クロエの思考3
合同訓練の傍ら、クロエはセルティと話す場を設けた。会議以降、話す機会がなかった為、副官に頼み作ったのだ。
「ツヴェルフから聞いたか?」
「はい。聞きました」
助かることに、相手側も話をするつもりだったよう。副官に任せると真っ直ぐにやってきた。
「本人には?」
「まだ言ってません。精神的にも弱っていましたから」
この人ならわかっているはずだと思う。おそらく試されているのだろうと。
(あまり気分よくはないな)
正直なところ、不愉快だとすら思う。試されるのは好きではない。
「不快そうだな」
「ええ。不愉快ですよ」
だから、言われた言葉に即答していた。普段の彼なら絶対にしないことだ。
「普通、素直に言うか?」
「事実ですので」
しれっと言えば、セルティは笑った。
それで、と言うように視線で問いかければ、セルティは表情を引き締めた。
「クオンとリーナの様子は」
「立て直しましたよ」
これが望みでしょうと言えば、苦笑いを浮かべる。少しやりすぎたかと思わなくもないが、やはり気に入らないので構わないと結論を出す。
「悪かった。聞きたいことは教えてやる」
「当然です。俺には知る権利があると思いますので」
そこまで言われてしまえば、さすがにセルティも笑うしかない。
「なにが知りたい」
「オーヴァチュア家に特殊能力者が生まれる原因。リオン・アルヴァースについて。中央の大陸セレン」
あらかじめ聞くと決めていたのだとわかるが、問いかけてきた内容には驚く。特に、一番最後に言われたことがだ。
まさか中央の大陸を聞いてくるとはさすがに思っていなかった。
中央の大陸セレンは、住民が暮らしているが行き方は不明とされている地。そこを突っ込んでくるとは思わなかった。
「とりあえず、リオン・アルヴァースについてはこの本を貸してやる」
「本、ですか?」
怪訝そうに受け取ると、セルティがフッと笑う。中を見てみろと視線が言っている。
「……これ」
パラパラと捲って驚く。これはリオン・アルヴァースだけが書かれた本だとわかったからだ。
「シュトラウス家にだけ継がれている本だ。書いたのはクレド・シュトラウスだ」
有名だからわかるだろと言われてしまえば頷く。
英雄王と呼ばれたグレン・バルスデ・フォーランの時代から騎士をしており、息子ヴェストリア・バルスデ・フォーランの側近をしていたエルフ。
神聖国との交流を深めたのも彼だと言われている。学校で習う話だ。
本を見てから信憑性は強いと思う。クレド・シュトラウスが書いたかは確認できないが、シュトラウス家にあるなら問題はない。
「借りておきます。それで」
次はと問いかける視線に、急かすなと思う。幼馴染みが絡むだけに気持ちはわからなくもない。
「オーヴァチュア家な、フォルスに聞けばいいだろうに」
「聞きました。けれど、知らないと言うので」
想定外の答えに、伝えていないのかと思い直す。さすがにセルティも知らないことだ。
「これも英雄王の時代になる話だが」
「エルフの血が入った家系になった理由は、フォルスから聞きました」
その後が抜けているのかと頷く。そこにリオン・アルヴァースが関わるからなのだと、理由も察することができるというもの。
ハーフエルフの初代当主となるディアンシ・ノヴァ・オーヴァチュアの妻は、一人のセイレーンだった。
名前はシリン。シリン・メイ・シリウスだと聞けば、やはりとクロエは納得する。
「なんとなく、シリウス家に関わりがあると思ってました」
「なぜ…」
逆にセルティが不思議だと思う。二つの家柄が混ざるとは、今の見た目からはわからないことだ。
「クオンの異変を抑えることができ、それでいて刺激もする。繋がりがあると見るべきです」
「それで、リーナが傍から離れないわけか」
会議以降、常にリーナがいる。それは不思議に思っていたことのひとつだ。
「シリウス家の旧姓は、アルヴァースだ。そこまで言えば、お前ならわかるだろ」
衝撃的な一言にクロエの瞳が見開かれる。
つまり、クオンとリーナは元をたどれば同じところへ繋がるということ。もしそうなら、オーヴァチュア家がそうなったきっかけもわかる。
「ここでもリオン・アルヴァースか…」
彼の子供、もしくは孫がオーヴァチュア家に嫁いだということだ。
「嫁いだのは、娘だ。つまり、シリウス家の初代スレイ・メイ・シリウスの妹」
「詳しすぎません」
怪しむように見るから、仕方ないというようにセルティも見る。
「詳しくて当然だ。俺の家系も同じだからな。シーゼルはとある人物の偽名さ」
旧姓はアルヴァースだと言えば、もう突っ込むのはやめようと思った。なにがでてくるかわからない。
「ひとつ言うが、俺はリオン・アルヴァースには連ならないし、分家みたいなものだから変な力はない」
なるほどとクロエは頷く。それはもう一人のアルヴァースだとわかったからだ。
イクティスや王家しか知らないことだから黙っててくれと言う姿に、これは詫びかと思う。
(確かに、表立って言えることじゃないか)
英雄の家系とは、知られたら面倒かもしれない。
「で、中央の大陸だな。こればかりは、俺が勝手に話していいことじゃない」
(だよな…)
わかっていたが、もしかしたらと思ったのだ。
中央の大陸セレンは神がいるとされている。そこまでは一般に知られていたが、それ以上の情報はない。
だが、王家になら伝わっているかもと思ったのだ。この国は七英雄が建国し、太陽神が関わった国なのだから。
「フィオナに聞くのが一番だな」
(あっさりと言うな…)
団長という肩書きがあっても、さすがに女王と簡単に会える間柄ではない。
(この人、その辺りを忘れてないか)
なにせセルティはいつでも会える間柄だからな、とため息を吐く。
やれやれと訓練へ視線を向ければ、今度はセルティが問いかける番だ。
「俺も聞きたいことがある」
「セルティ様が俺にですか」
自分と違いすべてを知っているだろうハーフエルフが、一体なにを聞きたいというのか。
「お前は何者だ」
射抜くように鋭く見るセルティに、表情を変えなかったのは自分でも褒めたくなった。
「普通の人間ですよ」
「違うな。お前は俺に近い存在だ」
ハッキリと言われた言葉に、逃げ道はないと思う。これは言うしかないだろうかと内心考え出す。
「クロエ様!」
しかし、慌てたようにやってきた副官に救われた。
「どうした?」
「今、伝令がきました! 魔物が騎士団敷地内に現れたと!」
「なっ」
「バカな。どこから…」
冷静なハーフエルフの団長も報告に驚く。
塀に囲まれた国である。中へ入るなら入り口を通るしかないはず。いきなり騎士団敷地内に現れるはずがないのだ。
「場所は?」
「月光騎士団です!」
クロエの問いかけにツヴェルフが答えれば、二人は同時に駆け出していた。
魔物の狙いがクオンだと察したからだ。
.




