表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

79/80

vsダークライ

 ――無敵河原(むてがら) 羅紀子(らきこ)は無敵である。無敵であり、幸運である。


 よって、無敵河原(むてがら) 羅紀子(らきこ)が今回の戦闘に負けることはないし、不幸で不運なめぐり合わせによって、危機に(おちい)ることなど決してない。


 能力を(ふく)めた彼我(ひが)の戦力差は絶大(ぜつだい)。そんな存在に対し、いかにバロン=ポテトといえど、正面から当たらねばならぬ親衛隊の三人に、今回勝てるチャンスは(まった)くない。


「……それ(ほど)堂々と単騎(たんき)(のぼ)って来るならば、『正面より当たる事が(わな)』となる『スキルホルダー』だろうがよ!」


 暴風()()(てん)()く、「フハハハハッ!」バロン=ポテトが(たか)らかに笑う。


「わかりきった事ぉ。通常ならば徒党(ととう)を組むか、無様(ぶざま)に逃げ回る局面だろぉっ!!ハハハハハ!!」敵に合わせて上昇し、彼我(ひが)の距離を(たも)つ。


「それとも、『捨て石となり、命を投げ捨てて突っ込んできた』とでも言いたいかぁ?ハハッ!――そんな猿芝居(さるしばい)で天才の見る目は誤魔化せんぞ!!」相手も【フライ(飛行)】と同等スピード。追いつく事など(けっ)して()い。


 高慢(こうまん)に、オールバックをかき上げる。


「飛行魔術師と『スキルホルダー』が趨勢(すうせい)(にな)()(なか)であるならばっ!!」


「『ホルダー』の()れる場所など、権力をもって!……(つぶ)さねばならんよなぁ?当たり前だろそんなのっ!!」不敵(ふてき)に笑い、ハンドサインを出した。


「行ってこい強行偵察(きょうこうていさつ)!頭の不自由な貴族のお坊っちゃんなど、このバロン=ポテトが有効に使って()(ごま)にするっ!!」



 部下は思わず、バロンの心遣(こころづか)いに感じ入った。


「おお、流石(さすが)はバロン!(ほこ)りを胸に正面より()(むす)ぶ、一番槍(いちばんやり)(ほま)れをお(あた)えくださるならば!……今、必殺の!決闘に(のぞ)む騎士の心得(こころえ)にありましょう!!」(こころ)所作(しょさ)にて、優雅にお辞儀(じぎ)(かえ)した。


「あのバロン=ポテトが目をかけて下さったのだぞ!我々も(こころ)(つく)くして(こた)えねばなるまい!」僚機(りょうき)にハンドサインを(おく)り、(うなず)()う。


「二対一で仕掛(しか)けるぞ!!『サンダーブラストフォーメーション』だ!!」


「了解!」


 急降下に(てん)ずる片方と連携(れんけい)し、――上昇の叛徒(はんと)を天と地とに(はさ)()む。「空戦では我々(われわれ)に、一日(いちじつ)(ちょう)があるようだなぁ?魔除け泥棒…!」上下左右、自在(じざい)に素早く(いん)(むす)んだ。


「【ショック(衝撃)誘電(ゆうでん)(とお)(みち)に、我が【ライトニング(雷撃)】は今、正邪(せいじゃ)(あらわ)す必殺の、超射程連鎖雷撃(チェインライトニング)となる!」下方僚機(かほうりょうき)の手のひらが、()()()()()()


「空に(ひらめ)く、本物の青いイナズマのようになぁ!!『サンダーブラストフォーメーション!』もらったっ!!」一息(ひといき)の呪文詠唱。



「『(また)揺蕩(たゆた)()因子(いんし)よ!回路を(つた)い、(なが)れてざわめけ!』」



「【ライトニ……】」


 稲妻の如き一閃(いっせん)が、兵士の正中線(せいちゅうせん)()()(とお)()けた。(ほそ)(ひかり)(むち)によって、()()()()()()になった親衛隊員の意識は、分断(ぶんだん)して瞬時に消失(しょうしつ)した。



「『応答剣(アンサラー)』」百メートル超に延伸(えんしん)した(ひかり)(むち)()(もど)し、ラキコが(つぶや)く。



 二つになった片翼(かたよく)比翼(ひよく)が、断面より臓物(ぞうもつ)ばら()き、()()()()()()()ちていく。――バロン=ポテトは(あご)に手を当て、フフンとなった。


「『聖剣スキル』。()()()()()か。速攻ではなくカウンタータイプのようだな」


 戦況(せんきょう)を見つめる視野(しや)に、()()()()()()()()()羽付きが見える。……必死に後方を(うかが)う様子が(うかが)える。


「…んむぅ。その判断は正しいぞお、若人(わこうど)よ」ウンウンと(うなず)く。


「戦争とは、始める前から勝ち負けが決まっている。相手の戦場に引き込まれたのならば、当然()げねばならんよなぁ?」ニカッと笑う。思わず笑い返したくなる笑顔だ。


「ただしっ!命令前に逃げたのだから、敵前逃亡で死罪だっ!私を(ころ)すか国境に()かわねばならん事が、()たして()かっているのかなぁ〜?」


 叛徒(はんと)()けて急激(きゅうげき)逆行(ぎゃっこう)()()()()への下降に(てん)ずる。「近中距離(きんちゅうきょり)の『聖剣』スキルなぞ、呼んだ(がわ)からすれば石斧の勇者も同然(どうぜん)であろうが。…なるほど。一人で突っ込んでくるのも道理というもの…」


「しかぁしっ!!」ハハハハハと(たか)らかに笑った。「『カウンタースキル』は、直接の害意を()けられずとも、()たして発動するものかぁ!?」相対的な暴風(つんざ)く呪文詠唱。



「『変性(へんせい)せよ魔力。(つど)いて(たぎ)油液(ゆえき)となれ!バーナム=パーナム。いざ()えゆかん!破壊の(ほむら)よ!』」



「その場で(はじ)けよ!【ファイアーボール(火球)】『エクスプロージョン』!!」



 両者のド真ん中に出現した豪炎火球が、()()()爆裂した。「んボンバァァーーーッ!!!」――散弾と()した炎上油脂が、枝垂(しだ)(ざくら)の如く()かれ、黒煙を引く油炎の雨となって市街地に()(そそ)ぐ。


「すまんなぁ市民よっ!!戦場の()()()よぉぉ!!」


「やると言ったろ?」


 ――下方叛徒(かほうはんと)が大きく回避しざまに、(ひかり)(むち)(くう)()いた。


「おおっと!通常の武器ともなるか。だが(おそ)いっ!!」


 鋭角機動(えいかくきどう)()けるバロン=ポテトにも()りかかる散弾油炎は、バロン寸前で力を(うしな)い、自由落下する(ほのお)(しずく)となる。間違いなくポテトなパワーが働いている。



 ――(いや)な笑顔で、()()()とした。「ははぁん?」



「守っているなぁ!?」炎の雨(つらぬ)く急降下にて叛徒(はんと)とすれ(ちが)い、街並みにバロンダイブだ。


「どこだ?アミュレット。…どぉぉこだぁぁァ?迎撃位置より遠くには行っていまい」【フライ(飛行)】の急降下が、(さら)に加速する。


撤退戦(てったいせん)であろうとも、()()()()()、ということよ。瞬時の判断は天才である私が決める!ハゲタカになるんだ!」



 ◇



「♪ヘイ、ヘイ。(かま)うでござる。キルタ氏キルタ氏(かま)うでござる♪」(…無理に(いん)()もうとしないで?後半なんか無理()てるって。…いや、つっこみませんよ)


 ウザ(がら)み。静寂(せいじゃく)(この)む人間にとって、これほど相手を蹴飛(けと)ばしたくなる事柄(ことがら)は、他にない。(タスケテー)赤ローブの眼鏡少女は切田くんにとって、そんな相容(あいい)れなさを持っている。


 しかも向こうは一方的に共感を主張し、「ウキョキョッ!今が直結(ちょっけつ)チャンスにござるぞぉ!」(下品なのもやめてね?)距離を()めようと(にじ)()ってきている。ツッコミも要求してくる。(地獄かな?)


(こうなれば、()(はら)ってでも強引に(うえ)に、…いや、いくらなんでも攻撃的すぎる。ライン()えか…)切田くん一人ならやったかもだが、そんな姿は見せたくない。()()()となる。


(…そもそも僕は、()()()()()(なん)でもかんでも他人を()(はら)うから。…陽キャが()む対人経験や、成長が無いわけで…)


(いや?待って?だからといって、()()()()()()()()()なんて、殺傷の破片を()びるだけなのでは?自身を(そこ)なうだけなのでは?)ヤマアラシと爆発物のジレンマだ。


 懊悩(おうのう)する切田くんは、突然()()と引っぱられた。背中から()()()()()められる。(…おごごご…)あすなろ抱きだ。(…強い強い!)グエー。


「こうみえて私たち、お付き合いをしているの」


 東堂さんが、耳のそばで刺々(とげとげ)しく牽制(けんせい)した。胸も当たっていて(やわ)らかい。メキメキグエー。


「ふむ。(たし)かに先程(さきほど)聞いたでござる」


「家族計画もしている」(ほこ)らしげに宣言(せんげん)する。(まだですー)


「…何?(いや)なの?」


(いや)じゃないです。あと()めすぎ」「あ、ごめん」ふわっと(ゆる)んだ。これで楽ちんルンルンだ。ハッピー。(ヤッピー)


「ははぁ、ずいぶんと()めてくる彼女さんでゴザルな。…お(さっ)(いた)しますぞキルタ氏〜。本当は(いや)なんでござろう?重たすぎて」


「いや、どう考えたって(いや)ではないでしょ」


「…は?死ねば?」黒縁メガネをずらして(にら)まれた。(チクチク言葉やめてね)「……私も全然、(いや)じゃないよ。類くん……」甘い(ささや)(ごえ)。(…後ろも(なん)かいうとる…)


 赤目の少女は素早く眼鏡を()(なお)し、グヘヘと笑った。


「お惚気(のろけ)以外の何者でもないでござるなぁ。カプ厨大歓喜!…なわけあるかーい」ちゃぶ台返しだ。「ここまで言われて()()イチャコラアピールしやがって。マウントか?カプサイシン持って山(はい)るかぁ?おう」ガラが悪い。「…でゴザル」(…キャラ付けが(ざつ)!)


 (からだ)()()げ、二人を(なが)めて、黒縁メガネ越しに()()()()と笑う。「キルタ氏キルタ氏〜。(よう)はこの御仁(ごじん)、拙者との仲良し具合に嫉妬(しっと)しているでござるよぉ〜。うーん空気が美味(うま)ぁい。脳が回復するぅ〜。死ねばいいのに」


(どこがオメーと仲良いんだゴラ)


 とガチで思ったが、(はた)から見ると(たの)しげと思われそうなので、言うのをやめた。


「いや、しかし。ここまでお(うつく)しい御仁(ごじん)嫉妬(しっと)ともなると、実に良いものでござるなぁ」ふんふんと興奮する。


「ラキコ殿なども結構な美人さんでござるが、(はがね)どのは、ふむ、なんというか…」ジロジロ見回し、上機嫌にふんふんする。「んん〜↑↑…()()る〜↑」(まあわかる)


 東堂さんが(さら)にそっぽを向いた。


「…見てくれなんて所詮(しょせん)一過性(いっかせい)のものじゃない。(とし)をとればみんな同じでしょう?」


「外見に(めぐ)まれない人がキレるでござるよ」


「うるさい。上辺(うわべ)()()()()すれば『(なに)(もら)える』と思っている層の人たちなんて、(もら)えなければ簡単に手のひらを返すじゃない」ウンザリ(ごえ)だ。


()ぐに得意になって嫌がらせを始める人たちだもの。()()()()で、(すで)に悪意と短絡が()けているのよ。もう見飽(みあ)きたわ?」


(この人、(とし)をとってもあんまり変わらなそう)とも思うが。背中の彼女は続けた。


()()()()()()の人なんてどうでもいい。だけれど当然、そうでない人たちは、時間が()てば私なんて見向きもしなくなるでしょうね。内面しか(もと)められなくなる」


「だから類くんが、私の()()()()を好きだと言ってくれているうちに。私たちは(いく)らでも、()()()()まなければならないの」


「いくらあっても()りるものじゃない。奇跡みたいな(めぐ)()わせの、せっかくの恩寵(おんちょう)の時間なのに……」透明で悲しげな声が、氷結の(するど)さを(まと)った。


「…さっきも私、言ったよね?あなた、意図的に邪魔してるよね。自身に人間()みの知能があると主張したいのなら、状況が()()()()()()する前に、これ以上、私たちの足を引っ張らないでくれるかな」ダウンバースト()みの猛吹雪だ。


 切田くんはなんと言っていいのか、なんと言えばいいのか分からなくなる。((だま)っとこ)一見クールだ。


「キルタ氏はメンクイでござるなぁ〜」


 呑気(のんき)()()()()


「ま、ま。拙者に(かま)わず続きをどうぞ。(あいだ)(はさ)まるのはロリタッチ(なみ)に心外にござるからな。かわいい嫉妬(しっと)というものは遠くで見る限り、ストレスで(しぼ)んだ脳がムクムクと回復するでござるね。近くだと死んで欲しい」(チクチク言葉やめな〜?)


「ではキルタ氏。ここは、ご機嫌(なな)めな(はがね)どのの、無聊(ぶりょう)をお(なぐさめ)めせねばなりませんな。拙者、(とお)くで見てるので」(…あ゛?)


「『僕が夢中なのはきみだけだよ、仔猫ちゃん(ねっとり)』だとか、『僕の瞳には、最初から()()の姿しか(うつ)っちゃいない。…(しん)じないのか?(イケボ)』だとか。好き放題に()()()()になってくだされ。拙者はそれを見ながら、白飯を何杯でも()う」


(なんやこいつ)「…あの、さっきからあなた、爆発しろとか言ってたんじゃ、あと、()()()とか死ねとか」「それとこれとは別腹でござろうが!!」キィと両手を振り上げられた。威嚇(いかく)する穴熊だ。


「……言って、類くん」


 (かぶ)せて密着する背後より、(するど)い声が飛んだ。「へぁ」


「『(きみ)だけだよ』的なこと、言って。(すく)いのない恋愛ものの小説みたいに」東堂さんが真剣に()めてくる。「へぁ、…じゃないでしょ?もっと真面目にやって」(理不尽〜)


「世間知らずのお嬢さんを、口先と態度で良いように(おど)らせるみたいに。……そういう口車(くちぐるま)(いや)がっている類くんが、()()()言うから()()滋養(じよう)があるの」


「天才でござるか?」


「余計な茶々(ちゃちゃ)入れないで。ねぇ、類くんは、私をもっと甘やかすべきだわ。あなたのお(かげ)で、こっちに来てからすっかり甘党なの」


「……そういうの、(むかし)(ちが)って好きになったって。……前に、類くんにそう言ったよね?」めっちゃ()めてくる。「はっきり言ったよね?」


「忘れちゃった?そんな(むかし)のこと」剣呑(けんのん)な雰囲気、と言うにはダバダバしている。空虚(くうきょ)なのかグルグル目なのかもうわかんない。


「今まで類くんが、私にしてきた(たぶら)かしだって、わたし的には(すご)く良いかもって。私、はっきり言ったよね?」


「いえ、そこまではっきりとは言ってないです」「(だま)って」(かぶ)せてピシャリと()られた。(…んもー…)


(…この人はまた、すーぐ周りが見えなくなるんだから…)ふと、状況が読めないだの、危機感を認知できないだの。緋村もゆに(くだ)した評価を思い出す。(人によって対応が(ちが)うって?うるさいな、贔屓(ひいき)だよ贔屓(ひいき)。何か問題ありますか?)


(はがね)どの(はがね)どの。ちと、お耳に入れたいことが」


「……さっきから何?あなたに名前を()ばれる筋合(すじあ)いなんてないのだけれど」


「ただの()()けでござるよ。(よう)はこのしと、テレリコのリコでござるよ。かわいいでござるね〜。…ふむぅ、これはこれで…」


「……()れているの?類くん……」


「ち、(ちが)いま」


「ほ〜ら、図星でござろ」


「ちゃんと答えて」


「顔見りゃ本音なんてすぐわかるでござるよ。んー。顔面が見えないでござるねぇ…」


 ()()()と、両手が()びてくる「…ちょっと、それ(めく)らせて」「や、やめろぉ!」


 両手を()ばした黒縁メガネが、()()()と動きを止めた。


 ……無の表情より()()す、不吉な予言。




「……敵。真上からくる」




(……ぐっ……)


 急速に(まわ)るサイレンシグナル。敵機急襲、防空戦だ。(ラインを()かれた!?そりゃそうでしょっ!!)


「――罠に()めますっ!(かく)れてっ!!」切田くんは背後の腕より()()()()けて、足元のショルダーバッグに手を突っ込んだ。


「…(まか)せて!」


 手ぶらな東堂さんが緋村もゆをひっつかみ、「ホギャアァァ〜!?」そのまま横に()んだ。ズドン、ズドンと多重三角跳び。「ホヒュッ」――見えなくなった。


(見せてくれないのなら、僕だって()(うち)を見せませんよ!)手に持つ武器の鋭利な(さき)を、(せま)き上空へと向けた。



 ◇



強行偵察(きょうこうていさつ)とは、(しん)なる天才の(あらわ)()()()()()()を言うのだあぁっ!!」


 四角い空を鋭角に()()き、「ここだっ!見つけたぞぉっ!!アミュレットォォッ!!」バロン=ポテトが屋上の(かげ)より()じり()んで来た。そして、


「うおおおおっっっ!!?」


 不自然な急制動によって、()()強襲の動きを()めた。


 地上に(たたず)む、謎の覆面魔術師。足元には(ナントカ君?()られたのか?)(ほふ)られた魔術技官の死体。


 ――そしてバロンと彼らを(へだ)てる空間に存在する、多重に光る、糸の罠。「…なんだとぉぉっ!!?」


 細長い光の糸が幾重(いくえ)にも()(めぐ)らされている。建物同士を(わた)って(つな)ぐ、魔力糸のバリケードだ。


「糸の結界!?(すで)に罠を張って()(かま)えていたとはっ!!」この空域に来て数分。そんな猶予(ゆうよ)など無かったはずだ。「未来を読む動き?やはり、アミュレットを(はこ)ぶ『スキルホルダー』は二人組、いや、もっとか!?」



 ――覆面少年は(つぶや)く。「…マルチプル(多連装)・『マジックストリングス』…」



 切田くんの『マジックストリング』は『マジックボルト』を細長く()ばした()()のものだ。蜘蛛糸()みに脆弱(ぜいじゃく)で、何の効果も持っていない。


 バロンは判断に(まよ)う。「…どんな効果だ?…(ころ)()馬防柵(ばぼうさく)とてっ!!」


「私のスキル『慣性(イナーシャル)無効化(キャンセラー)』の前には、いかなる飛び道具も力を(うしな)う!!弾体自体(じたい)が推進力を……」一瞬の残影。「なにっ!?」


 咄嗟(とっさ)(ふせ)いだ右手首に、透明な棒状の矢弾が突き刺さっている。篭手を(つらぬ)いた()()()()()()だ。


「推進力だと!?」バロン=ポテトは即座に急加速、二本目の()()を回避し、そのまま離脱を(はか)った。「アンチ=バロンの武器だとでも言うかぁぁっっ!!!」


 背後より、光の鞭が()(はら)う。「…なんとぉっ!!」クランク回避だ。「ええい。あわよくばも消えたか。よくもやってくれたな『ホルダー』どもっ!!」


「バイバイだっ!!」


 鋭角かつ素早い機動で撹乱(かくらん)し、襲撃者はスイと建物の谷間に(もぐ)()んだ。(…ゴキブリみたいだな…)(もど)ってくる様子はない。


 手を振り、『ストリングス』を消しておく。――(さら)に急降下する黒影。


「もゆもゆ、敵は?」スタンと華麗に着地した。ラキコだ。


「…ふむぅ、やれやれ、酷い目にあったでござるよ…」建物の陰より()()る眼鏡少女が、無表情で答える。「…敵?どこか行った…」「そう?」


「フフ。ゴメンね?最後(あぶ)なかったね〜。やるじゃん覆面くん」


 長身の男装女性が(いき)(はず)ませ、ニッコリと笑いかけてきた。


「ところでどうだった?(うえ)での私の無敵っぷり。バッチリ見てくれた?」バチコーン。可愛(かわ)いカッコいいポーズ。男装イケメンウィンクだ。



 ……そして彼女は、三人と周囲を、不安げに(うかが)う。「…あれっ?」


「そういえば、()()ここにいたの?…ちょ〜っと(いや)な予感がするんだけど…」


 切田くんは、めっちゃ気まずい。「見てません」


「え?」


「見てないです」


「なにも?」


「なにも」


「……あんなに一生懸命バトルしたのに?」ラキコは淡々(たんたん)と、確認する。


「そりゃあ、私は無敵だけど。それでも(きみ)らにアピールするために、こうやって命まで(さら)したんだよ?」


「…最後の所でしたら。敵が上から突っ込んできて…」


(ほとん)どなにも見てないじゃない!!」ラキコは()()()となった。(…それはそう…)全身を(いか)らせて、()めてくる。


「ちゃんと始まる前に、見ててって言ったじゃない!!言ったよね!!?」


(…ひぇぇ…)ニコニコ顔じゃない。すごく怖い。(……怒られてしまった……)


「すみません」切田くんが言う。


「…ごめんなさい」緋村もゆが言う。


「ごめん、(るい)くん」東堂さんが言う。



(きみ)らねぇ…」無敵河原(むてがら) 羅紀子(らきこ)は、(あたま)(かか)えた。



「あーっ!!」髪をくしゃくしゃ()(まわ)して、……すぐに向き直って()()()()笑った。


「やっぱりこういうの、()いてないんだよ。健康に(わる)いんだ」


「私こそゴメン!!」パチンと、ラキコは(おが)(たお)した。「ご明察(めいさつ)のとおり…」


「私たち『パトリオッタ』は、(きみ)らのことを都合良く利用しようとしか思ってない。ゴメンね?」


(お、おう)「はぁ」(知ってますぅ)目をぱちくりさせる。切田くんにとっては今更(いまさら)の話だ。(正直ですね?)


「私個人は真摯(しんし)なつもりでも。私の知らない思惑(おもわく)(から)めば、もしかしたら(きみ)らは、『酷い目』にも合うかもしれない」


「そうでしょうね」


 スン…とする覆面少年を見やり、(だま)()んで変な顔をして、――そしてラキコは、晴れ晴れと背伸(せの)びをした。


「はぁ〜。やっと言えた。(だま)ってるのって、ホント良くないよね」


 肩をクルクルしている。


態度(たいど)にもすっかり出てしまって、ギクシャクしちゃうしさ。こういうのを変に(かか)()むから()んじゃうんだよ。そうは思わなかった?」(…まあ、ストレスには良くないでしょうね…)


「組織とは別に、私人(しじん)としては仲良くもしたかったけれど」


 ニコニコ顔を(くず)したラキコは、()()()目で、ジトッと笑った。


「どう?それでも一緒に来る?」


(…この国には、飛行する魔術師が思ったよりも多い。軍用ヘリまである…)


 いくら『ガラス玉』を使って空を飛んだところで、体力的な航続距離の限界がある。必ず追いつかれてしまう。(…目印を持ったまま、逃げ切れると思わないほうがいい…)


 東堂さんをちらりと見ると、――彼女はコクリと(うなず)いた。


「いいよ、一緒で。きみに()いていく」


「ありがとうございます」切田くんは(うなず)(かえ)し、ラキコに()かってはっきりと宣言(せんげん)した。


「……行きますよ。二人とも」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ