色んな意味で人身災害
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今回アリサが大変な事に!
「気持ち悪い。不潔。下衆の極み」
「うむ! もっと言ってやりなさい、娘よ」
「エロい、クズい、こすい」
アリサは言いながら父親の背中に椅子をずらして隠れる。
「嫌ですわ~。変態ですわ~。いえ、変質者ですわ! 親子の触れ合いに性的な意味を持たせる発想は、既に犯罪者なのではなくて?」
「さ、宰相補佐官まで勤めた私を、犯罪者扱いするつもりか!?」
「だって貴方は稚い自分の娘や妹に欲情してしまうのでしょう? しっかり法に触れますし、倫理的にも問題があり過ぎましてよ」
「話をすげ替えるな! お前が厭らしいという話であって──」
「自身が穢らわしいから他もそうだという発想になるのでしょう。親子の触れ合いを厭らしいという方が、余程厭らしいですわ」
娘の抗弁の途中で何かを思い付いたらしいアリシア伯爵が、立ち上がりながらアリサへ手を差し出した。彼女を立たせる手助けをするように。その唐突ともいえる父の動きに何かを察したらしきアリサが父の手を取る。
「や、やはり穢らわしいのは貴様の方だ!」
親子が無言のまま立ち上がり姿勢を整えると、父が娘の肩に手を置き引き寄せた。
「なりませんぞアリシア伯爵! そのような女に騙されては男の名折れ!!」
魔導師長が我慢できないと言いながら吹き出した。他の面々も顔をモゾモゾさせている。他は親子がサセク元補佐官をからかっている事実に気付いているようで何より。
「職を辞しても──」
「自ら辞したのではなく、ただの処罰ですな──」
「アリシア伯爵、私は貴方の為を思って言っているのです。このザーンネン領次期領主──」
「ザーンネン!?」
アリサが淑女にあるまじき大声を上げた。
「アリシア嬢? ……如何なされた?」
「………まずははしたなき粗相に謝罪申し上げます。ですが、おそれながら確認したい事がございます。宜しいでしょうか?」
礼節のなった普通の令嬢のような顔をして、アリサが畏まる。アリサの相手は宰相が努てくれるようだ。多分に、サセク対策くさい。
「うむ。何かな?」
「ザーンネン領とは、ネビル河を有しているザーンネンでしょうか?」
「うむ。そのザーンネンの長男がそこにいる男だ」
「……近年、ザーンネンでは自然災害が起きたとは聞きませぬ」
「……うむ。小さな災害以外には起きておらぬようだが?」
「ネビル河付近での人災は如何でしょうか? 河の中流はほぼ壊滅。河口に向けて生産量が落ち、治安が悪くなっていると推測致します」
「どうかね、サセク?」
「私はここ二年以上、領地に長く滞在しておりませんので、何とも。ですが領地からはこれと言って何も」
「ここ三年前後の話です」
アリサが時期を搾ると、サセクが不快を表情に乗せて言った。
「無い! 他者の領地に口を挟むな!」
「サビル山のネビル河に接する何処かで崩落事故が起きている筈です」
「何の確証もなく無責任に風評被害をばら蒔くのは止めてもらおう!」
「ハリシア領地、南の里海にまで土砂が流れて来ております。土の成分から土砂流出はサビル山と特定。ネビル河の水流に乗って海まで流されたものと推測できます。ネビル河河口からハリシアの海に至るまで、三年前後。それもハリシアに至るまでに相当な土砂が途中で失われている点を考えると、元々の災害現場は悲惨の一言に尽きるかと予測されます」
「……………」
「娘よ。ネビル河にかかる山は他にもあるぞ」
呆然と次ぐ言葉を口にできないサセクに代わり、父アリシア伯爵が疑問を解消しにかかる。
「アクネッススですね。アクネッススとサビルでは、そもそも山の成り立ちからして違ってきます。どちらも地殻変動にての隆起にて形成されたと推測致しますが、アクネッススは大陸側の大地がサビル側の地殻に圧されて隆起した山脈。対してサビルはアクネッスス側に押し留められて隆起した、海の底。大部分が砂地の名残を残している。つまり、脆い。実際、風化が激しく、奇岩、奇山が有名な土地でもあります。これらの理由から、サビルの土砂は独特で素人にも判定が可能」
「さ、サビルと同じような土なら他にもあるじゃないか!」
滔々と説明に至るアリサに堪らず吠えたサセク。しかしこれにもアリサは淡々と反論する。
「他の隆起は全て海に面し、風化により殆ど平地と変わらぬ状態。何よりサビル以外は神々、精霊、神獣ないし幻獣が管理する土地。在住する人間は、少なくとも領地としてはありません。何よりもネビル河にかかっているのは、サビルのみ。第二に土砂災害を起こしていると考えると、可能性もサビルに限定されます。アクネッススに守られる形で、山として残っているのはサビルだけですから」
「娘よ。先程、人間の存在を臭わせたな。根拠は何だ?」
アリシア伯爵の問に、初めてアリサが戸惑いを見せた。
「言えぬか?」
父の気遣わしい確認に、アリサがチラリとサセクを見てから答えた。
「……人間の生活の痕跡と見られる机や椅子、ベッドらしき物、家の部材の一部と思われる漂流物が多数」
「………災害規模は予測できるか?」
「漂流物や土砂流出はわたくしがこちらに出て来る少し前からですので、伝聞を元にした推測になります」
「その伝聞とやらは具体的に誰からの情報だ」
「海竜と人魚」
「!?」×その他
「予測規模は?」とアリシア伯爵が淡々と確認すると、アリサも淡々と答えた。
「小さな村なら二つ三つ。町なら一つと少し」
「見張り等の目的で山に小屋を築くのは良くある事だ。だが、その規模ではないのだな?」
「海竜も人魚も完全に御立腹です。ただの自然災害なら彼等はあそこまで怒りません。それでも情報をくだされたのは、彼等もハリシアの海を気に入ってくれているから」
「待て。何だその不穏な話の運びは」
「海竜及び人魚からの情報、ハリシアの海に届く程大量の土砂、漂流物。全てを鑑み、造ってはならぬ土地に村ないし町を造った人災であろうと思われます。故に海竜も人魚も大層荒れておられます。ハリシアの海の危機という意味まで含めて」
アリシア伯爵が一拍詰まった。
「ハリシアの海の危機、だと?」
「土砂に埋まり、珊瑚も海藻も壊滅の危機。その二つが滅びると、魚も消滅。土砂の影響で良質な砂場も壊滅的。貝等の生物も姿を消します」
アリシア伯爵が目元を隠すように額に手を当てて黙り込む。
「父様、一応わたくしが出て来るまでは毎日のように海をお掃除しておりました。土砂や漂流物は増えると予測しておりますが、海竜も人魚もお掃除には協力してくれております。一番の課題である種の保存もお願いしておりますから、生態系としての最悪にはならぬかと」
「この馬鹿娘。海の掃除だと!? どれだけ魔力が必要になると思ってるんだ!?」
「毎日魔力欠乏症で、少し慣れました」
「馬鹿者!!」
「言うてる場合ではありません。残った者達が上手く掃除を続けねば、海藻も珊瑚も死滅します。海竜と人魚の協力で絶滅は可能性として低くなりますが、ハリシアの海に戻して育てるには、珊瑚は三百年単位で腰を据えねばなりません。海藻でも数十年単位。実質南の海の産業は壊滅します。海運だけでは、ハリシアの経済そのものの見直しが急務になりましょう」
「それだけの大事、何故今迄報告しなかった?」
「まだ先行きが確定していないという理由が一つ」
「そういう問題ではない」
「いま一つは母様と兄様に口止めされておりました。理由は、父様の仕事の関係とか」
それで察した。おそらくアリシア夫人と嫡子は伯爵の上司が誰であるのか承知していたのだろう。だから被害軽微である現在限定で口を噤んだのだ。
「アリシア嬢、私も訊きたい。集落規模での災害なのだな?」
「わたくしの持ちえる情報からは、その可能性が高い、とだけに言を留めます」
宰相の確認にもアリサは臆さず答えた。
宰相がサセクに向き直る。
「サセク。ザーンネンからその様な報告は上がっていないが?」
「その女の戯言に騙されないでください! 少なくとも私は何も……!」
サセクがキッとアリサを睨み付ける。
「海竜と人魚がどうとか、他が幻獣の管理とか! ただの魔獣じゃないか!」
「幻獣と魔獣を一緒にしないでください。いえ、魔獣にも役割がある。彼等すら住めない土地なぞ──!!」
アリサが話の途中でそっぽを向いた。おおよそあり得ない事態に一同が彼女に注目する。その注目の視線の先でアリサがクッと身を折った。大きく開かれる口から吐き出される真っ赤な液体。
「アリサ!? アリサ!!」
倒れるアリサを支え抱え込みながらアリシア伯爵が必死に名を呼ぶも、もはや返事もできぬ有り様。
「医者」「いや神官を呼べ!」「医務室へ運べ!」
周囲が俄に騒がしくなる。
結局アリサは、父と護衛の騎士達が(弱い)回復魔法をかけ続けながら担架でアリサ用個室と化しつつある医務室へ運ばれる。蛇足になるが、商売柄から騎士には弱い回復魔法を覚える人間がそれなりに居る。閑話休題。
アリサは大量出血によるショック症状で意識不明。初めて観測に出られなかった。
アリサ元気になって!
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