ご先祖
「おやすみ」「おやすみ」
エスカリーテと部屋の前で別れる。
明日は学校かあ。えーと、何しようかな。
アルスハーンをいじるのも飽きたし、皆で
先生をからかっても……あ、こないだ、それでお父様が呼び出されて
逆に先生たちが意味不明なことをいうお父様に困ってたな……。
あ、そうだ、屋上で焚き火して、焼き芋を皆で食べましょう。
マルバスのうちの畑、近いから、一杯もってこれるし
それで、昼食代も浮くからなあ。
夜はしかたないから、ちょっとだけマーゴの相手してやるかあ。
金づるだけど、たまにはね。
私は、眠りにつこうとした。
どうしてもさっきのことが思い浮かぶので、
うさぎのぬいぐるみのシャルロッコを棚からもってきて
抱きしめて寝ることにする。こうしたらよく寝れるのだ。
姉は私のことを、今を見ていないとなじるが、
見たり、考えたらいけないものもきっとあるはずでしょ?
逃げることがいつも間違ってるとは限らない。
そう思いながら、私は、眠る。
……
真っ暗な、とても暗い、世界に一人佇んでいた。
見回しても何も見えないし、誰も居ない。
私は感覚を頼りに、少しずつ動いて、周囲の様子を確めていく。
そして、棚や、机、寝なれたベッドの形を触り、確認して
愕然とする。
ここ……私の、部屋だ。
しかも、ベッドの上には私が寝ている。
突っつくと、寝返りを打ったようだ。
「なに、ここ……」
私の身体がベッドに寝ていて、意識のある私はここにいる。
試しに私は部屋のドアを開けて
廊下へと出てみる。
すごい……確かに、私の家だ。廊下の壁を伝って
姉の部屋へと歩いていく。ガチャリとドアを開けてみて
驚いた、暗闇の中にボウッと照らされて
見慣れた犬の姿があるではないか
「パーシャル!!」
「ワンッ!!」
私はパーシャルを抱きしめた。
パーシャルも舌を出してそれに答えている。
「どこ行ってたの?」
「キューン……」
悲しそうな声を出しているパーシャルは
パジャマの端を咥えて
私を暗闇の中、姉の部屋の外を引っ張っていく。
そのまま、引きずられて、廊下を引きずられていく。
いつもの肖像画の前まで連れて行かれる。
金髪のカツラを被り、バッチリと高級なチュニックを着た。
何とも言えない表情をした中年のご先祖様だ。年のころは五十くらいか。
あれ、何で、私、見えてるんだろ。周りは真っ黒なのに
肖像画が口を開く。
「シャルロッテよ。言いたいことは沢山あるが
時間が無い。要点だけ話す」
「え、ええ……喋った」
「まずは自分を大事するが良い。誰にでも股を開くでない。
望まぬ相手との体液の交換は、いずれ運気の猛烈な低下を招くぞ」
「いきなり説教しないでよ。しかも表現をもうちょっと選んだら?」
「先に進むぞ。影の騎士をお前の父親はよく抑えているが
このままでは長くは持たぬ。良いか聖剣を探すのじゃ。
聖剣で影の騎士の首を切り、この不幸な因果を断ち切れ」
「ちょっと、何言ってるかわかんないんですけど」
「よいか。今の言葉忘れるでないぞ」
「あの……
……
「シャル、朝よ。さっさと起きなさい、このドンクサビッチ!!」
姉が布団を引っぺがして、私を起こしてくる。
おかげで夢のショックが吹っ飛んだ。
「うっさいわね。男を知らない女は黙っててくれる?」
ボサボサの頭をかきながら、文句を言う。
「あー憂鬱だわ。今日から五日も学校だなんて」
「あんたも勉強しなさいよ。分かんないからつまらないのよ」
「うっさい、足の速さなら誰にも負けないわ」
「はいはい。女が足が速くても、もてませーん。いい加減、朝食食べさせてくれないかな」
「早く、行きなさいよ」
姉から蹴り出される様に、部屋を出て私は、食堂に行く。
姉も後からついてくる。
昨日の夢で話した肖像画を眺めていると、姉から怪訝な顔をされる。
「バグルローム卿の肖像よ。何でも大ボラ吹きとも、英雄とも言われていた
ご先祖様よ」
「そうなんだ。なんであんた詳しいのよ」
埃まみれの廊下を食堂に向いながら、訪ねる。
「お父様が、昔よく言い聞かせてくれたじゃない。
あの人の話を」
「ああ、地獄でドラゴンを退治したとか、暴れまわるヘルハウンドを従えたとか
すごくどうでもいい話ね。ウソしかないじゃない」
「あんた、あのころ、田圃のカエルにしか興味なかったもんね」
「今は、そうでもないわよ」
「同じようなもんよ。ビッチでギークとか最悪ね」
と言いながら二人で食堂に入る。お父様は居なかった。
夜型だから仕事の無い日は、昼過ぎにしか起きてこない。
二人で、朝食を作る。
今日は、サラダとパンとハムエッグである。中々の出来だ。
「ねぇ、姉さん、私、昨日変な夢を見てね」
「私も見たわよ。パーシャルが起こしにきた夢よ。
追い払っちゃったけど、今ちょっと後悔してるわ」
「……」
私は昨日見た夢のことを姉に話して聞かせた。
「その話、学校でしないほうがいいわよ。
あなたの正気を疑われるわ」
「そうよねぇ……」
お父様がああなのは、もう有名なので
私たちはそうではないという風に常に見せていなければならないのだ。
その話はそれで終わり、制服を着た私たちは
草まみれの庭を通り、門を開け、そして鍵を外から再び閉めて
学校へと二人で並んで歩いていく。




