クロエの思考
朝陽が射し込む中、寝ぼけた視界に銀髪が見えて慌てたように起き上がる。
あれから五日ほど経ち、その間リーナが泊まり込んでいた。理由はその方が夢を見ないだろうとクロエが言うからだ。
(確かに見なくなったんだが…)
五日も一緒に寝ている。それでもリーナが隣で寝てることに、慣れることはなかった。
惚れてる女の子が隣で寝ている。この状態が中々の生き地獄だとすら思う。
(なにが、昔よく寝てたから問題ないだろ、だよ。ふざけんな)
そうは思うものの、彼女といることで夢を見ない。これが事実であり、助かっている以上は文句も言えなかった。
(けど…無防備過ぎるんだよ! このバカ!)
なにも気にせずに寝ている姿を見ると、もう少し警戒しろと言いたくなるのも仕方ないと言えよう。
夢から解放されたはいいが、今度は自制する苦労がクオンには襲いかかっているのだから。
しかし、彼女がいなければ夢の苦しみが待っている。そちらよりはマシだとも思えた。
明かりが揺らぐ中、クロエが情報を整理していく。すべての話を聞いて瞬時に繋げていくのだ。
副官ツヴェルフから話を聞いていたからこそ、それが行えたとも言うべきだろう。
「夢が七英雄なのは間違いがないな」
「だろ。だから調べようと思ってよ」
城の書庫でイクティスから話を聞いたと聞けば、クロエは不快な気分になる。
おそらく、いや、間違いなく試すような行為をしていると思えたからだ。
「夢の内容は理解した。俺も七英雄は調べてみる」
リオン・アルヴァースをだとは言わなかった。まだ早いと思ったからだ。
(クオンなら受け入れることはできる。だが、今の弱った精神面じゃな)
さすがにクロエでも見たことがない。
異常な早さで騎士になり団長となったクオンが、陰でなにを言われてもここまで精神的なダメージを負ったことはなかったのだ。
とにかく、夢の内容からしても転生による記憶の再生なのはわかった。止めることも抑えることもできない。
(抑える?)
可能かもしれないと考え直す。制御できれば、負担を軽くしながら記憶の再生が可能になるかもしれない。
「夢を見なかったときの話を聞かせろ」
「見なかったとき?」
なにを聞くのかとリーナが言えば、クオンも不思議そうに見る。
「見ないで済む、なにかがあるんじゃないか」
二人が同時にそうかと頷くからため息が漏れた。気付けよ、と言いたかったのかもしれない。
「最初は匂袋だったな」
「リーナの、だよな」
確認するように問いかければ、リーナも頷く。
「ちなみに、普段からリーナが使ってたものか?」
「う、うん…」
それがどうしたのか。自分が持っていたからといって、意味があるようには思えなかった。
そのあとはどのようなきっかけだったか。問いかけられたクオンも、まさかと思いだす。
「リーナが、いた…」
今回もリーナが傍にいてくれた。三回とも彼女が関わっているのだ。
「やっぱり、な…」
二人から視線を向けられ、慌てたのはリーナの方だった。本人にはなにかをしている自覚はないのだ。
見られたところで彼女自身もよくわからない。
「なら、話は簡単だ。リーナがいればいいんだろ」
「えっ?」
「はぁ?」
なにを言うのかと二人がクロエを見れば、ニヤリと嫌な笑みを浮かべる。
「夢を見たくないなら、リーナと一緒に過ごせばいいって話だ。泊まり込むしかないな。なに、昔は一緒に寝てた仲だし、問題ないだろ」
一瞬の静寂と二人の叫び声が室内に響いた。
ちょっと待てと言いたげにするクオンに、じゃあどうするんだと視線だけが問いかける。
永遠と続く夢を見るかと言われてしまえば、言葉に詰まってしまった。あれだけは勘弁してくれと思うから。
「仕方ないわね…」
「いや、待てって…」
なに納得してるんだ、とクオンは冷や汗を流す。彼女が家に泊まり込むなど、生き地獄でしかない。
「一回帰って、荷物だけとってくるわ」
仕方ないと部屋を出ていく姿に確定した生き地獄。ガックシと肩を落とす。
「てめぇ…」
睨むように見上げれば、逆に冷たく睨まれて視線を逸らした。今はなにも言わない方がいいと察したのだ。
「ちょうどいいお仕置きだな。わかってるだろうが、手を出すなよ」
「うっ…」
生き地獄がどれだけ続くのかわからないが、とんでもないお仕置きだと思う。
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