グレンとシュレ3
ところで、とシュレは目の前にいる英雄王を見る。
「この弓はどこかで練習してもいい物なのか?」
いきなり実戦で使ってしまったが、さすがにあれほどの威力を毎回使うわけにはいかない。
どれぐらいの力で使うべきなのか把握するべきだし、どこが限界なのかも把握したいと思っていた。
思っていたが、さすがに物が物なだけにどうしたらいいものかとも思っていたのだ。簡単に使っていい物なのかすらわからない。
「そうだな……」
確かに練習は必要だろうとグレンも思う。いきなり実戦であれだけ出来れば十分な反面、力の使う量はもっと考えてもらわないと、毎回倒れられても困るのだ。
なにせ、彼は連れてきた傭兵で一番の戦力になる。聖弓の力はそれだけのものなのだ。
「確か、イリティスが使っている場所があったはずだ。明日にでも聞いてみるか」
かつてイリティスが力の練習をしていた。そこが使えるはずだとグレンは言う。
彼自身はフォーラン・シリウスの記憶を元に使っているだけに、練習の必要などなかったのだ。
弓に関してはさすがに専門外なだけに、なにかあればイリティスに聞けばいいとも付け足す。
「外出しなければだがな。俺が戻ったから、出る可能性はある」
「そうか……」
彼がここにいるなら、出かけても問題ないという判断なのだろう。その理由もなんとなくだがわかる。
「困ったときには聞くかもしれないが、とりあえず一人で頑張ってみるさ」
最初から誰かに頼るのは好きではない。どうしてもわからなければ、誰かに頼ることもあるのだが、まずは自力でなんでもやるのがシュレだ。
「なら、そろそろ寝るんだな。かなり遅い時間だぞ」
外が明るいからわからないだろうがと言われれば、苦笑いに変わる。
時間の感覚がなくなりそうだと思ったのだろう。
(ここがこんなだから、時計なんて作ったのかもしれないな)
息子と側近、二人が時間という概念を作ったのも、すべてはここで暮らすことを決めた四人のためなのではないか。
そんなことを考えながら、シュレは部屋を後にした。
一人になったグレンは、そのまま別の部屋へと向かった。イリティスと話をするために。
「待たせたか?」
「いいえ。やることならいくらでもあるもの」
天空城の表に関してはセレンの住民が手を貸してくれている。けれど、外との繋がりがある奥はイリティスが一人でやっていた。
なにがあるかわからないことから、セレンで暮らす住民とはいえ入れるわけにはいかないのだ。
精霊達が手伝ってくれていたが、それでも一人でやるのは大変。
「悪いな…」
わかっているから、そこはさすがに申し訳ないと思うグレン。話し合って決めたこととはいえ、彼女に負担がかかっているように思えてしまう。
「外はシオンとグレンに任せてるんだし、気にすることではないわ」
それで、と彼女は本題に入る。彼女はシリンの力が引き継がれた話をするため、待っていたのだ。
「どうなってるのかしらね」
わかる範囲でいいから教えてくれとイリティスは言う。精霊から聞く手もあるが、本人から聞く方が正確だ。正確な情報を求めた。
東での戦いを話せば、連絡ぐらいよこせと言われたのは別の話。彼女に連絡するということは、すっかり忘れていたのだ。
普段はなにかあるとシオンへ連絡をしていたことから、彼女へするということは考えもしなかったというのが正解かもしれない。
「突然、シリンから接触があったそうだ」
「シリンから…」
しかし、彼女はすでに死んでいる。接触とはどういう意味になるのか。
「聖弓に残された残像といったところのようだ。たぶん、転生前のイリティスがイリスと対話したのと近いんじゃないかと思ってるが」
正確なことがわかるかわからないが、アクアに星視を頼んでいると言えば、イリティスも結果待ちだなと頷く。
彼女の星視は当たる。誰よりも知っている二人だからこそ、絶対の信頼を持てるのだ。
「そこで、シリンからの伝言を預かっている」
伝えた瞬間、イリティスは思わず祈りの間を見てしまった。そこに息子もいるのだろうかと思ったのだ。
力の中に残像としていて、シオンを助けてくるかもしれないと。
「なにかが起きようとしている。それは間違いないが、あいつらには負けてられないな」
彼女の内心を察してか、グレンは苦笑いを浮かべながら言う。
「そうね。何度も助けられては、さすがに顔向けできないわ」
なんのためにこれだけの月日を生きてきたのか。息子達が守った世界を守るため、シオン一人に背負わせないために、今ここへいるのだ。
「当然だ。たとえ消えたとしても、ここで戦わないという選択はない」
真剣な表情を浮かべたグレンを見て、イリティスはハッとしたように見る。
イリティスとグレンでは存在が違う。
持つ力は同じシオンの物。しかし、イリティスは虹の女神という存在であり、グレンは不死となっているが、ただのハーフエルフなのだ。
この戦いで消えてしまう可能性があるのだと、改めて気付かされた。
「そんな顔するな。いつかくるとわかっていたはずだ」
「……えぇ。そうね」
わかっていたが、あまりにも長くいたことから忘れかけていたのだ。
この戦いによって、長く傍にいてくれた仲間との別れが待っているかもしれない。
そのことを忘れてはいけないとイリティスは心に刻む。
人間と暮らしていたこともあって、先に死なれていくことに対しては割り切っていた。割り切っていたのだが、彼はどこか別次元になっていたのだ。
「お前でもそんな顔するんだな」
「私も驚いてるわ」
けれど、もう問題はないというように笑う。
自分がしっかりしていないと、という考えが彼女の中にはあるのだ。シオンがとても脆い一面を持っているから。
だからこそ、彼もあえて言ってきたのだろうと思う。その可能性がある戦いだと認識させることで、そのときがきたらシオンを支えるために。
「シオンのことは気になるが、俺達にできるのは帰る場所を護ることだけだ」
「そのためなら、私も戦うわよ」
守られているだけなのは性に合わないと言われれば、グレンも笑いながら頷く。
彼女はこうでなければ、彼女らしくないと。
・




