道を聞かれて
なぜか、わたしはよく道を聞かれる。
そう、今も知らないおばあちゃんから、ポンテ・カルミアへはどういったらいいのかしら、と聞かれている。
「わたし、最近地方から出てきたばかりなんですよ」
と言いかけて、飲み込む。
おばあちゃん子なので、おばあちゃんには弱い。
おしゃれなマダムだ。柔らかそうな白い髪がベリーショート。鮮やかなスカーフ。
ははは。うちのおばあちゃんとぜんぜん違うな。
マダムの行きたいところはポンテ・カルミアのたもとだった。知り合いと待ち合わせだそうだ。
そこらへんであればわたしにもわかるので、一緒に行きましょうかと申し出ると、
「ありがとう。いいかしら。ちょっと心細かったの」とにっこり笑顔を見せてくれる。
かわいい人だなぁ。
道すがら、どうしてそこへ?と聞くと、知り合いと待ち合わせをしているということだった。
昔からのお友達ではなく、最近のお友達とか。いいね。
「じゃあ、待ち合わせして一緒にお出かけなんですね。楽しそう」というと
「…そうじゃないの。ちょっと相談といわれていて…」と歯切れが悪い。
肩にかけたバッグを持ち直し、前に抱え直す。
わざとお気楽に「お友達はどんな方なんですか?」と聞くと2年前くらいに知り合って、たまに顔を出して家の用をやってくれたり、いろいろと手助けしてくれるらしい。
「…それでね、その子がトラブルに巻き込まれていて、お金が必要みたいなの…」と。
「やだ、会ったばかりのあなたに変な話でごめんなさいね」
「いや、なんかわかります……でも、他に借りるところないんですかね」というと、
マダムも困った顔をする。
「他の方にご相談されました?」
「いえ、あの子が他の人に言わないでっていうから…」
バッグを握りしめる。
知らんぷりして、
「それは心配ですね〜、お友だちが来るまで一緒に待ってましょうか」というと
「…いいのかしら?」と自信なさそうにつぶやくマダム。
「大丈夫ですよ。わたしヒマなんで」
待ち合わせ場所は橋の近くの建物の前だった。お金を手に入れたらすぐに別れるつもり?
まぁ、なんともいえないけど。とりあえず、マダムとちょっと離れて人待ち顔をして様子をみていた。
待ち合わせの時間から少し遅れて、その人は姿を現した。
マダムに話しかけた時を見計らって、「こんにちは!」と声をかけた。ちょっとドキドキする。
普通の男の人。20代かな。わたしが声をかけたら、あからさまにびくっとしてこちらに顔を向ける。
わたしはにっこり笑って、
「こんにちは!」とあらためて声をかけた。
「わたし、マダムの友達なんです。さっきそこでばったりあってご一緒してます。
ご相談ごとがあるとうかがいました。わたし、冒険者なんでお役にたてるかもしれません。
よろしければご一緒しても?」
そう言って、まっすぐに目を見つめた。
わたしは冒険者。ドキドキを抑えて、落ち着いた声を出す。
マダムの「えっ」という声を聞くが、今ちょっとそっち見れない。余裕ない。
そうすると、その人はあからさまに焦り、
「いや、そこまで大げさな話ではないので…」というので
「でも…お金の問題と伺いました。借用書ご用意なさってます?」
「い、いえ、そこまで大げさな話では…」
「でも、お金のことだし、そこらへん、ちゃんとなさった方がよいですよ。ここではなんですので、座ってちゃんとお話しませんか? あそこのお店でも?」というと
「いや、急いでますので」とわたしを無視してマダムに向かって
「お願いした件いいですよね」と早口にいい、マダムの返事を待たず、バッグに手を伸ばし、引いた。
「ちょっと!」と風魔法で手を払いのけた。
手を払い除けると、男はわたしを見て踵を返した。
「まて!」
走りながら、風を膝裏に送る。
崩れただけだ。
肩に圧。
手をつく。起き上がろうとしている。
後頭部に圧をまとめる
—— 止まった。
「どうしましたか?」という男の人の声に振り向くと、騎士さんがいた。
「…ひったくり未遂です。あと詐欺の可能性もあります」と伝える。
「違う! そんなんじゃない! 勘違いだ! 借りようとしただけだ! まだ何もしていない!」と叫ぶ男。
もう言ってることが破綻してるよ。マダムに聞かせたくない言葉だ。
騎士さんに男を引き渡した途端に息が抜けた。いつの間にか息を止めていたようだ。
「助かりました」というと、騎士さんは眉をわずかに上げる。
「ご協力感謝する。……余裕に見えたが」
「とんでもない。ドキドキでした。力加減がわからなくて」
「…力加減か。…これから事情を聞く。同行をお願いできるか」
「はい」
事情聴取は1時間ほどかかった。マダムはもう少しかかるけど、騎士さんがちゃんと自宅まで送るということだった。
数日後、わたしに感謝状をくれるということで再び騎士団を訪れた。マダムも来てる。
感謝状をいただき、マダムと二人で外にでると、そのまま近くのお店に入った。
「あの子ね」とマダムはいう。名前はいわない。
「いい子だったの。息子を思い出して。でも何か変だったからあなたに話しかけたのかもね」
「全部が嘘じゃなかった気がします。きっと」
「…そうね」
ひとしきり、お話した後、お店を出る。
そのときにぐりちゃんが飛んできて、ピィと鳴き、わたしの肩にのった。
「あ、ぐりちゃん」
「あら、お友だち?」
「はい。小さいころからの」
ぐりちゃんがふわりとマダムの肩に降り、すぐにまた、わたしの肩へ戻る。
マダムはふわっと笑って
「かわいい相棒ね。いいわね。……わたしも相棒ほしくなっちゃった。
……ちょっと楽しみになってきたわ」
と言った。




