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焼き芋

学校についた私たちはそれぞれのクラスに別れて

一週間の学校生活を開始した。

私は勉強が好きなので、嬉々として授業に臨んでいると

気付いたらお昼休みになっていた。

背伸びをして、富農の息子のマルバスや

女不良のエルナ、そして隣のクラスから姉さんを誘って

木造の校舎の屋上で焼き芋を焼きにいく。

もちろん、校則違反だが、気付かれる前に消せばいいのだ。

今の私の懐具合だと

お昼代を払うより、説教を受けるほうがまだいい。

「姉さん、よくきたわね。お金がないわけじゃないでしょ」

「貯金してるのよ」

「ふーん。何に使うのかしら」

「ひ・み・つ。クソビッチに教えても一文の得にもならないからね」

「どうせしょうもない使い道でしょ」

「うっさい」

言い合っていると、マルバスが大量の袋に入った芋を抱えて屋上に戻ってきた。

「みんな~」

チョッキ着た制服の大きな身体についた金髪のおかっぱ頭で、

ドンクサく私たちに呼びかける。

基本的にダメなやつだが、力は強いし、友人を裏切らないので

みんなからは好かれている。

ボッチではないこいつが、私たちに付き合っているのは

親切心からだ。優しいのだ。ブサメンでなければ結婚してやってもいい。

「ありがとね。いつもごめんね」

「一回くらい抱かせてやったらクソビッチ」

「いいよ~気を使わなくても~」

おそらく"抱かせる"の意味すら分かってないマルバスが

ドンクサく謙遜する。

「姉さん、芋と一緒に焼かれたいの?」

「おお、こわいこわい」

ぎゃあぎゃあと二人で、言い合いながら

集めた枯れ木を燃やして、底に芋を入れていく。

エレナは無口なので、喋らないが楽しんで居るようだ。

元々は他人絡まない一匹狼なのだが、いつの間にか、私たち四人のグループに入っていた。

真っ赤に染められた長髪から覗く鋭い顔は、他のクラスメイトたちの畏怖の象徴だ。

親か親戚がマフィアのボスがで、この身元のはっきりしている金持ちの子供しか入れない

"セントルジナリス学園"に金の力でねじ込んで入学したと噂されている。

女ながらに、気に入らないと先生でも締め上げる不良である。

「エレナちゃんって何考えてるんだろうね」

姉さんがこっそりと私に囁いてくる。

「わかんない。でも悪い子じゃないよ。弱いものイジメしてるところ見たことないし」

「そうなの。まあ、私たちにも誰も手を出せなくなったし、いっか」

そうなのだ。お父様が狂ったのが有名になってからは、

一時期学校中のイジメの対象になりかけていた私達にさりげなく近づいて、

そこから遠ざけてくれたのはエレナである。

その点では、私は彼女には大きな恩が出来たと思って居るし

いつか絶対に返してやりたい。

「あ、芋やけたよ~」

マルバスが芋に串を突き刺して、不器用に私たちに渡してくる。

「……ありがと」

エレナは短く呟いて、芋を受け取った。

私たちも礼を告げて、受け取る。

しばらくして冷えるのを待って、皮をむいて食べる。

食堂から拝借してきたマヨネーズもある。

マルバスは次の芋を焼き始めた。本当にいいやつである。

自分が食べることを忘れている。

抱かれたくはないが、いつかマルバスにも何らかの形で

礼をしなければな。と思っていると

「こらーっ!!あんたたち!!」

と背後の屋上へと続く階段から、大声があがる。

出てきたのは、女先生のルジアーナ。

ジャージ姿で、黒ぶち眼鏡に、黒髪を頭の後ろでぶっきらぼうに止めた

この先生の出現に一瞬身構えた、私たちはホッとする。

「ルジ先生、一緒に食おう」

エレナが嬉しそうに、先生に近寄る。この恐ろしい不良が唯一懐いているのが

三十代半ばで、嫁の貰い手がない独身女教師なのだ。

ちなみに、他の生徒にも人気が高い。

歴史の先生なのだが、べらぼうに授業が上手くて

しかも細かいことを言わない。処女と言う噂があるが、誰も気を使って聞いたことは無い。

私的にはちゃんとメイクすれば綺麗な気がする。

「ちょっと……私、注意しにきたんだけど」

「今ちょうど焼けましたよ~。はい、どうぞ」

マルバスから焼けた芋を刺した串を渡されて、ルジ先生は仕方なく受け取り

エレナと共に食べだした。

「先生の顔を立てて、火は消して頂戴」

「マル、先生が言ったぞ」

エレナは先生の前ではすっかり優等生である。

「ほいさぁ。水かけるねぇ」

マルバスが焼けた芋を全て回収して、枯れ葉に用意していたバケツで水をかけた。

一瞬そこで、周囲の世界が止まる。


「……!?」


私は驚いて立ち上がるが、姉も含めて皆、完全に止まっている。

揺さぶろうとしても動かないようだ。

戸惑っていると、

「こんにちは。いい天気だねえ」

と言う嫌みったらしい声が響いて、全身真っ黒の鎧を着た大男が

屋上の端に姿を現した。

男はガチャリ、ガチャリとゆっくり私に近づいてくる。

恐怖におののいていると

私の目前に


"透明な光の盾が少女と黒騎士の間を遮った"


という文章が不意に現れて、

本当に透明な光の盾が鎧を着た大男を遮った。

何が起こったか、分からないで居るとさらに


"男の周辺に千のナイフが降り注ぐ"


という文章がその大男の周囲に絡みつくように表示される。

すると、本当に大量のナイフが空中から男を襲い、その黒鎧の男は

それを素早く背後に飛び退けて、避けると

「チッ。起きていたのか」

と吐き捨てる、そしていきなり消えた。

そうすると、屋上の床に転がったナイフも男を追う様に消えた。

すると瞬時に、周囲の時間が動き出した。


燃えている枯れ葉に水がかけられて、ジュワアという音がして火が消える。

一瞬何が起きたのか、分からずに呆然としていると

姉から

「何ボーっとしてるのよ。食べなさいよ」

とせっつかれる。エレナは普段見せない穏やかな顔で先生と談笑している。

マルバスは後片付けを終えて、やっと芋を食べ始めた。

私は釈然としないまま、二つ目の焼き芋を口に運ぶ。

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