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メルレールの英雄-クオン編-前編  作者: 朱漓 翼
2部 二刀流の魔剣士編
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魔物の異変3

 その日の深夜、久々に声が聞きたいと思い時計の魔力装置を発動させた。


 この時計には映し出した相手との交流がとれるようにもなっていたのだ。


 それは王だったとき、メリシル国とやりとりできるように作ったものでもある。


「グレン君やっほー!」


 映し出された妻の姿に、自然と笑みが浮かぶ。


 問題がないことは誰よりもわかっているが、それでも心配なのは彼女が魔力でしか戦う術をもたないから。


「あっ、寝てないでしょ! ダメだよ、ちゃんと寝ないと」


 いつもの明るさで言ったかと思えば、怒ってみせる妻。どうやら、行動が筒抜けのようだと苦笑いを浮かべる。


「流れ星が気になってな…」


「それは、あたしも気になってるけど…」


 気にして見ていたからこそ、グレンの状態も正確に知っているのだ。星というものを通して。


「今のところ流れ星は見てないよ。たぶん…」


 絶対ではないだけに、言い切れないのはすべてを知っているからだ。


 ちょうどいいタイミングだったかもしれないと、グレンは星視を頼むことにした。


「アクア、今できるか?」


「それは構わないけど、なにが気になるの? あー、グレン君の周辺かな」


 少し前から影が出ていると言われれば、それが東にいる外からの影響だと悟る。


「それ、もっと詳しくわかるか。おそらく、シオンを潰すために俺を狙っているなにかだ」


「うん、いい、よ…えっ…えぇー!」


 さらりと言われた言葉に、一瞬聞き逃してしまいそうになった。


 なにをあっさり言っているのかと突っ込みたくなったほどだ。


「なんでグレン君?」


「わからん。シオンの力を持つからだろうが」


 その意味で言えば、自分だけではないと思っている。ただし、聖剣のことを踏まえると自分しかいないのかもと思わなくもない。


 よくわからない繋がりのようなものができてしまっているのかもしれないが、その辺りは本人と話してみなければ答えはでないと思っていた。


 とりあえずわからないことは後回しだと言えば、一応視てみると言うのが答えだった。


 星でなにかがわかるかもしれないし、わからないかもしれない。こればかりはどうすればわかるのか、などという基準がないだけに困る。


「えっと…まず魔物の動きだね」


 元々この世界にいる魔物は特に変わっていない。そう言われれば、グレンがホッとしたのは言うまでもなかった。


 シオンがいないことで強くなってしまうなら、対策を考えなくてはいけなかったところだ。


「たぶんなんだけどね、シオン君の存在がないことは影響するんだと思うよ」


「つまり…俺か…」


「うん。シオン君はいないけど、シオン君の輝きはここにあることになってる」


 理由はグレンしか考えられない。長い年月を過ごしたことで、彼が持つ力にも変化が起きているということなのだろう。


「鍛えすぎた、というところか」


 苦笑いを浮かべながら言うが、結果的には助かったのだからいいかとも思えた。


 現状では、魔物に関して異変が起きているのは東だけだと星視の結果は出た。


 外からの干渉は間違いなく起きているようだが、それも東だけ。


「闇が入り込んでるのは間違いないみたい。それが東にいる」


「東の魔物が強くなっているのは、闇が原因。想定通りだな」


 つい先程出した答え。それがそのまま星視にもでている。


 ならば街から離れるのは正しい判断だと思えた。


「強い闇じゃないみたいだけど、気を付けてね」


「二度も負けるか。あのときはまったく役立たなかったからな」


「まだ気にしてたんだ」


 あれから三千年も経ったというのに、いつまで気にしているのかと呆れる。


 それに、あれは仕方ないのではないかとも思う。世界の守護者とするはずの存在が送り込まれたのだから。


「手助けはいる?」


「いらない」


 即答された言葉に、なんとも複雑な気持ちになる。少しだけ呼ばれたかったという気持ちがあったからだ。


「悪いな。頭の切れるハーフエルフが一人いて、バレたついでに全部話した」


 だから困っていないというよりは、一緒にいることでなにを言われるかわからないというのが本音。


 考えがわかったのか、アクアは笑いながらわかったと頷く。


「シュレがいれば、とりあえず問題はない。そのまま連れていくと思うが」


「気に入っちゃったんだね」


「困ったことにな」


 意味がわかるだけにアクアは笑うしかない。


 別れが辛くなるからと一定の距離を縮めないようにしていたのに、自分で縮めてしまったのだから。


「楽しみにしておくね」


「あぁ。それより、アクアの情報は?」


「あるわけないじゃん」


 えっへんと胸を張って言うから、だよなと苦笑いを浮かべながら言う。


 三千年経っても変わらない妻に、これをいいと言うべきなのか悩むところだったりする。


「なにしに行ったんだ」


「遊びに行ったの」


 違うだろと内心突っ込むと、これはこれでいいかと思い直す。


 彼女に求められているのは星視の力。いざとなったとき、誰よりも正確にすべてを見抜くのが妻なのだ。


 わかっているからこそ、誰もなにも言わない。


「星視はするのか?」


 基本的には星さえ見られれば星視は可能だ。けれど、それは本格的な星視ではない。


 本格的な星視は西の大陸でしか行えないのだ。


 どう違うのかに関しては、グレンはわかっていない。一度だけ特別に同席させてもらったが、わからなかったのだ。


「やるつもりなんだけど、日程が組めなくてね」


「それも、俺にはわからないやつだな」


 星視ができる状態かそうじゃないか。それすら、グレンにはわからないこと。


 なんとなく天気のようなものだと理解するしかない。


「これ、シオン君にもわからないって言われるんだよね」


「専門外だろ。あいつは太陽神だからな」


 拗ねたように頬を膨らませる姿に、仕方ないことだとグレンは言う。


 そうかもしれないけど、とそれでも拗ねる姿にグレンは話題を変えることにした。


 せっかく連絡をとったのだから、もっと違う話をしようと言えば表情も戻った。


「あたしもグレン君に会わせたい子がいるんだよ」


「俺に?」


 それは別段珍しくもないことで、いまさら言わなくてもいいことなのではと思う。


 彼女は定期的に西へ行っては、よく会わせたいと言ってグレンを連れ出していたのだ。


「今回はすごいんだよー!」


 それも毎回聞いているとは、さすがに言わないでおく。また拗ねてしまうからだ。


「連れてくるのか」


「そうだね。グレン君が連れてくるなら、あたしもそうしようかな」


 さすがに西へ一緒に行こう、と言えるような状態ではない。


 それに、戦いになるならいてくれた方が助かるという気持ちもなくはなかった。


「神官とか言わないよな」


「天空騎士だよ」


 神官だったら連れていかないよ、と言われてしまえば笑って誤魔化すことに。彼女ならやりかねないと思ったのだ。


 一曲歌ってくれとグレンは言う。本当は魔力装置などではなく直接聴きたいところなのだが、今はそれをしている場合ではない。


「いいけど、寝る時間なくなっちゃうよ」


 竪琴を奏でだした妻に、寝落ちしたら勝手に魔力装置を切っておいてくれと笑いながら言った。


 寝るつもりはないが、妻の歌声だけは自信がない。


 自然と眠りについてしまうことは多々あったのだ。


「しょうがないなぁ」


 寝るまで歌ってあげる、ときれいな歌声が魔力装置越しに響き渡る。


 たとえ三千年経っても変わることのない歌声。すべてのものを魅了し、癒してくれる不思議な歌声だ。


(やはり、寝落ちるな…)


 目を閉じて聴いていれば、問答無用で意識が落ちていくのを感じた。


 妻の歌声だけは弱点かもしれない、というどうしようもないことを考えながら。


 そんな夫に気付いてアクアが魔力装置を切るのは、それから数分後のことだった。






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