろ。…どうせ、向こうに害意があれば即死の状況だしな。ホントすみませんね、流浪の生活で…)
ラキコ一党の案内に従い、――切田くん達は『王城』のお膝元、中央区に並び建つお屋敷街。その中でも大きなタウンハウスの一つに来ていた。彼女らの上司、西方鎮守パンデモーヌ伯爵(スゲー名前だね、しかし)に会うためだ。……貴族の本宅、という感じではない。ゲストハウスなのだろう。
不思議なことに、あれから後続の追撃はない。羽付き兵士が飛んで来ることもないし、重装兵士が詰めてくる事もない。一般兵や門番だって知らん顔である。
「パンデモーヌ伯爵閣下は、まもなくいらっしゃいます」クソデカ巨漢の執事が、丁寧な物腰で言う。
来客や商人を待たせる為の待機部屋なのだろう。応接家具が立ち並ぶ、広い待合室のテーブルに座らされている。――荷物と外套は預かられてしまった。詠唱短縮の指輪だけは、シャープペンシルと一緒に内ポケットに(こっそりと)入れてある。「ご心配ですかな、キルタ様」(……んぇ?)
タウンハウスを案内してくれた、見るからに体格の良すぎる執事。あのアルコルに並ぶほどの体躯である。(そんなサイズの人が、そうそういるわけ……共通規格なの?)キャラ被りだ。(イェップ=ヤップさんみたいに変化つけて?)
凶悪な見た目ではあるが慎ましく上品。体格にピタリと合った(パツパツではない)執事服を着ている。(…仕立てにいくらかかるんだ…)
巨大執事は胸に手を当て姿勢を低くし(高い)、丁寧かつ穏やかに語りかけてくる。「キルタ様はもっと、ご自身に自信を持ってもよろしいかと」「…はぁ」(ダジャレかな)
「私どもはキルタ様のお力を、大変高く評価しております」体躯に似合わぬ、柔らかな語り口。「――失礼ながら、皆様がたの御力。全てとは申しませんが精査して御座いますゆえ」
「よって、私どもがお客様がたに危害を加えることなど、あり得ぬことにございます。キルタ様が今までになし得た戦歴と御力は、取引相手に不義を躊躇わせる、という自負にございましょう」
突然のお褒めの言葉に、ムムムとなる。(…赤の他人が『何かを信じるべきだ』ってわざわざ言ってくるのって、100パー胡散臭いんだよな……)切田くんは最低だ。(…同調圧力攻撃…!)
(…この人はまだ、『私を信じるべき』『他人を信じるべきだ』って言ってこないだけマシだけど。そんな言い草使う人って、DV野郎か詐欺師でしょ?)全力で偏見を振りかざす。……けれども答える。「……ありがとうございます」(社交だね、切田くん)神妙に返すと、巨漢の執事は、深くにこやかな笑みを作った。(接客のプロ。すみませんね、こんなガキンチョ相手に…)
(…まあ、実際には単に、『ちったあ力抜いて寛げや、おう』って意味だろうしな。『ワシらのもてなしが受けられん、ちゅうんか?おう、ワレ…』言葉のチョイスが胡散臭いってだけで…)
「…でも、今なら毒殺とかで、普通に死ぬと思いますけど」(『精神力回復』が使いたいんだっけ?なら平気か)待合室のテーブルに置かれているのは温かい紅茶と、甘い焼き菓子だ。(フィナンシェ的なやつ。他にもクッキーとかだ。普通にうまそう)手を伸ばそうとして、ふと気がつく。
「ああ」スポンと覆面を取る。脇に控えるクソデカ執事が、なんだか二重に困った顔になった。焼き菓子うまい。もっちゃもっちゃ。「美味ひいです」「……それはよう御座いました……」食いながら喋るな。
「……主人が戻られましたらお呼びいたします。お寛ぎ下さい」「どうも」巨漢の執事は深く一礼し、部屋を去っていく。(向こうも社交だな、こりゃ)
せっかくなので、(せっかくですからね)どんどん焼き菓子を食べ、紅茶を飲む。とてもうまい。(普通ではないお高い味がするな。毒は、…入っていない、気がする…)甘いものは疲れた心を癒やしてくれる。すると、
――ヒソヒソと、囁く声。
『魔女が来るよ』
(……)焼き菓子をリスみたいに頬張る切田くんは、紅茶を飲み干して流し込み、そして、首を傾げた。(……なんて?)
(何だ今の)「ブリギッテさん?」辺りを見回す。……何も無い。遠話の魔法らしき緑の光は見当たらない。(ちくわ大明神?)「どなたです?ブリギッテさんのお知り合いですか?」
――問いかけは、ただ静寂に飲み込まれる。虚しい。(…気のせいかな。幻聴?)
(…否、『精神力回復』のおかげで、――幻聴が起きる時特有の、ハイな感じや遠い疲労感はない。…だったら僕は、本当に聞こえたって事だ…)張り詰める警戒感。……そして、砂を噛む、感覚。
切田くんの現在の手札は索敵手段に乏しく、――火力自体はあるが、それなりの貫徹力しか持っていない。切田くんの力では抜けないクラスの装甲や、視認できない敵の相手が不得手である。(…そんなん得意な人なんていないでしょ…)気分は機動戦闘車、対戦車戦闘用意!だ。バリバリー。(…やめて…!)そしてやはり、囁き声の主は見当たらない。(…駄目だなこりゃ。気にするだけ無駄だ…)
(……声の相手が誰かは分からないけれど、――実際にブリギッテさんが来たのなら、この現象の心当たりを直接聞くことも出来る。……つまり、どうせ来るなら『余計なお世話』だな)「ご親切にどうも」
次元を引き裂く、甲高い耳障りな異音。(ヒェ…)思わず椅子を倒し、飛び退る。
(……うそーん……)待合室のテーブルが、お菓子の皿ごと真っ二つに裂けた。……内側にへたり込むように倒れ、重なり合う。――正確な裁断面。怒らせてしまったのだろうか。それかお菓子アンチ。(……本当にどういうこと?)
しばらくすると、待合室のドアがノックされる。丁寧に扉を抜ける巨大執事が、穏やかに、かつ上品に伝えた。「パンデモーヌ伯爵がお会いになられます…」「……?」
そして、流石にこの状況に、眉をひそめた。「お客様…?」
「こうなってしまって……」
椅子にぼんやり座る少年と、真っ二つに裁断されたテーブル。残骸には空の皿やカップが、少し欠けて挟まっている。
「……こうなってしまったのなら、致し方ありませんな」困り顔で、ニコっと笑う。「……しかしながら、もう一度主人に確認して参ります。もう少々お待ちください」
「はい」(…ごもっとも)
巨漢の執事は踵を返し、丁寧に扉を閉めた。……バタン。
「理不尽〜」
◇
「ほら、おかし食べなさい。ジュースも」(…てか、なんでポテチとサイダーなの)目の前に広がる光景に、首を傾げる。世の中不思議でいっぱいデイズだ。(無双つぶしか?お?)
自然な心尽しに飾られる中庭。白く優雅な丸テーブル。……緋村もゆが去った(…永遠に去って…)今では、モノクルを掛けた金髪男性と、切田くんの二人だけが席についている。(…さっきの執事さんが遠くに控えている。すみませんねホント…)
テーブルの上には、銀のピッチャーとガラスコップに注がれた炭酸飲料。陶器の大皿にはポテトチップスが山となっており、各員それぞれに喫食用の、二本の細い棒が置かれている 。(はし!)
パンデモーヌ伯爵は気さくな紳士で、(おねえのおじさん!)フリル多めではあるが、仕立ての良いラフな格好だ。はしを器用に使い、ポテチをつまみながら紅茶を飲んでいる。(オネエのおじさんは、ポテチを箸で食うんだ!)解像度が上がってきた。
肌や造作からは中年から壮年だとは思われるが、反対に、不思議と非常に若々しくも見える。――片目にモノクルを嵌めている。(鑑定の魔道具とか、ビームが出るやつかな)特に魔力は感じない。(ハズレ。残念……)おしゃれモノクルなのかもしれない。
「私、今日はお紅茶にもお砂糖をたっぷりと入れているの。…んーおいし」オネエ口調のキラキラおじさんが、心底嬉しそうに曰う。「甘いとしょっぱい、しょっぱいと甘い。人の脳を焼く欲望の無限のサイクル。コントラストが大事なのかしらね?」
(…しかし、ずいぶんと気さくな人だな)流石に首を傾げる。(聞いてみよ)「伯爵と言ったら、地方のトップのかたですよね」(…県知事どころじゃない。外様大名のお殿様ぐらい。つまり、超偉い人のはず…)
「まぁ、気になるものかしらね…」やれやれと首をすくめる。「もちろん、貴族といえどプライベートというものはあるの。ないのは『王様』ぐらい。お気の毒さまねぇ」フゥン、と鼻でため息。
「……今は、プライベートの時間よね?」そして、ニッコリと笑顔。
「はぁ」(そら、言うだけなら勝手ですけれども)権力者の言う『無礼講』など、鵜呑みにする方が悪いはずだ。(結局は匕首突きつけて、『私好みに気さくに踊ってご覧なさい?』って事だもんな…)ひどい。
「そもそも、あなた達召喚勇者って、この国の権威の外側にいる存在でしょ。うちに税金納めてる?」
「買い物ぐらいはしましたよ」
「あら、ご協力ありがとう。元いた場所から無理矢理に連れ去られ、社会保障もなく、習慣も倫理の基準も違う。そんな存在を無理にでも従属させようと、各国はいろいろな手管を使っている。この国だと『洗脳』ね?」
「…あれ」(僕らを呼ぶのに結構税金つぎ込んでそうだけど…)召喚時の規模感を思い出す。「この国の予算で呼んだんだから、って。所有権を主張しないんですか?」
「逃げちゃったでしょう。貴方達」「…そうでした」所属なしだ。税金も無駄だ。
「…呑気なものねえ。そんなイリーガルかつ危険な存在であるフォーリナーを、個人の邸宅に個人的に招いて、一緒に暇つぶしをしているのだから。どこからどう見ても趣味の時間のプライベートでしょう」「暇つぶして」(…ずいぶん呑気だな。用事あるから呼んだんじゃないんかい)
「それとも、もう一人の女の子が来る前に話を進めても良かったかしら?それってちょっとイヤな事じゃない?」フフーンと、伯爵は笑う。「レディの準備は時間がかかるものよ?」
切田くんは失礼を押し付けぬよう、慎重に問いかける。
「僕の持っている変なアミュレットは、探索魔法で親衛隊にマークされています。空から襲ってくる羽根付きの人たちとか。……ご迷惑じゃないんですか?」
「ダイザ?」
「いらっしゃっております」厳つい顔の巨大執事が、穏やかに答える。「随分とお怒りのご様子でしたな」(でしょうねぇ…)
「そのまま留め置きなさい。少しは頭を冷やしてもらわないと。ね?」「かしこまりました」(権力バリアつえー)
「もちろん私には、あなたに対する意図はある。でも、それとこれとは別」パンデモーヌは鷹揚に構える。「やり方に沿った格式ある歓待で、あなたに権威を押し付けることもできるけれど。――でもあなた、そんな事されてうれしい?」甘い紅茶を飲み、フゥ、と一息つく。「すり寄ることに必死ならまだしも。あなた、帰りたくなってしまうんじゃない?」
「客というのは基本、自身が得をするために来るもの。当たり前よね?…貴族だろうが平民だろうがおんなじ。得がない、損だと思えば来なくなる」
「まあねぇ?マイナスの損得勘定。損を広げない為、暴力に晒されない為。我慢して仕方なく来ている人も多いでしょうけど。そういうのは嫌よねぇ~」ぐったり顔で箸でポテトをつまみ、ポリポリ食べる。「ああ美味し。こうやって、お客様が気を楽に、のびのびと過ごせて」
「私だって、そっちのほうがうれしいわ?」ニッコリ笑顔で、パンデモーヌ伯爵は艶やかに笑いかけた。「ほら、お菓子食べなさい」
切田くんは箸でポテチを食べる派閥ではないのだが、せっかくなので箸でつまんでパリパリ食べてみる。(フライドポテトが太いってクレームが来て、嫌がらせで生まれたんだっけ?)ほんのりスパイスの効いた塩味だ。割とうまい。(向こうで濃い味のを食べ慣れてるからな…。まあまあの味)
「どうかしら、そのお菓子」「おいしいです」
「もっと正直にお願いしたいわ?」(…コワー…)笑みが深まっている。匕首の圧力を感じたので、正直に答える。
「…手作り感を意識してしまっているだけで、ちゃんとおいしいですよ。…向こうでは大量生産のラインに乗せて、安価なコストで客の脳を焼くために、味や精度に対して企業総出で何十年もの試行錯誤と研鑽を積んでいるんです。コックさんが端正込めて作ったこれと比べるものじゃない」
「ふむ」パンデモーヌは意味有りげに覗き込み、続ける。「キルタ君。あなた、――もてなしというものは、『ホストが何か自己主張をしなくていはいけない』、という決まり事があるのは知ってる?」「知りません」(この世界の慣習かな?)
「貴族社会の一般的なプロトコル。定石化、慣例化しているのだけれど。…形骸ではなく、もちろん存在する意味がある。貴方の世界でもそうだったはずよ?」(…僕みたいな男子高校生が、そんなフォーマルな場になんて行きませんよ…)
「社交というものはね、――まず第一に、相手に理解を示さねばならない。この点については簡単よね?簡単な人にとってはとても簡単。基本理念」ポテトチップスを箸で指す。行儀が悪い。「同時にね。ホストはもてなしの内容に、『自己』を盛り込まなくてはならないの。どうしてか分かる?」首を振る少年に、言い含めるように続ける。
「でないと、もてなしは傅きと見られてしまうの。招待客を増長させて、不和を煽ってしまう。群れにおいて、客がより上位者であると勘違いさせてしまうわけね」
「それと、似たような理由がもうひとつ。……人は、与えられるばかりでは勘ぐってしまうから。ホストの主張が盛り込まれることで、このもてなしが『取り引き』であるという形式を持つ。すると、安心できる。取引相手として認められている、という自負も生まれるわ。――逆に、主張がなければ。招待客は軽んじられていると感じてしまう事でしょうね」
「客側の気持ちがわからない、饗応の定石さえ学べない愚かなホスト。『媚びてやがる』だなんて不快に思うヤカラさえ出てくるわよね?」ヤレヤレと、首をすくめる。「…やぁねぇ〜…」
「まあ、結局は暴力の入れ子構造ね。食い破られたくなければ得をさせ、守ってあげる。あるいは閉じ込めて脅しつける。……そうしなければ、組織は常に、死が近づく」
オネエ喋りの伯爵は、指をパチンと鳴らした。「ダイザ」一礼した巨漢の執事が、タウンハウスへと引っ込む。――すぐに銀の盆を片手に、とって返してきた。
「ではキルタくん。…ふふ、楽しみねぇ。今回の主張、本日の趣向。お見せするわね?」パンデモーヌ伯爵は、どこか妖艶に、ニッコリと笑った。
執事の持つ銀盆には、手のひらサイズの白いカードが載せられている。
「『ステータスカード』よ」




