3-08 採れたて夏野菜満喫お昼ご飯!
「今日の昼飯は、甘酸っぱい香りがするな!」
和室に向かうと、いつの間にか白玉がお行儀よく座っていた。
「庭の縄張り争いは終わったの?」
「ああ、俺の勝ちだ!」
「それではこちらが、白玉の勝利報酬です」
「おお!」
勝ち誇った白玉の前に尚君がお皿を置くと、白玉がじっと料理を見つめた。
「やたらとカラフルな飯だな」
白玉の言う通り、甘酢あんかけは見た目がかなり彩り豊か。
トマトの赤にピーマンとオクラの緑、ナスの紫と大根おろしの白、それと鶏肉の……えーっと……良い感じの焼き色!
「全部じゃないけど、ほとんどがさっき採れた野菜だよ」
「ほう! 獲れたて新鮮というやつか! 野菜を守ったかいがあるな!」
獲れの意味違わなくない?
鶏肉は狩ってないからね??
私たちがお茶を淹れたりご飯をよそったりしている間、白玉が「はよせい」と言わんばかりの目線と尻尾で圧をかけてくる。
先に食べて良いのに、料理を前によだれを垂らしながらも私たちの支度が終わるのも待ってくれるのが、なんだか面白可愛くて、思わずモフりにいってしまった。
「あとでいくらでも撫でさせてやるから、早く支度するんだ!」
「ふふっ。はいはい」
そんなこんなで、緑茶の準備も出来た私たちは和室に着席する。
鶏肉と夏野菜のおろし甘酢あんかけを大皿に、前の日に準備していたゴーヤの漬け物も取り分け出来るように小鉢にまとめてこんもりと乗せて。
あとは白米取り皿ととあったかい緑茶も、私と尚君の席にそれぞれ配置済み!
今日もかなり暑いから冷たい飲み物……と言いたいところだけど、白米にはやっぱり緑茶だよね!
異世界では和食が食べられなかったから、しみじみと実感する。
お吸い物も作りたかったけど、よだれ垂らしまくりの白玉を待たせるのも可哀想なので今回はなし。
お昼の準備もバッチリ整ったので、私たちは手をあわせて頂きますの挨拶をした。
「じゃあ、いただきますー!」
「いただきます」
「いただくぞ!」
あんかけ丼を食べようとした白玉が、上にかかってる大根おろしに気付いて鼻でつついた。
「なんだこの雪は? 溶けないのか? と言うか雪を食うのか? だが匂いが雪じゃないな?」
おや? いつもなら即バクバク食べるのに、今回は珍しく警戒してるのかな?
「雪を食っても、腹に溜まらないだろ?」
警戒と言うより、いつも通りの食いしん坊でした!
何気に尻尾がだら〜んと下がっていて、テンションもだだ下がりしているように見える。
「雪じゃないから溶けないよ」
「たしかに、雪の冷たさじゃないな」
そう言えば意外にも、白玉が大根おろしを食べるのは初めてかもしれない。
私が見てないところで、尚君がコッソリご飯を与えてなければ……だけど。
なーんか、隠れてご飯をあげてそうなんだよねえ。
「そう言えば、大根おろしは『みぞれ』とも言いますね」
「みぞれ?」
尚君がうんちくを言い始めたので、白玉がよだれを垂らしながら首を傾げている。
食べたいけど食べていいのか分からない、みたいな心境かな……。
「溶けかかった感じで降って来る、雪のことだね」
「じゃあやっぱり雪なのか!?」
「大根と言う根菜を、すりおろしたものですよ」
「ということは、食い物か!」
食べ物かそうじゃないかを聞かされるたびに白玉の尻尾がへにょんとしたり、ブンブン揺れたりするので、見ていて楽しいのは秘密。
削ったかき氷食べることになったら、どんな反応するんだろう?
「そうだね。さすがに、食べ物じゃないものを白玉のお皿に乗せたりはしないよ」
お弁当の仕切りとかお子様ランチの旗とか、一緒に食べちゃいそうで危ないもんね。
「それもそうだな!」
警戒を解いた白玉が器用にも大根おろしだけを食べた瞬間、尻尾がピーン! と立った。
「むっ! ピリッとする!」
「さっき軽く味見したけど、ちょっと辛めの大根なんだよね」
「あんかけが少し油っぽいので、大根おろしがあるとサッパリして丁度良いんですよね」
「そうそう。ナスなんかめっちゃ油吸うもんね」
「最初は大根おろしなしで、次はありで食べると味変出来て良いと思いますよ」
なんて会話をしているけど、私たちはまだ甘酢あんかけを食べていない!
「ほう。だが俺はこの雪アリで食う!」
まあさっき大根おろしだけを食べたから、そうなるか。
私たちが見守る中で白玉が丼を食べ始めた。
「具に絡んだ甘酸っぱいタレが美味いな! 肉と野菜は少し油っこいが、この雪と一緒に食うとサッパリして食が進むな! オーヤの言う通りだ! んまい!!」
「お口に合ったようで、なによりです」
白玉が美味しそうに食べている甘酢あんかけも気にはなるけど、私はまずはゴーヤの漬け物を頂きます〜!
正確には輪切りにしたゴーヤを麺つゆに漬けたもの。
口に入れて噛むと、もきゅっと音がして面白い。
「ほんのり苦いけど、あまじょっぱさがあって意外に美味しいね」
「そうですね。麺つゆで漬けたからか、マイルドな感じですね」
「ご飯も進むね~」
「ふふ。あんかけも忘れないでくださいね」
「そうだね、うかうかしてると私たちの分まで白玉に狙われちゃうもんね」
と言いつつも、尚君も先に漬け物から食べ始めている。
苦さと甘さが程よい感じで、思わずご飯と一緒にもきゅもきゅと頬張ってしまう。
そしてその後に緑茶を飲むと、ゴーヤに残っていたほんの少しの苦みがじんわりと和らぐ感じがして、より食べやすくて美味しい〜。
お吸い物作らなくても大丈夫で良かった。
まあ、それはそれとして。
「…………なんか私、年寄りみたいじゃない?」
「そんなことないですよ。美味しそうに食べているので、見ていて嬉しくなります」
湯呑みを片手に笑顔でこういうこと言われると、照れるよね?
お次は甘酢あんかけ! ……と言いたいところだけど、だいたいこういうタイミングで白玉からのお代わりコールが来る。
「美味いぞ! おかわり!」
「今日もいっぱい食べるね」
「沢山働いたからな!」
異世界に居たときより動いてないでしょ? と言うツッコミは野暮かもしれない。
「僕がよそいま……」
「私がやるね!」
「あ……はい」
お箸を置いて立ち上がりそうになる尚君をけん制して、白玉のお皿をすばやく回収!
こうしないと、尚君が何でもかんでもやっちゃうからね。
白玉のお皿にこんもり白米をよそって、まだ中華鍋に残ってる甘酢あんかけの具材や大根おろしをドドンと乗せる。
白玉のご飯を用意していると、大衆食堂のおばちゃんになった気分が味わえる。
そう言えば白玉はまだゴーヤの漬け物を食べてないから、それも一緒に乗せておこう。
「お待たせー。お代わりだよ。おまけつきね~」
「なんだこのギザギザの輪っかは。食えるのか?」
「ゴムだろ? シノが物をまとめるときに使ってるやつ!」と言わんばかりの疑いの眼差しを向ける、餓えた獣が目の前におります。
そんな白玉に向かって、私はドヤ顔で答えた。
「私が食べれないものを白玉のお皿に乗せたことある?」
「ない!」
曇りなき真っ直ぐな眼と一緒に、良い返事をありがとう!
「と言うか、いまちょうど尚君が食べてるやつだよ? 私もさっき食べてたし」
「少し大人の味ですね。あんかけのお供に食べると、大根おろしとはまた違ったサッパリした感じが楽しめますよ」
「ならば俺も食う!」
素直な白玉がゴーヤの漬け物をひょいっとひとくち食べると、目をクワッと開いてモフモフな毛をぶわっと逆立てて吠えた。
「にっがっ!!!」
いつもは美味い美味い言う白玉の反応が珍しくて、私と尚君は揃って声をあげて笑った。




