35話
「本当に何もいないな」
「確かに」
俺たちは魔人達が整備したと思われる道を2時間程走っているのだが、経験値にもならないような小さな虫くらいしか遭遇出来なかった。
「これじゃただのランニング配信だよ」
「じゃあそうだな。私の走るペースに付いてきてみてよ。荷物は全部預かってあげるから」
撮れ高を考えた涼がそんな提案をしてきた。
「まあやってみるか。それ以外にすることも無いしな」
「だね。コメント返ししながら今のペースで走るのは難しいし」
ステータスに大きな隔たりがあるため散々な結果になる事は俺もリンネも分かっていたが、それ以外にすることも無いのでやってみることに。
「じゃあ徐々に上げてくね。はい!」
そう言って涼はカメラと俺たちの荷物を回収し、俺たちに向けながら超高速で走っていった。
「は?」
今までの速度でも時速40㎞位は出ていたはずなのだが、その3倍以上のスピードで走っていった。
「徐々ってなんだっけ」
馬鹿かよアイツ。一応俺は俊敏に補正のかかるジョブだからまだ追いつけそうだが、リンネは無理だろ。俊敏に無補正な上に無振りだぞ。
「まあやるって決めたしな……」
あのスピードで走っている人間にスマホで連絡した所で気付く筈が無い。
「悪いなリンネ」
俺はリンネを置き去りにして涼の元へ向かう事にした。そもそもリンネに負けたくないしな。
全力で走る事数分、ようやく俺は涼と会話が出来そうな距離まで近づくことに成功した。
「追いついたか。やるねAIM君」
涼は余裕そうに俺を褒めていたが、俺は既に喋る余裕などない。
「じゃあペース上げるね!」
そんな俺の事情を知る由も無い涼はさらにペースを上げた。ふざけんな。
俺はそれを見てペースを上げることを諦めた。このままだと敵に遭遇する前に確実に死ぬ。
まあリンネには負けないし良いだろ。
とか思っていたら俺の真上から爆発音が聞こえてきた。
「お先!」
上を見ると空を飛んでいるリンネの姿が。
「ふざけてるだろ……」
リンネは魔弾を爆発させ、爆風で空を飛んでいたのだ。
一人は俊敏のステータスが馬鹿みたいに高く、一人は走らずにただ銃を撃っているだけ。
「コメントでも読むか。何か質問とかあるか?」
俺はやっていることが馬鹿らしくなり、走るペースを落として視聴者との交流を始めた。
「遅いよAIM君」
「ほんとだよ。何してたのさ」
1時間程のんびり走っていたら、2人が俺の事を待っていた。
「配信業だ。お前らのカメラから爆音と風圧しか聞こえなくて見栄え最悪だって言われてたぞ」
「あっ。完全に忘れてた」
「機械は日に日に便利になっているけど、まだまだ私達に使われるには不十分なんだ。頑張ってメーカーさん!」
「まあそれはそれで面白かったらしいから良いんだが、それよりもこれの為に待っていたんだよな」
「うん」
「そうだね」
2人が俺を待っていたのは俺との距離が果てしなく開いてしまったからではない。
単に道の先に魔人のものだと思われる村があったからだ。
「衛兵みたいなのは居ないんだな」
「みたいだね。今日は休みとかなのかな?」
一応村の衛兵が経っていそうな場所はあったので、今日が特別な日か何かだったのだろう。
「とりあえず入ってみよう。いざという時はAIMに任せれば良いし」
先程敵対されたばっかりで不安は残るが、余裕で倒せていたので特に問題は無いだろうと判断し、散策を始める。
「誰も居ないね」
街の中に入ったが、門の前同様住人はどこにも見当たらなかった。
「廃村にでもなったのか?」
「僕もそう考えたんだけど、生活の跡が残っているんだよね。ほら」
リンネは近くにあった店から食べ物を取ってみせる。
「新鮮そうだね」
その食べ物は何か分からないが、桃に似た見た目をしていることから果物だと予想される。
かなりの水分が内包されていそうな傷みやすそうだが、黒く変色している部分は見つからない。
「じゃあどこへ行ったんだ?」
「総当たりするしか無いかな」
異変を調べないまま村を去るのは配信者としても冒険者としても気持ち悪かったので、たとえ敵対することになったとしても突き止めることにした。
俺たちはRPGのキャラののように無断で民家に押し入り、調べては去るという事を繰り返した。
そして、
「居た。なるほどそういうことか。ただどうなっているんだ?」
この村で一番大きな建物である教会で魔人を見つけた。
「一旦出ようか」
「そうだね」
俺たちは念のため教会を出て、距離を取った。
「病気か?にしても多くないか?」
「とりあえず異常事態が起きていることは間違いなさそうだね」
というのも教会には大量に魔人の死体が積まれており、それを魔人が埋葬している最中だったのだ。
「流石にこの状態で人間が村を歩いているのは不味いからさっさと逃げよう」
「ああ」
俺たちは慌てて村を出た。
「何か強力なモンスターがここらへんで暴れまわっているのかもしれない。全く敵が見当たらないのもそれが関連しているんだと思う。気を付けていこう」
「うん」
「そうだな」
先程までのおふざけ探索から一変、何が起こるか分からない緊迫したものへと変わった。
「あれ?おっかしいなあ?」
しかしリンネが言ったような強力なモンスターというものに遭遇することはなく、塔の目の前までやってきていた。
「それならもっと早く走っとけばよかったね」
「まあ良い。流石にここなら強力な敵が居るはずだ。予行練習だったってことにすればいい」
塔の前に聳え立つのはどこからどうみても魔王城と呼ばれる建物だった。どうやら今回は魔王がこの階層のボスらしい。
「そ、そうだね。気を引き締めて頑張ろう!」
そう思い、城の扉を開き中に入った。




