新人はつらいよ_登録抹消危機
ギルドでは、新人冒険者の育成と保護を目的として、登録から1年間は「3ヶ月以内に一件以上のクエストを達成させること」が義務付けられてる。
登録から一年を経過した段階で、この期間は半年へと緩和される。また、休止届もそれまでの活動実績を考慮したうえで、受理か却下かを判断される。
さらに登録から3年が経過かつDランク以上を取得している場合は、これらの活動義務は解除される。
――以上のことから、俺は特に資格保持に関して問題はない。問題はヒュリだ。
メロンパン訓練は回数が減ったものの、続いている。また、訓練の際はヴァリセアのギルドに顔をなるべく出すようにしている。王都のギルドも顔を出すが、王宮務めでクエストをうけるわけでもなく、ついでの時となれば返ってヴァリセアのギルドの方が立ち寄りやすいのだ。そして、顔なじみの受付のディアナさんから、目があった途端に質問を受けた。
「ガレンくん、久しぶり!ねぇ、ヒュリちゃん、元気?たまには会ってる?」
「お久しぶりです。はい。相変わらず元気です。訓練帰りに立ち寄ることもありますよ」
「よかった!あのね、ちょっとお願いできるかしら?」
「いいですけど、なにを?」
「ヒュリちゃん、前のクエストからもう2ヶ月なのよ。記録をみても更新されていないし、忙しくて、クエストしないと登録抹消されることを忘れているんじゃないかしら。わかってるならいいんだけど…」
「あ〜、忘れてる気がする」
……うん、確実に忘れてるな。
「そうでしょ!ついでの時に念の為、確認してくれる?ほら、急に伝えても内弟子だしすぐに動けなかったりするでしょ」
「ありがとうございます。今、ディアナさんがいなかったら、確実に登録抹消されている未来がみえました」
「やっぱり、ガレンくんもそう思うわよねぇ。じゃあ、お手数だけど、よろしくね」
「はい。じゃあ、今日の帰りにでも寄ってみます」
「よかった。これで心配事がひとつ減ったわ〜」
ここにいない出来の悪い冒険者の心配までしてくれていて、頭がさがる。このギルドじゃなかったら、ヒュリ、すぐに冒険者から脱落してるだろうな。
さっそく、訓練帰りに立ち寄り、伝えることにする。訓練に支障がなければ立ち寄りは問題ないと事前にトップに了承をもらっておいてよかった。
すでに数回訪れているので、慣れたものだ。扉の前にたち、ノッカーを叩く。
「はーい」と出てきたヒュリ。
「あ、ガレン!どうしたの?」
「ディアナさんから伝言頼まれた。話は変わるけど、扉を開ける前にちゃんと誰が来てるのか中から確認したほうがいいぞ」
「あ〜、そうだね。はい。気をつけます。で、どうしたの?」
「軽い。あまり響いていないだろ。でもほんとに気をつけろ」
「はい。ごめんなさい。気をつけます。でもね、おうちが変な人いれないの」
「それに慣れて、ここじゃなくても開けるかもしれないだろ」
「……う〜ん、ぐうの音もでません。気をつけます」
「気をつけてください」
「はい。善処します……中入る?」
「いや、伝言だけ。新人は3ヶ月以内にクエスト完了しないと資格抹消になるの忘れてるだろ」
「……あーーーーーーーっ!」
「うん、忘れてたね。まだ時間は十分あるけど、内弟子修行中だしって、ディアナさん、心配してたぞ」
「うっわー!忘れてた!なんでもいいんだよね。ここらへん、ギルドないから王都に出たほうが早いかな。ちょっとリサさんに相談する。うわ、ほんとありがとう。しゃれにならないところだった」
「さっきと熱量ちがいすぎるだろ。ま、伝言したから、帰るわ」
「わざわざそれで寄ってくれたの。ありがとう!」
「じゃあな」
ガレンはそう言うと、さっくりと帰っていった。ディアナさん、なんて優しいんだ。女神。そして、ガレン。頼れるお兄ちゃんだ。二人に感謝を捧げる。
あまりにも頭からスッポ抜けていた自分にドキドキしている。ほんと、怖いな!自分。
早くクエストクリアして安心したくなってきた。
リビングに戻ると、ソファに寝転がったリサさんが「ガレンか?」と聞いてきた。
「はい」
「中に入ってもらえばよかったのに」
リサさん、ガレンにすっかり慣れましたね。
「わたしへの伝言を持ってきてくれました」
「なんかあったのか?」
「そうなんです!来月中にクエスト達成しないと冒険者資格が抹消されるとこでした!」
「えー、お前、すっかり忘れてたの?」
「はい、思いっきり、スッポ抜けてました!」
「どうすんの?簡単なのでいいんだろ?」
「はい。ここらへんにギルドないですよね。王都行かないとですかね?」
「来月は実家に行くぞ。収穫祭まで王都に滞在しろといわれている」
「え、そうなんですか?じゃ、王都でクエスト探せばいいかな」
「ああ、弟子も連れてこいとさ。色んなところに連れ回されるぞ。クエストやる時間はないかもな」
「え、王都行くのはちょっと楽しみですけど、じゃあ、今月中にやっといた方がいいですね」
「……ヒュリ、ヴァリセアのギルドの方が慣れてるだろ。一週間やるから一回、帰ってクエスト達成してこい。おばさんたちもかなり心配してたんだ。ついでに戻っておばさん孝行してこい」
「え、一週間も?いいんですか?」
「どうせ行くならある程度はゆっくりしてこい」
「ありがとうございます。あ、リサさん、ご飯その間どうします?」
「そんなん、どうとでもなる」
「ありがとうございます。じゃあ、日程決めるようにします」
「あー、そうしろ。土産とかは町で買ってこい。いろいろもらってるからな。私からの礼だ」
そんなこんなで、急にヴァリセアに帰ることになった私。馬車にゆられて二日、ようやっと到着です。そういえばほんの数か月前にガレンといっしょにはじめてこの街に来たんだっけ。
一年も経っていないのに、この環境の変化。あらためてびっくりするよね。
まずは街にあるギルドへ。
相変わらず、人がたくさん。最近田舎でゆったりしていたので、新鮮だ。
「お久しぶりでーす!」と受付の姉さま方にご挨拶。
「キャー!ヒュリちゃん!」
「元気だった!?」
「久しぶりー!」
「変わらないね!」
とっても明るく元気に迎えていただきました。
「はい。元気ですよー。ディアナさん!伝言、助かりました!もう、すっかり忘れてたの!」
「やっぱりねぇ。そんな気がしたのよねぇ」
「ハハハ。お見通しですねぇ。これ、お土産のお菓子。美味しかったの。みなさんで召し上がってください」
おすすめの焼き菓子をお渡しする。
「さすがヒュリちゃん」「ありがとう!」「今日早速いただくわ」「おいしそう!」
喜んでいただけて何よりです。
「今、クエスト選んでいく?いつまでこっちにいるの?」
「はい、三日滞在して帰ります。簡単採集でクリア目指します」
「それが正解ね。いつやるの?」
「今でしょ、といいたいところだけど、明日」
「じゃ、今選んじゃいなさい。カヤちゃんもルカくんも今日顔を出すはずだから、ヒュリちゃんが戻ってきたこと伝えておくわ」
「ありがとうございます!」
「多分あの二人、一緒に行くって言うわよ。久しぶりに三人で採集行ってきなさいな」
「わぁ、そうなったら楽しいなぁ」
「どれにするか決めて現地に何時くらいに行くか決めてくれれば伝えておくわ。ある程度待って来なかったら、予定が合わなかったって諦めて」
「はい。そうします。ちょっと見てきますね」
張り紙を見に行こうとしたら、ディアナさんが付き合ってくれた。相変わらず、面倒見がよいお姉さんだ。
「ヒュリちゃん、これは?前もやったことあるわよね?」
「これ、リサさんと会った時の採集と同じだ!ほんといつも募集してますね〜」
「まぁ、よく使う素材だからねぇ。じゃあ、それでいいんじゃない?」
「はい。そうします」
「あ、ちょうど今、婚活草の開花時期でもあるし、ついでがあったらそれも採集してみれば?」
「婚活草?」
「張り紙そっちにあるから、見てみて。新人にはきついかもだけど、まぁ、何事も経験経験」
「ただいまー!」
「ギャー!」
「ヒュリ!」
「どうした!」
「破門されたの?」「やっぱ破門!?」「破門かっ!?」
おばちゃん、セレナ、おじちゃん、三人そろって言うこと同じって何よ。
ものすごいハモリ。仲良すぎ。
あれ、おじちゃん、お店閉めに行っちゃったよ。
「失礼な。びっくりさせようと思って、連絡なしで帰ってまいりました」
「あんたねー。心臓に悪いからそういうことやめなさいよ!」
「泊まるとこないよっていわれたら、どうしたのよ?」
「え、ソファでもいいし、庭にテントはってもいいも〜ん」
「あんた、そういうとこは冒険者なんだよね」
「で、ホントの所、どうして戻ってきたの?」
「いや〜、新人は3ヶ月に1回はクエスト遂行しないといけないの忘れててさ〜」
「バカなの?」
「日々忙しくて、頭からすっぽぬけてたの!」
「で?」
「明日、採集クエストやってきます」
「で?」
「三日間ここにおいてください」
「短いけど、しょうがないわね」
「二日かかるからねぇ」
あ、わたしの厳選お土産を披露せねば。
「お土産あるよ。みてみて〜」
リサさんからはワイン。師匠からね、とちゃんと渡す。
あとは、わたしの厳選お土産。珍しい料理本。おじちゃん、おばちゃんの参考になるかなと思って選んでみました。他にも王都で流行ってるお菓子と町の美味しいお菓子、珍しい調味料いくつかと面白いお菓子。おすすめはキノコスナック。いろんなキノコがスパイシー。うま。
そして、なかでもヒュリちゃんのイチオシは、なんとレモン味の蟻が入ったチョコレート。虫キライなんだけど、これ、全然わからない。チョコ茶色いから何入ってるかわかんないし。ちょっとシャリシャリしてる。
そしたら、セレナに怒られた。




